2024.04.16

過去から現代への障がい観の変遷:Society5.0における障がい者支援の展望 Part4

現代社会において、少子高齢化が進む中、障がい者への支援はますます重要な課題となっています。そこで、Society 5.0の概念が注目されています。Society 5.0では、ICT技術の進化を活用して、経済発展と社会的課題の両立を目指す人間中心の社会が構想されています。特に、この新たな社会の枠組みにおいて、障がい者支援の展望は非常に大きく、革新的な解決策が期待されています。

 

Society5.0とは?

Society5.0は、狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続く新たな社会の概念です。内閣府によれば、Society5.0は「サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会」を指します。この社会像は、日本が目指すべき未来社会の姿として提唱されています。

 

分野を超えた連携が強化

Society5.0では、これまでの情報社会にはなかった問題が解消されます。情報や知識の共有が進み、分野を超えた連携が強化されます。人々が適切な情報を見つけて分析する作業の負担が軽減され、年齢や障がいによる制約も軽減されます。また、少子高齢化や地方の過疎化といった課題に対処する新たな手段が提供されます。

 

持続可能な社会の実現と個人のQOL向上

IoTの普及により、全ての人や物がつながり、知識や情報が共有されます。AIによって必要な情報が適切なタイミングで提供され、ロボットや自動走行車などの技術が課題の克服に役立ちます。このようなイノベーションを通じて、閉塞感が打破され、希望に満ちた社会が実現し、互いを尊重し合う社会や快適な活躍の場が提供されます。

さらに、Society5.0では持続可能な社会の実現と個人のQOL向上が目指されます。地球環境を含む持続可能な社会の運営や、人と技術の調和、全体の最適化と個人の生活の質向上が重視されます。

 

より安全で効率的な移動の実現

Society 5.0では、個人情報の保護が徹底されつつも、共有された情報や環境制御を通じて、個々の障がい者の生活にICTが最大限活かされる社会が想定されています。これまでの情報社会では、個々人のカーナビが人工衛星の情報を利用して目的地に案内していましたが、Society 5.0では、車に装備されたセンサーが環境情報や人の情報、さらに機器の作動情報を読み取り、人工知能によって解析されたビッグデータと照合されて自動運転が可能になります。これにより、個人情報は厳格に保護されながら、より安全で効率的な移動が実現されます。

 

「インクルーシブ」の未来

一方、「インクルーシブ」の未来では、年齢や性別、障がいの有無、国籍、所得などに関わらず、誰もが多様な価値観やライフスタイルを持ちながら、豊かな人生を享受できる「インクルーシブ(包摂)」の社会が想定されています。

例えば、スイッチ1つで切り替わるバーチャル個室や、補助アームやARグラスを装備した高齢者、目や耳が不自由な人でも外国語が苦手でも、自分の選んだメニューで会議の内容を翻訳して自在に伝えるシステムなどが紹介されています。これらの技術により、少子高齢化が引き起こす様々な問題も解決の方向が見えてきます。

 

個々の状態に合わせた支援を提供することが重要

障がいのある人の生活において、Society 5.0は個々の状態に合わせた支援を提供することが重要です。ICFの概念に基づくと、環境要因が大きな影響を与えるため、AIやIoT、ARやVR、ロボットや自動運転などの技術が具体的な問題解決や支援に活用されることが想定されます。支援者は、アクセシビリティや支援技術の知識を持つことが重要です。

 

リアルタイムな自動健康診断や健康促進

Society 5.0における医療や介護は、個々のリアルタイムな生理計測データや医療現場の情報、医療・感染情報、環境情報などをAIが解析することで、高度な医療の提供が可能となります。リアルタイムな自動健康診断や健康促進、病気の早期発見などが実現し、医療機関間での生理データと医療データの共有により、どこでも快適な治療が受けられることが期待されます。

 

医療ロボットや介護ロボット

医療ロボットや介護ロボットによる支援が進むことで、事業者と利用者の双方の負担が軽減され、生活支援を受ける障がい者や高齢者が1人での生活をより快適に送ることが期待されます。しかし、このような取り組みにはいくつかの問題があります。

 

合理的な配慮の提供が日本ではまだ遅れている

総務省IoT新時代の未来づくり検討委員会(高齢者・障がい者WG)のまとめでは、社会の側における障がいへの意識変革が不可欠であるとされました。ICFの概念である「障がいは心身の機能のみに起因するものではなく、社会におけるさまざまな障壁と相対することによって生ずる」という「社会モデル」の考え方に基づき、社会的障壁の除去や合理的な配慮の提供が日本ではまだ遅れています。

当事者の具体的な情報を共有

社会の意識を変えるためには、障がいのある方が地域で暮らし、子供の頃から障がいについて偏見のない理解を身につけるための情報、教育、経験の機会が必要です。また、社会的障壁をなくすためには、疑似体験だけではなく当事者の具体的な話を聞くことが重要です。研究成果によれば、当事者の具体的な情報を共有するためには、IoTやAIなどの技術の活用が有効であるとされています。

 

障がいのある当事者の視点を考慮することが重要

障がいのある当事者の視点を考慮することが重要であると指摘されました。ICT関連の製品やサービスを開発・提供する側においても、障がいのある当事者の視点を取り入れることが必要であり、障がいに関する情報の共有や障がいのある当事者が参加する機会を確保することが求められています。

さらに、障がい者が「夢」や「希望」を実感できる社会を実現するためには、「ボランティア」や「かわいそう」といった意識ではなく、障がい者の人権の確保や尊厳、自律・自立の尊重を促進し、障がい者が社会の対等な一員であることを実感できるような社会の構築が必要です。

 

IoTやAIなどの技術の活用が不可欠

さらに、障がい者のICT利活用支援の環境整備においては、障がい者ごとに異なる障がいの特性や状態、生活実態に対応するために、製品やサービスの利用方法に多様性のある対応が必要です。

そのため、IoTやAIなどの技術の活用が不可欠です。また、これまでの視覚や聴覚、身体障がいに限定されないように、精神的、発達的、知的な障がいや難病にも対応できるような関連技術の開発が強化されるべきです。

 

すべての人が共通して使えることが重要

さらに、ICT製品やサービスの開発・提供においては、障がいの有無に関わらず、すべての人が共通して使えるという考え方が重要です。このような考え方は、事業者の努力だけでなく、政府における公共調達においても配慮されるべきであり、政府によるアクセシビリティに配慮した機器やサービスの採用が必要です。

 

支援者向けの技術の開発

新たなICT製品やサービスの開発・提供においては、個々の障がい特性に応じた支援技術との連携や、アクセシビリティ規格への準拠、アクセシビリティAPIの実装が重要です。また、障がい者を支援する者の負担を軽減するために、支援者向けの技術の開発も検討されるべきです。さらに、障がいを支援する者のICTやIoTへの理解を促進する取組みも必要です。

 

ICTやAIを最大限に活用するために

障がいのある人がICTやAIを最大限に活用できるようにするためには、製品やサービスにおける情報アクセシビリティの確保が必須です。これに関連し、政策的な強化が求められます。

また、ICTやAI時代の到来に備えて、地域などでの利活用スキルの習得を支援する仕組みの充実や、人材の確保が重要視されています。さらに、遠隔教育やメンタリングなど、技術的な支援と人的な支援を組み合わせることも必要です。

 

配慮した就労機会を創出する取り組みが重要

就労支援においても、障がいのある当事者の視点から業務プロセスを改善し、配慮した就労機会を創出する取り組みが重要です。

AIの活用により、人間関係や状況判断に困難を抱える人の意思疎通を支援することも必要です。このような取り組みが、障がいのある人々の生活や就労の質を向上させることにつながります。

 

テレワークの促進

テレワークの促進は、障がいや病気のある人が働く機会を増やす可能性が高いため、その促進とともに、テレワークに必要なICTスキルを身につける支援も行われるべきです。行政、学校、事業者などが連携し、障がいや病気があっても多様な働き方ができることを紹介し、就労マッチングを行うことが重要です。

 

ICT利活用の支援策として重要

ICTを活用した学校教育においても、教員のICT知識が限られている場合や機器トラブルへの対応が困難な場合があります。このため、IoTやAIを活用した教員支援策や外部人材の活用など、地域における人材確保の仕組みが必要です。また、高等教育における遠隔教育や教材開発も、ICT利活用の支援策として重要です。

 

国内外で共通の環境を構築することが重要

障がい者の日常生活を支援する製品やサービスの開発においては、使いやすさを確保するための環境整備が必要です。国際的な標準化を進め、国内外で共通の環境を構築することが重要です。さらに、障がい者の移動をサポートするアプリの提供も重要視されています。これらの取り組みによって、障がい者の生活や就労環境が改善され、社会参加が促進されることが期待されます。

 

障がい者の数の増加

少子高齢化が進む現代社会では、障がい者への影響も深刻化しています。高齢化に伴い、身体的な機能の低下や認知機能の衰えが増加し、障がい者の数も増えています。このような状況において、Society5.0がもたらす可能性は大きいと考えられます。

 

障がい者の生活支援や社会参加を促進することが期待

Society5.0では、ICT技術の進化を活用して、障がい者の生活支援や社会参加を促進することが期待されます。具体的には、自動運転技術やロボット技術の発展により、移動の自由や日常生活の支援が向上することが期待されます。また、AIやIoTを活用した医療・介護サービスの充実や、テレワークの普及により、障がい者の就労や社会参加の機会が拡大する可能性もあります。

 

アクセシビリティが向上することが期待される

さらに、Society5.0においては、障がい者の声がより積極的に取り入れられることが期待されます。障がい者のニーズや要望に基づいて、製品やサービスが開発され、社会のあらゆる側面でアクセシビリティが向上することが期待されます。

これらの取り組みにより、障がいや病気のある人々がより良い暮らしを送ることができる社会の実現に向けて、Society5.0が貢献することが期待されます。

まとめ

Society 5.0においては、ICT技術の進化を活用し、障がい者の生活支援や社会参加がより効果的に促進される可能性があります。自動運転技術やロボット技術の進歩により、移動の自由や日常生活の支援が向上し、AIやIoTを活用した医療・介護サービスの充実やテレワークの普及により、障がい者の就労や社会参加の機会が拡大する見込みです。

さらに、障がい者の声が積極的に取り入れられ、製品やサービスが障がい者のニーズに適切に対応することで、社会のあらゆる側面でアクセシビリティが向上することが期待されます。これらの取り組みにより、障がいや病気のある人々がより豊かな生活を送ることができる社会の実現に向けて、Society 5.0が貢献することが期待されます。

 

参考

障がいの理解:アシスティブテクノロジー・アドバイザー育成研修用テキスト

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