医療的ケア児とは?現状・問題・支援
医療的ケア児とは?現状・問題・支援
昨年に医療的ケア児とその家族を支援する法律が成立してから、医療的ケア児やその支援について注目が集まっています。
医療的ケア児とはなにか、その現状や問題、支援についてご紹介します。
医療的ケア児とは?
出典:私は“学校”に行きたい~医療的ケア児をどう支えるか~ | NHK政治マガジン
医療的ケア児とは、人工呼吸器など医療的な道具を使用したケアが必要な子どものことです。現在、医療的ケア児の数は2万人以上だとされています。
医療技術が進歩したことによって、これまで助からなかった赤ちゃんも生きられるようになり、医療的ケア児の数は10年程前とくらべると約2倍以上にふえています。
医療的ケア児の「医療的ケア」とは
医療的ケアはさまざまなものがありますが、一部の例としては、「経管栄養」や「気管切開」が挙げられます。
「気管切開」は、疾患で口や鼻がふさがってしまい、自発的に呼吸ができないとき、喉に穴を空け、通気用の管を通して、空気の通り道をつくることです。
医療的な道具を使用する際は、毎日定期的に作業をしたり、万が一の事故をふせぐために細心の注意が必要であったり、障害の程度によっては生活に大きく負担がかかる場合があります。
厚生労働省がおこなった「令和元年度 医療的ケア児とその家族の生活実態調査 報告書」によると、医療的ケア児から5分以上目を離せないと回答した介護者は4割もいることもわかっています。
医療的ケア児の支援の現状
「令和元年度 医療的ケア児とその家族の生活実態調査 報告書」を詳しくみると、看護者に厳しい現状がわかります。
ケアや家事を支援できる人が少ない
医療的ケア児のケアをおこなっている人以外に、ケアやそのあいだの家事などを依頼できる人がいないと回答した人は約4割もいます。
家族形態別で見ると、「ひとり親と子のみの世帯」では7割近くが、ケアを任せられる人がいないと回答しており、看護疲れや支援の不十分さが心配されます。
このほか、家族が抱えている悩みで「登校や施設・事業所を利用するときに付き添いが必要である」に「当てはまる・まあ当てはまる」の回答が6割以上。
「急病や緊急の幼児ができた時に、医療的ケアを必要とする子どもの預け先がない」に「当てはまる・まあ当てはまる」と回答した人が8割以上にもなっています。
医療的ケア児に対応できる事業所が少ない
医療的ケア児が受けられる支援は、児童発達支援や放課後等デイサービス、短期入所などがあります。しかし実際には「医療的ケア児に対応できる事業所」は少なく、厚生労働省による調査で7割以上が「医療的ケア児に対応できる事業所が十分でない」と回答しています。
医療的ケア児が抱える問題
日中の受け入れ先が少ないことや、支援する環境が整っていないことから、医療的ケア児とその家族は以下のような問題を抱えています。
年齢に応じた成長や発達ができない
医療的ケア児を受け入れている施設は少なく、ほとんどを自宅で過ごす医療的ケア児もいます。
すると同年代の友人や家族以外の人との交流をする機会がへり、社会経験が乏しく、年齢に応じた成長や発達ができないおそれがあります。
進学先をえらべない
地元と子どもたちと同じ小学校に通わせたいと思っても、その学校が受け入れを拒否する場合があります。医療的ケアをおこなえる職員が少ない、受け入れ体制が整っていないという問題があります。
保護者の負担が大きい
医療的ケア児を保護者が毎日学校へ送り迎えや、授業中に付き添いをしなければいけない家庭が多くあります。また24時間、看護が必要だという医療的ケア児もいます。小児在宅医療ができる施設も少ないため、親が24時間看護しなくてはいけない状況も起こっています。そして24時間365日、慢性的な寝不足や疲労、命を預かるという責任の重大さに看護疲れを起こしてしまうことも。
厚生労働省の調査への回答でも7割以上が「慢性的な睡眠不足」と回答しています。
看護のために仕事をえらべなかったり、他者と交流する機会がへったりなどして、親が社会的に孤立してしまうことも問題となっています。
医療的ケア児への支援
2021年6月以前までは国や自治体の「医療的ケア児への支援」は、「努力義務」とされており、国や自治体から十分な支援を受けられない家庭もありました。
しかし2021年6月11日、医療的ケア児とその家族への支援に関する法律「医療的ケア児支援法」が可決され、9月に施行されました。
この法律では、まず国や自治体の医療的ケア児への支援は「義務」となりました。そのため、保育所や学校などで、医療的ケア児を受け入れるための支援体制が整えられてきています。
まとめ
医療的ケア児とは、医療的な道具を使用してケアをする必要がある子どものことを指します。まだまだ医療的ケア児への支援は不十分だという現状があり、医療的ケア児の社会経験が乏しくなったり、進学先や将来に関して自由な選択ができなくなっています。
医療的ケア児の看護者もまた、毎日複数回おこなうケアや、命を預かる緊張感で子どもから目が離せず、看護疲れ、就業先をえらべない不自由、社会からの孤立といった問題をたくさん抱えています。
医療的ケアを任せられる人ができることや、医療的ケア児を受け入れられる施設、看護ができる職員がいる保育施設・教育機関をふやすことが求められます。
参考
厚生労働省 医療的ケア児者とその家族の生活実態調査報 告 書