非常に似ているADHDと愛着障がい。ADHDと愛着障がいを見分けるポイントは?
非常に似ているADHDと愛着障がい。ADHDと愛着障がいを見分けるポイントは?
愛着障がいはADHDと同じ症状が起こることがあるため、しばしばADHDだと診断されます。
また、愛着障がいの診断基準で、「愛着障がいだけでは、多動や不注意など行動上の問題は起こらない」とされています。なので、愛着障がいであっても、多動や不注意が見られれば、ADHDだと診断することができるようになっています。この診断基準も、ADHDと愛着障がいの判別をむずかしいものにしています。
愛着障がいはADHDよりも困難を抱えることがあり、誤診を放っておくべきではない障がいです。ADHDと愛着障がいの関係性や、愛着障がいと見分けるポイントをご紹介します。
愛着障がいとADHDの関係性
愛着障がいにも
・落ち着きがなく、じっとしてられない
・ぼーっとしていて、物忘れをしやすい
・コミュニケーションでトラブルを起こす
など、ADHDと非常によく症状があらわれます。
ADHDと愛着障がいはオキシトシンが大きく関係している
オキシトシンとは、幸せな気分になったり、不安やストレスが解消したりする、脳内物質です。幼児期の「愛着」形成にも関わる重要なものであり、家族や人とのかかわりなどで分泌されます。ADHDの多動に作用し、落ち着いてじっとできるように働きかけることができます。
ADHDの方は、このオキシトシンの濃度が低下していると報告されています。
愛着障がいの方も、家族とのふれあいが少なく、このオキシトシンが分泌されにくいので、ADHDの方と似た脳機能の偏りが起こるケースがあります。
脱抑制型の愛着障がいに疑似ADHDが多い
愛着障がいには、虐待やネグレクトなど養育環境に問題があっただけでなく、一般家庭で育てられた場合にも起こります。それぞれ、種類が以下のように異なります。
・脱抑制型・・・誰にでも接近し甘えようとするタイプ
・回避型・・・母親がいてもいなくても無関心
・抵抗/両価型・・・母親の後を過剰に追うけれど素直に甘えられなかったり攻撃的な態度をとったりする
・無秩序型・・・母親の機嫌や様子で大きく変わる
ADHDと関係が深いといわれているのは一番に「無秩序型」、二番目に「回避型」です。
1歳の時点で無秩序型の「母親の機嫌や様子で大きく変わる」傾向が見られた子どもは、7歳になったとき、ADHD症状のスコアが、そうではない子どもとくらべて、非常に高く記録されました。
さらに脱抑制型の愛着障がいには、ADHDと非常によく似た症状が出る疑似ADHDになることが多く報告されています。
ADHDは愛着障がいを引き起こしやすい
ADHDの特性がある子どもは育てにくさから、叱られたり注意されたり、ときには暴言・暴力・ネグレクト(放置)などの虐待を受けやすかったりします。
なので、ADHDが先にある状態の子どもが、虐待やネグレクトを受け、愛着障がいを生じることもあり、診断をむずかしくしています。
愛着障がいよりも発達障がいの方が診断をつけやすい
愛着障がいがとても疑われる場合でも、愛着障がいだと診断が下りないことがあります。
ADHDによって愛着障がいが起きたのか、養育上の問題で愛着障がいが起きたのか、判別しづらいためです。
とくに大人になってから診断を受けた場合、子どもの頃に起こった記憶だけでは、本当かどうか確かめることができず、愛着障がいだと推測するしかありません。
また愛着障がいよりも、発達障害の診断のほうが、家族が受け入れやすいという面もあります。育て方や育った環境に問題があるとするより、発達障がいの「遺伝的な要因」であるほうが、誰の責任も問われないからです。
愛着障がいとADHDを見分けるポイント
愛着障がいは自害や薬物乱用、摂食障害など、命にかかわることも起こりやすいため、ときにADHD者よりも重い困難を抱える方もいます。愛着障がいに気づかず、ADHDにかかわる療法や投薬を受けるのをふせぐ必要があります。
ADHDと愛着障がいを見分けるポイントは以下になります。
- 子どもの頃に愛着が不安定になるような経験をしたのか
- 愛着障がいの特徴的な症状は見られるか
- ASDとADHDの症状が軽度だが見られる
- 親のことを話すときに変化が見られるか
- 神経機能障がいが軽度であるのに、社会適応障害は重いとき
- 環境による変化が見られるか
子どものときに愛着が不安定になるような経験をしたのか
幼児期だけでなく、5歳から12歳程度のあいだに、虐待はもちろん、虐待だと断定しづらい心理的虐待(暴言など)やネグレクトがなかったか、確認する必要があります。
そのほか、家族内のショックな出来事が愛着を傷つけるおそれがあるので、以下のようなことがなかったか、丁寧に思い出してみてください。
・親の離婚や別居、再婚
・夫婦や家族の仲が悪い
・母親のうつや心理的に不安定な状態があった
・幼い頃かつ長期にわたって母親以外に育てられた
・きょうだいの誕生や病気で親の関心を奪われた
愛着障がいの特徴的な症状が見られるか
愛着障がいがあるときに見られる特徴的な症状が見られる場合は、愛着障がいがあるかどうか、十分に調べる必要があります。
・親に甘えられず、本音が言いにくい
・攻撃性や怒りの感情が癖になっている
・わざと困らせる行動をしたり、本心とはちがう素直ではない反応をしたりする
・自害や自分を過度に責めて傷つける
・人に対して不信感がある
・自尊心が低く自分に対して否定的である
・過剰に、周囲から注目を集めようとしたり、自分をアピールしたりする
・自分の感情や自分の存在にたいして現実感が乏しい
・解離症状(記憶や意識が飛ぶ症状)がある
ASDとADHDどちらの症状も軽度だが見られる
愛着障がいがあると、ASDとADHD、どちらの症状も見られ、軽度であるケースが多いです。
ASDかADHDか、判断がつきにくいときや、コミュニケーションや相手の感情を察する能力はあるのに、実際に人とコミュニケーションをとると何らかのトラブルが起きる場合は、愛着障がいを疑ったほうが良いでしょう。
親のことを話すときに変化が見られるか
親のことを話してもらうとき、動揺していたり、感情的になったり、逆にクールな印象になったりするときは、親子関係に何らかの問題が生じている可能性があります。
動揺したり感情的になったりしている様子が見られたら、親子のあいだで解決していない心の傷がある可能性が高いです。不安定型や、過去の心の傷を追ったことが未解決の愛着障がいが疑われます。
逆に感情がなくなり、クールな印象になったり、「問題がなかった」「普通だった」と当たり障りないことを言って深く立ち入らせないようにしていたりする方は、回避型愛着障がいの可能性があります。
神経機能障がいが軽度であるのに、社会適応障害が重い
神経レベルの機能障がいが軽度だけど、社会適応障がいが重いのも、愛着障がいの特徴です。
症状は軽いものなのに、社会適応がうまくいかず、破綻するぐらいに深刻なときは、養育環境に問題がなかったか確認する必要があります。
環境により変化が見られるか
愛着障がいでADHDのような症状が起こっている疑似ADHDの方は、環境の変化で大きく変わることが特徴的です。
愛着を十分に形成できる養育者と出会うと、ADHD症状は薄らいだり、人によってはADHDのような症状がなくなったりすることがあります。環境による大きな変化が見られるかどうかも、しっかり追わなくてはいけない大事なポイントです。
まとめ
愛着障がいとADHDは非常に似た症状を発するので、間違えられやすいです。しかし、愛着障がいが見過ごされると、命にかかわるようなことが起こる可能性が高くなります。
愛着障がいとADHDの違いを十分に検討して、誤診が続くことを防ぐ必要があります。
参考