• 寄稿
2023.08.23

相談支援の現場から語る「地域共生社会」とは。

相談支援の現場で感じる複雑な生活課題の現状

私たちの日常には、生活の課題や困難がいろいろあります。高齢者、障がい者、子育て世代など、さまざまな背景を持つ人々が、それぞれ問題を抱えています。2015年からは「生活困窮者支援制度」の導入により、「生活に非常に困っているものの、公的福祉サービスを利用できない人々」への支援が強化されるよう、努力がされてきました。

それにもかかわらず、複雑な問題を持つ人々の数は増え続けています。私が相談支援をしている中でも、次のような、いわゆる「困難ケース」と呼ばれる解決困難な事例に遭遇するようになりました。

  • 家庭環境が複雑で、頼れる身内がいない
  • 老老介護(いわゆる8050問題)で共倒れになる
  • ネットショッピング、ゲーム、ギャンブルなどの浪費が止まらない
  • 経済的困窮で子どもが教育を受けられず、負の連鎖が続く
  • 重度の障がいに対応できるヘルパーが見つからない
  • 介護も育児もどっちもしないといけない
  • 障がいのある人の家族が亡くなったり、要介護状態になって孤立してしまった
  • 引きこもり、ホームレス、ネットカフェ難民になって、支援を求めにくい

相談支援の日々の場面で見る困難なケースは、単なる制度やサービスで解決できるものではありません。また、いくつも複雑な問題を持っている人の中には、誰とも会話をしないまま孤立してしまうケースが多いのが現状です。孤立すると人は閉じこもりがちになり、その結果、ますます支援が必要な人々が見つけられにくくなっています。

課題を抱えている人には、どこに行けばよいかわからず、支援機関に辿り着かなかったり、自己肯定感が低くて「自分なんて支援を受ける価値もない」と思ってしまう人もたくさんいます。一方で、支援する側は、孤立している人に支援を届けたいと思うのですが、彼らがどこにいるのかさえ分からないため、必要な支援をすることがむずかしいのが現状です。

 

専門職だけでなく、地域全体で支える

やっとのことで繋がったとしても、急に相談に来なくなったり、連絡が取れなくなったりすることが珍しくありません。継続的な支援が重要であるにもかかわらず、業務が多忙で、その支援がいつの間にか疎かになってしまうことがあります。

正直なところ、私自身もこの業界で25年以上の経験を持つにも関わらず、キャパオーバーとなって、どうにもできなくなってしまうこともありました。支援者自身もこのような状況に悩んでいるのです。私は、過労で倒れたり、燃え尽きたりして辞めてしまう支援者の姿を何人も見てきました。

支援者一人一人の力は限られています。支援者だけで全ての問題を解決しようとするのは現実的ではなく、総合的なアプローチが必要です。だからこそ、専門職だけではなく、より多くの人々の協力と理解が求められるのです。

こうした中で登場したのが「地域共生社会」という考え方です。

この考え方は、単なる制度やサービスを提供するだけではなく、地域全体で一人ひとりの生活を支え、共により良い生活を築いていくというものです。

厚生労働省の定義する「地域共生社会」とは、人と人、人と資源が世代や分野を超えてつながり、地域住民全員で暮らしと生きがいを共に作り上げる社会のことを指します。この考え方は、社会福祉法にも盛り込まれています。

 

「地域共生社会」という新しい繋がりのカタチ

一昔前までは、自然と地域のつながりの中で生活していました。隣人との助け合い、地域のイベントや行事に参加することは、日常の一部でした。しかし、現代社会においては、テクノロジーの進化や生活スタイルの変化により、SNSを通じて遠くの人々と繋がることが増えて、身近な人々とのつながりは希薄になっています。

地域共生社会は、そのような現代の課題に応え、新しい形のつながりを再び築いていくものです。それは、ただ隣人と挨拶を交わすだけではなく、一緒に地域の問題を考え、行動することです。また、高齢者や障がい者、子どもたちが地域の一員として活躍できるような環境を作っていくことも含まれます。

このような地域共生社会を実現するためには、私たち一人ひとりが地域での役割や責任を持ち、それを果たすことが必要です。支援するのも、支援されるのも、私たち一人ひとりです。その相互の関係性の中で、新しい形の「地域共生社会」を築いていくのです。

 

私たちは何ができるか

そのために、まず私たちが取り組むべきは、自分の地域に目を向けることから始めることです。

  • 近所の公園で開かれるイベントに参加する
  • 地域のボランティア活動に手を伸ばす
  • 地域の子どもたちや高齢者との交流の場を増やす

など、日常生活の中での小さな行動が、大きなつながりを生む第一歩となります。

また、テクノロジーを活用して、地域の情報共有や協力の仕組みを作ることも有効です。地域のLINEグループやFacebookグループを作り、情報やニーズを共有することで、互いに助け合うことができます。地域の課題が明確になり、共同での解決策を見つけていくことが可能になります。

地域共生社会は単に人と人が繋がるだけではなく、それぞれの持つ資源や知識、技術を共有し合い、共に成長していくものです。その実現には、個人の行動だけでなく、行政、企業、学校など、各団体が手を取り合って協力していくことが不可欠です。

 

最後に

地域共生社会は一度のイベントや活動では実現できません。深い絆や共同体意識を築いていくためには、長期的な視点での取り組みが必要です。私たち一人ひとりが地域共生社会の実現に向けて、積極的に行動を起こしていく社会になることを心から願っています。

著:障害者ドットコム代表取締役      川田祐一

 

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