インクルーシブデザインとは?インクルーシブデザイン導入のポイント
インクルーシブデザインとは?インクルーシブデザイン導入のポイント
共生社会の実現を目指して、「インクルーシブ」という言葉が注目を集めています。また企業に求められるSDGsにも「誰一人取り残さない」という誓いがあり、インクルーシブデザインを重視する企業がふえています。
インクルーシブデザインとはなにか、ユニバーサルデザインとのちがいや、インクルーシブデザイン事例、インクルーシブデザイン導入のポイントをご紹介します。
インクルーシブデザインとは
インクルーシブデザインのインクルーシブは直訳すると「すべてを含めて」「包括した」という意味になります。
私たちの身近なデザインの多くが、多数派の人のために作られています。売れる商品やサービスを重視した結果、大多数の人が使いやすいものをつくろうとするためです。
たとえば、ハサミや、学校の机、身近にあるもののほとんどは、健常者にとっては使いやすく、障がい者や高齢者には使いづらいものとなっています。それらを、障がい者、高齢者、老若男女、すべての人が使いやすく、すべての人のことを考えて作られたデザインを「インクルーシブデザイン」といいます。
インクルーシブデザインとユニバーサルデザインの違いは?
インクルーシブデザインに似たものに、「ユニバーサルデザイン」という言葉があります。「ユニバーサル」という言葉にも、「すべてにも共通の」という意味がありますが、ふたつは原則やデザインの行程に違いがあります。
ユニバーサルデザインは7つの原則
ノースカロライナ州立大学ユニバーサルデザインセンター所長を務めたロナルド・メイス教授らがまとめた「ユニバーサルデザインの基本的な考え方」の7つの原則は以下になります。
②使う上で自由度が高いこと
③使い方が簡単ですぐわかること
④必要な情報がすぐに理解できること
⑤うっかりミスや危険につながらないデザインであること
⑥無理な姿勢をとることなく、少ない力でも楽に使用できること
⑦アクセスしやすいスペースと大きさを確保すること
ユニバーサルデザインは、だれでも使いやすいことを考えて作られるデザインです。原則にもあるように、「だれかの困難を解決すること」よりも「だれでも使いやすいこと」を重視しています。
そのためデザインの行程も、健常者のデザイナーが「だれでも使いやすいデザインはどんなものか」を考えて、デザインをつくっていくようなかたちになります。
インクルーシブデザインの7つの原則
世界的にウェブアクセシビリティのコンサルティングをしているTPGのプロジェクトでまとめられた「インクルーシブデザインの原則」は以下になります。
②状況を考慮する
③一貫性を保つ
④利用者に制御させる
⑤選択肢を提供する
⑥コンテンツの優先順位を付ける
⑦価値を付加する
インクルーシブデザインは、すべての人のために最初から作られるデザインではなく、ひとりのユーザーの困難を、多様性のある視点から解決することから始まります。
そのため、デザインをつくるときに、まず「これを使いづらい人はいるか」を考え、「使いづらい」と感じている人の意見をとりいれながら、さまざまな人が使いやすいようにデザインをつくっていきます。
インクルーシブデザイン事例
企業に求められるSDGsの「誰一人取り残さない」という誓いから、「インクルーシブデザイン」を活用する企業がふえています。
商品の開発のほか、美術館など施設、設備、サービス、ウェブサイトにもインクルーシブデザインの導入がすすんでいます。
花王のワンプッシュ洗剤容器
花王の新しい容器、ワンプッシュで必要な量だけ洗たく洗剤を入れられる仕様は、視覚障がい者や手に軽度のまひがある方、高齢者などの意見をとりいれて開発されました。そして結果、健常者の人たちも使いやすいと感じる商品になり、広く使われるようになっています。
AppleのiPhone
iPhoneはさまざまな人が使いやすいように、障がい当事者や特定のユーザーとディスカッションを重ねて開発されています。たとえば健常者には不要である、「音声を読み上げる機能」を初期から導入しています。さらに、音の大きさやディスプレイの色味などを細かく設定できるところも、さまざまな人のことを考えて作られた「インクルーシブデザイン」を活用しています。
NIKEのハンズフリーシューズ
NIKEは手を使わずに着脱できるシューズを開発しています。障がいをもつアスリートや、靴の着脱が多い日本の文化から考案し、つくられました。すると手が不自由な障がい者だけではなく、妊婦や高齢者、健常者など、さまざまなユーザーが使いやすい商品になっています。
インクルーシブデザイン導入のポイント
現在、多くの商品やサービスにインクルーシブデザインの導入がすすめられています。これからも、共生社会の実現やSDGsを考慮して、ますますインクルーシブデザインが広く求められるようになるでしょう。
インクルーシブデザインを導入するポイントのひとつとして、まず以下を考えることが大事です。
- 自分たちがどのような偏見・固定観念をもっているのか
- このデザインで不便を感じる人はどのような人たちなのか
- 必要のない要素にこだわっていないか
- 誰のためにデザインをしているか
排除されているポイントとユーザーを知る
「このデザインで不便を感じる人」が、デザインを提供する上で「排除されているユーザー」となります。たとえばこのデザインは健常者には使いやすいけれど、障がい者は不便を感じると思う場合は、障がい者が「排除されているユーザー」となります。
またユーザーのほかに、環境や状況なども、排除されているポイントがあります。
静かな部屋では使いやすいけれど、うるさい部屋だと使いづらい。この場合、「うるさい部屋」がデザインの使いやすさの上で「排除されているポイント」になります。
排除されているユーザーやポイントを知るために、多くのインクルーシブデザイン事例にふれることをおすすめします。
身近なデザインのなかでどのようなユーザーが排除されているかどうかを知ることで、自身がデザインをつくるときにも、あらゆる可能性を考えやすくなります。
デザインをする工程からユーザーの意見をとりいれる
インクルーシブデザインの重要な点は、デザインを開発する初期の段階から、排除されているユーザーの意見を実際に聞くことです。「もしかしたら○○は、○○しづらいかもしれない」という想像では、排除されていると考えた対象のニーズに、本当に合った商品がつくれないおそれがあります。
そのため、ユーザーを巻き込んで商品をつくっていくことが大事です。 開発初期から意見を聞いていきましょう。ある程度デザインを開発してから、ユーザーの意見を取り入れようとすると、大幅な修正が入り、デザインの完成がむずかしくなるからです。
排除されているポイント・ユーザーのためだけにデザインしない
排除されているポイント・ユーザーの意見だけを取り入れ、商品をつくってしまうと「インクルーシブデザイン」ではなくなります。
障がい者のためだけにつくると、健常者の人が使いづらいと感じるデザインになってしまいます。
排除されているユーザーの意見は、あくまで偏見や固定観念をこわし、新たな課題を発見したり、ちがった視点からデザインづくりをおこなったりするために取り入れます。そして、より多くの人が利用できるように仕様を広げていきましょう。
まとめ
インクルーシブデザインは、ユーザーの困難を解決することから始まり、より多くの人が使いやすいようにつくられたデザインのことをいいます。
インクルーシブデザインの商品・サービスをつくることで、多くのユーザーが取り残されず、同じような使用体験ができます。また、共生社会にも大きく貢献できるデザインです。インクルーシブデザインの事例に多くふれて、すべての人を含め利用される商品・サービスをつくりましょう。
参考
インクルーシブデザインとは? 言葉の意味やユニバーサルデザインとの違いも解説 | ELEMINIST(エレミニスト)