2024.04.16

過去から現代への障がい観の変遷:共生社会への道のり Part5

共生社会に向かう現代社会では、障がいに対する理解が医学的なモデルから生活の中での実際の困難に焦点を移しています。しかし、現行の福祉制度や教育制度では、法律に基づいた枠組みで障がい者を分類しています。

このようなアプローチは、従来の医学的なモデルに近いものです。日本が法治国家であることから、法律によって障がい者支援が行われる仕組みとなっています。身体障がいや精神障がいなどの分類によって、支援の対象者を示しています。

行政などは、特定の分野における支援や対応をするために、障がいの種類に応じて異なるアプローチを取ることがあります。そのため、支援を提供する際には、各障がいに関する一般的な知識だけでなく、支援対象者の個々の特性についても理解する必要があります。

 

国際的な規約である障がい者の権利に関する条約

国内の法律の分類に先立ち、国際的な規約である障がい者の権利に関する条約を見てみましょう。この条約では、全ての障がい者が人権や基本的な自由を享受し、保護されることを目指しています。

障がい者は、長期的な身体的、精神的、知的、または感覚的な機能の障がいによって、他の人々との平等な社会参加が妨げられる場合を含みます。つまり、障がい者の権利に関する条約では、生活モデルを基本としながら、障がいごとに適切な支援や対応を提供する考え方が示されています。すべての人が平等に生活するためには、障壁を克服するための支援が必要です。そのためには、障がいの分類が必要です。

 

日本の法律

日本の法律において、障がい者の支援は大きく全体的な枠組みから始まり、福祉分野と教育分野で障がい者の種類が定められています。障がい者基本法では、身体障がい、知的障がい、精神障がい(発達障がいを含む)、その他の心身の機能の障がいを総称し、日常生活や社会生活に制限を受ける者を障がい者と定義しています。

この法律には、身体障がい者福祉法、知的障がい者福祉法、精神保健及び精神障がい者福祉に関する法律、発達障がい者支援法などが含まれます。教育においても、学校教育法が関連する条文を定めています。さらに、「障がい者総合支援法」では、障がい者を具体的に定義し、その支援の必要性を明確にしています。これらの法律は難解ですが、支援対象を明確にするために必要な説明が含まれています。

 

学校教育法

日本の教育分野では、「学校教育法」によって特別支援学校や特別支援学級の設置が定められています。特別支援学校は、視覚障がい者、聴覚障がい者、知的障がい者、肢体不自由者、または病弱者に対し、学習上や生活上の困難を克服し自立を図るための教育を提供します。さらに、「学校教育法」では、特別支援学級の設置も規定されており、知的障がい者、肢体不自由者、身体虚弱者、弱視者、難聴者、その他障がいのある者に対する教育が行われます。

 

学校教育法施行規則

また、「学校教育法施行規則」によれば、通級指導教室という形態も存在します。この指導は、言語障がい者、自閉症者、情緒障がい者、弱視者、難聴者、学習障がい者、注意欠陥多動性障がい者、その他の障がいのある者に対して、通常の学級に在籍しながら特別な指導を提供します。このように、教育制度では障がいの程度や種類に応じて、様々な支援が行われています。

 

身体障がい者福祉法

身体障がい者福祉法では、障がいの種類が具体的に列挙されており、これに基づいて身体障がい者手帳の交付が行われます。具体的には、視覚障がい、聴覚または平衡機能の障がい、音声機能、言語機能またはそしゃく機能の障がい、肢体不自由、心臓、じん臓または呼吸器の機能の障がい、その他政令で定める障がいが含まれます。そして、身体障がい者福祉法施行令において、政令で定める障がいの具体例が追加されています。さらに、障がい者総合支援法では、治療方法が確立していない疾病やその他の特殊な疾病による障がいも障がい者として規定されています。

 

三つのレベル

法律や規則の階層構造には、「○○法」、「○○法施行令」、「○○法施行規則」の三つのレベルがあります。法律は国会で制定され、施行令は政府によって制定されます。そして、施行規則は各省庁によって定められ、法律や施行令の具体的な運用方法や手続きが定められます。

身体障がい者福祉法の別表には、視覚障がい、聴覚障がい、音声機能、言語機能、そしゃく機能の障がいに関する具体的な基準が示されています。

 

視覚障がいについては、以下のような基準が設けられています。

  • 両眼の視力がそれぞれ0.1以下のもの
  • 一眼の視力が0.02以下で、他眼の視力が0.6以下のもの
  • 両眼の視野がそれぞれ10度以内のもの
  • 両眼による視野の二分の一以上が欠けているもの

 

聴覚障がいについては、次のような基準が示されています。

  • 両耳の聴力レベルがそれぞれ70デシベル以上のもの
  • 一耳の聴力レベルが90デシベル以上で、他耳の聴力レベルが50デシベル以上のもの
  • 両耳による普通話声の最良の語音明瞭度が50パーセント以下のもの
  • 平衡機能の著しい障がい

 

音声機能、言語機能、そしゃく機能の障がいに関しては、以下の基準が設けられています。

  • 音声機能、言語機能、またはそしゃく機能の喪失
  • 音声機能、言語機能、またはそしゃく機能の著しい障がいで、永続するもの

 

肢体不自由に関する基準は、以下のように示されています。

  • 一上肢、一下肢、または体幹の機能の著しい障がいで、永続するもの
  • 一上肢の親指を指骨間関節以上で欠損するもの、または親指を含む一上肢の二本以上の指をそれぞれ第一指骨間関節以上で欠損するもの
  • 一下肢をリスフラン関節以上で欠損するもの
  • 両下肢の全ての指を欠損するもの
  • 一上肢の親指の機能の著しい障がい、または親指を含む一上肢の三本以上の指の機能の著しい障がいで、永続するもの
  • 上記1から5までの基準に合致しないが、その程度がそれらの基準以上であると認められる障がい

 

心臓、腎臓、または呼吸器の機能の障がいについては、以下の基準が設けられています。

  • 心臓、腎臓、または呼吸器の機能の障がいその他政令で定める障がいで、永続的であり、かつ、日常生活に著しい制限を受ける程度のものが該当します。

身体障がい者手帳の交付

これらの基準に合致する障がいがある場合、身体障がい者手帳の交付などの支援措置が行われることになります。

身体障がい者手帳の交付は、身体上の障がいを有する者に対して、都道府県知事、指定都市市長、または中核市市長から行われます。この手帳は、身体障がい者福祉法施行規則別表の身体障がい者障がい程度等級表に基づいて、障がいの種類別に重度から1級から6級の等級が定められています。

 

知的障がい

一方、知的障がい者に関しては、知的障がい者福祉法に法律的な定義はありませんが、「知的障がい者の自立と社会経済活動への参加を促進するため、知的障がい者を援助するとともに必要な保護を行い、もって知的障がい者の福祉を図る」という目的で、児童相談所や知的障がい者更生相談所で知的障がいの判定が行われています。

その結果、都道府県知事から「療育手帳」の交付が行われ、この交付の判定基準が事実上の知的障がいの定義となっています。多くの場合、IQ70か75以下の人を知的障がいとして判定し、さらにIQ50程度とIQ35程度に区切りを設けています。

 

知的障がいに関する定義

知的障がいに関する定義は、世界保健機関(WHO)の「精神及び行動の障がい 臨床記述と診断ガイドライン(ICD-10)」アメリカ精神医学会(APA)の『精神疾患の分類と診断の手引(DSM-5)』によって示されています。

ICD-10では、標準化された知能検査における知能指数が69以下であると定義されています。一方、DSM-5では、知的機能と適応機能の両面での欠陥を含む障がいとされています。

 

精神障がい

精神障がい者については、「精神保健及び精神障がい者福祉に関する法律」で定義されています。統合失調症や精神作用物質による急性中毒またはその依存症、知的障がい、精神病質その他の精神疾患を有する者がこれに該当します。

 

統合失調症

統合失調症は、思春期から青年期にかけて発症し、幻覚や妄想などが特徴的な精神病症状です。ストレスが引き金となることが多いとされています。

精神作用物質による急性中毒またはその依存症は、違法な薬物やアルコール、ギャンブルなどによって引き起こされる精神的な支障を指します。

 

その他の精神疾患

精神病質その他の精神疾患には、認知症やうつ病、双極性障がい、神経症性障がい、ストレス関連障がい、高次脳機能障がいなどが含まれます。これらの疾患は、精神科医療の対象として考えられます。

精神障がい者保健福祉手帳の判定基準は、厚生労働省から各都道府県に出された通知に基づいています。この通知には、以下の項目が含まれています。

  • 精神疾患の存在の確認
  • 精神疾患(機能障がい)の状態の確認
  • 能力障がい(活動制限)の状態の確認
  • 精神障がいの程度の総合判定

 

これらの項目に基づいて、精神障がい者の具体的な状態が記された判定基準の表が作成されます。審査では、この表に基づいて十分な審査が行われ、精神障がい者の日常生活がどの程度困難であるかが判断されます。その結果、日常生活がかなり難しい程度の1級から、一定の制限を必要とする程度の3級までに区分されます。

発達障がい者に関しては、「発達障がい者支援法」によって定義されています。この法律では、以下のような障がいが含まれます。

  • 自閉症
  • アスペルガー症候群その他の広汎性発達障がい
  • 学習障がい
  • 注意欠陥多動性障がいその他これに類する脳機能の障がい

 

さらに、「発達障がい者支援法施行規則」で、「心理的発達の障がい並びに行動及び情緒の障がい」が含まれることが定められています。これは、「事務次官(厚労省と文科省の共同)通知」に基づき、ICD-10に基づいて定義されています。

また、「発達障がい者支援法」では、18歳未満の発達障がいを有する人を発達障がい児と定義しています。

 

複数の障がいを抱える人もいる

障がい者の中には複数の障がいを抱える人もいます。例えば、視覚障がいと肢体不自由、知的障がいと肢体不自由と聴覚障がいなどが組み合わさる場合があります。これを「重複障がい」と呼びます。特に障がいの程度が重い場合には、「重症心身障がい児」や「重度重複障がい者」と呼ばれます。

一般的に、「大島の分類」と呼ばれるものがあります。これは身体の動きと知的能力を軸にして、障がいの重さに応じて1から番号が振られています。

「大島の分類」では、1から4の範囲に入る児童が「重症心身障がい児」とされます。この範囲では以下の特徴が挙げられます。

  • 絶えず医学的管理下に置くべきもの
  • 障がいの状態が進行的であると思われるもの
  • 合併症が多いもの

 

一方で、5から9の範囲に入る児童は「重症心身障がい児」の定義には当てはまりにくいものの、以下の特徴が見られるため、「周辺児」と呼ばれています。

まとめ

障がいの捉え方が共生社会に向けて変化している中で、法律的な障がいの種類や区分について理解することは重要です。障がい者基本法では、身体障がい、知的障がい、または精神障がいが日常生活や社会生活に相当な制限をもたらす者を障がい者と定義しています。そして、それぞれの障がいに対応するための福祉法や支援法が存在します。

学校教育においては、指導や支援の必要度に応じて、特別支援学校、特別支援学級、通級指導などの制度が提供されています。これにより、障がいの種類や程度に応じた適切な支援を受けることが可能です。

医療の分野では、病名や疾患名が障がいの分類と重なることがあります。障がい者の医療ニーズを理解し、適切な診断と治療を提供するために、これらの分類が重要な役割を果たしています。

 

参考

障がいの理解:アシスティブテクノロジー・アドバイザー育成研修用テキスト

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