2024.09.02

精神遅滞(知的障がい)とは?概要とその診断基準、最新の知見と支援の必要性

知的障がいは精神遅滞とも表される、知的発達の障がいです。最新の「精神疾患の診断・統計マニュアル 第5版(DSM-5)」では、「知的能力障がい(知的発達症)」とも表記されています。

知的機能や適応機能に基づいて判断され、重症度により軽度、中等度、重度、最重度に分類されます。様々な中枢神経系疾患が原因となるため、正しい診断を受けて、早期に治療・療育・教育を行う必要があります。本人のみならず、家族への支援も欠かせない発達障がいのひとつです。

 

知的障がいとは

知的能力障がい(ID: Intellectual Disability)は、医学領域の精神遅滞(MR: Mental Retardation)と同じものを指し、論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、学校や経験での学習のように全般的な精神機能の支障によって特徴づけられる発達障がいの一つです。

 

発達期に発症し、概念的、社会的、実用的な領域における知的機能と適応機能両面の欠陥を含む障がいのことです。すなわち「1. 知能検査によって確かめられる知的機能の欠陥」と「2. 適応機能の明らかな欠陥」が「3. 発達期(おおむね18歳まで)に生じる」と定義されるものです。中枢神経系の機能に影響を与える様々な病態で生じうるので「疾患群」とも言えます。

 

適応機能を総合的に評価する必要がある

有病率は一般人口の約1%であり、年齢によって変動します。男女比はおよそ1.6:1(軽度)~1.2:1(重度)です。知的機能は知能検査によって測られ、平均が100、標準偏差15の検査では知能指数(Intelligence Quotient, IQ)70未満を低下と判断します。しかしながら、知能指数の値だけで知的障がいの有無を判断することは避けて、適応機能を総合的に評価し、判断するべきです。重い運動障がいを伴った重度知的障がいを「重症心身障がい」と表記することもあります。

 

適応機能とは、日常生活でその人に期待される要求に対していかに効率よく適切に対処し、自立しているのかを表す機能のことです。たとえば食事の準備・対人関係・お金の管理などを含むもので、年長となって社会生活を営むために重要な要素となるものです。

知的障がいの特徴

精神遅滞(知的障がい)とは、精神の発達が停止あるいは不全の状態で、認知や言語、運動、社会的能力に障がいがあることを言います。学校での学習や日常の経験から学ぶ精神機能が十分に育たず、学業や仕事、社会参加に適応できない、または難しい状態にあります。純朴で、他者に感化されやすい傾向があるため、だまされたり、身体的・性的虐待の被害に遭ったりする危険性も伴います。場合によっては、本人が意図せずにして犯罪に関与してしまうこともあり得ます。

 

コミュニケーションが難しい傾向

精神遅滞は、軽度・中等度・重度・最重度の4段階に分かれ、段階によって障がいの現れ方などが異なります。 軽度精神遅滞は、いわゆる「IQ」(知能指数)が50~69の範囲にあたります。主な困難は学校での勉強で、とりわけ読み書きが苦手なケースが多くみられます。情緒や社会性が著しく未熟な場合は、結婚や育児が難しいことも少なくありません。会話する能力や言語は年齢相応に期待されるよりも未熟で、コミュニケーションが難しい傾向があります。相手の話を正確に理解することが難しい可能性があります。

 

しかし、社会的不利を補うように考案された教育を受けることで、能力を向上させ、小学6年性程度の学力を得ることができます。言語習得が幾分遅れるものの、多くの場合、日常生活に必要な会話ができます。発達の進度が正常よりかなり遅いとしても、食事や洗面、着替え、排泄など身のまわりのことは自分でできます。成人してから仕事に就いたり、結婚し、家族を持ったりする人もいます。学校での勉強はうまくできないとしても、実地の能力が求められる仕事では、潜在的能力を発揮しやすいと言われています。

 

知的障がいの診断

症状が重ければ年齢の若いうちから気づかれ、軽いと診断も遅くなります。幼児期には言葉の遅れ、たとえば言葉数が少ない・理解している言葉が少ないといった症状から疑われます。また合併症が先に気づかれて、後に知的障がい(精神遅滞)とわかることもあります。

 

診断にあたっては、症状の評価とともに原因疾患の有無を調べる必要があります。原因としては、染色体異常・神経皮膚症候群・先天代謝異常症・胎児期の感染症(たとえば先天性風疹症候群など)・中枢神経感染症(たとえば細菌性髄膜炎など)・脳奇形・てんかんなど発作性疾患があげられ、多岐にわたっています。

 

どの検査をどこまで行うかは、お子さんの症状に基づいて決定されます。すなわち日常の生活の様子や保護者の訴え、なによりも本人の診察所見を総合して決まるもので、ケース・バイ・ケースと言えるでしょう。知的評価に加えて、粗大運動能力・微細運動(手先の操作性)・社会性・言語の理解や表出の力も、診断に際して大切な情報となります。

 

福祉サービスなどを受けるための療育手帳

医学的な診断は上記の基準でなされますが、知的障がいに対する福祉的な捉え方には変化が生じています。それは知的な能力と日常生活における活動能力は必ずしも並行したものではなく、個人ごとに必要な援助は異なることが指摘され、必要な援助の様式と強さによって、知的障がいを分けていこうとする立場です。福祉サービスなどを受けるための制度として、療育手帳があります。

 

知的障がい児・者に対して、一貫した指導・相談等が行われ、各種の援助措置を受けやすくすることを目的に、都道府県・指定都市が交付しているもので、窓口は市町村、管轄の児童相談所、障がい者センター等となり重症度が判定されます。申請条件はお住まいの都道府県によって若干異なることもあるので、確認する必要があります。

 

日常生活の適応機能は3つの領域、すなわち下記の概念的領域、社会的領域、実用的領域の状態で示すことが指示されています。日常生活・学校・職場など多方面における機能状態の困難さ、支援の必要性を評価した上で判断する必要があります。

 

  • 概念的領域:記憶、言語、読字、書字、数学的思考、実用的な知識の習得、問題解決、および新規場面における判断においての能力についての領域
  • 社会的領域:特に他者の思考・感情・および体験を認識すること、共感、対人的コミュニケーション技能、友情関係を築く能力、および社会的な判断についての領域
  • 実用的領域:特にセルフケア、仕事の責任、金銭管理、娯楽、行動の自己管理、および学校と仕事の課題の調整といった実生活での学習および自己管理についての領域

 

わが国における適応行動評価の客観的尺度として最近、日本版Vineland-II適応行動尺度が発行されました。対象年齢は0歳から92歳までで、幅広い年齢層における適応行動を明確に得点化でき、コミュニケーション、日常生活スキル、社会性、運動スキルの4つの適応行動領域に分けて評価します。

 

原因

精神遅滞の原因は多岐にわたり、特定できないことも多いとされます。主立ったものに下記があります。 

  • 出生前の病因:遺伝子の病気(例:遺伝子の配列変異またはコピー数多型、染色体疾患)、先天性代謝異常、脳形成異常、母胎疾患(胎盤疾患を含む)や、環境の影響(例:アルコール、他の薬物、毒物、催奇性物質)など。
  • 出生後の要因:低酸素性虚血性傷害、外傷性脳損傷、感染、脱髄性疾患、けいれん性疾患、深刻で慢性的な社会的窮乏、および中毒性代謝症候群や中毒(例:鉛、水銀)など。

 

有病率

精神遅滞の有病率は一般人口の約1%で、年齢によって変化します。女性よりも男性に多く、伴性遺伝子要因や男性の脳損傷に対する脆弱性が、性差の原因かもしれないと考えられています。しかし、報告された研究によって性差は大きく変動します。なお、精神遅滞の中でも、軽度精神遅滞はおよそ85%と、大部分を占めます。

 

経過

生後、心身が発達する「発達期」のうちに発症します。一般に、未就学の年齢では、社会技能や意思疎通に問題がないように見えます。しかし、年齢を重ねるにつれて、抽象化能力の乏しさや、自己中心的な思考などの認知面での問題が顕著になり、同年代のほかの子どもとの違いがわかるようになります。小学校1~2年生になる頃に診断される傾向があります。意思疎通がスムーズでなく、自尊心が低く、他者に対して依存的な傾向があるため、成人して仕事の技能を身につけても、社会に溶け込むことが困難だとされています。

 

診断基準:ICD-10

もし適切に標準化されたIQ検査が用いられる場合、50から69の範囲が軽度の遅滞にあたります。言語の理解と使用はさまざまな程度で遅れる傾向があり、自立への発達を妨げる言語使用上の問題は、成人期まで持続することがあります。

器質的病因は少数の方にのみ確認されるにすぎません。自閉症、その他の発達障がい、てんかん、行為障がい、あるいは身体障がいなどの合併症はさまざまな割合で見出されます。もしこのような障がいが存在する場合は、独立にコードするべきです。

 

診断基準:DSM-5

知的能力障がい(知的発達症)は、発達期に発症し、概念的、社会的、および実用的な領域における知的機能と適応機能の両面の欠陥を含む障がいです。以下の3つの基準を満たさなければなりません。

 

  • 臨床的評価および個別化、標準化された知能検査によって確認される、論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、学校での学習、および経験からの学習など、知的機能の欠陥。 
  • 個人の自立や社会的責任において発達的および社会文化的な水準を満たすことができなくなるという適応機能の欠陥。継続的な支援がなければ、適応上の欠陥は、家庭、学校、職場、および地域社会といった多岐にわたる環境において、コミュニケーション、社会参加、および自立した生活といった複数の日常生活活動における機能を限定します。 
  • 知的および適応の欠陥は、発達期の間に発症します。 

 

重症度:軽度

  • 概念的領域

就学前の子ども達においては、明確な概念的な差が見られないこともあります。学齢期の子どもや成人においては、読字、書字、算数、時間や金銭などの学習技能を身につけることが難しく、年齢相応に期待されるものを満たすために、1つ以上の領域で支援が必要となります。

成人においては、学習技能(読字や金銭管理など)の機能的な使用と同様に、抽象的思考、実行機能(例えば計画、戦略、優先順位の設定、認知的柔軟性)や短期記憶が障がいされることがあります。同年代の人々と比較すると、問題およびその解決法に対して、やや固定化されたアプローチが見られることがあります。


  • 社会的領域

定型発達の同世代と比べて、対人相互反応において未熟な場合があります。例えば、仲間の社会的な合図を正確に理解することが難しいことがあります。コミュニケーション、会話、および言語は、年齢相応に期待されるよりも固定化されているか未熟であることがあります。

年齢に応じた方法で情動や行動を制御することが難しいかもしれません。この困難は社会的状況において仲間から気づかれることがあります。社会的な状況における危険性の理解は限られており、社会的な判断は年齢に比して未熟であるため、他人に操作される危険性(だまされやすさ)があります。


  • 実用的領域

身のまわりの世話は年齢相応に機能することがあるかもしれませんが、同年代と比べて、複雑な日常生活上の課題ではいくらかの支援が必要となることがあります。成人期においては、通常、食料品の買い物、輸送手段、家事や子育ての調整、栄養に富んだ食事の準備、そして銀行取引や金銭管理などにおいて支援が求められます。

娯楽技能は同年代の人たちと同等であるものの、娯楽に関する福利や組織についての判断には支援が必要となることがあります。成人期には、競争が少なく、概念的な技能に重点を置かない職業に雇用されることがしばしば見られます。一般的に、健康管理上の決断や法的な判断を下すこと、そして技能を要する仕事をうまくこなすことには支援が必要です。子育てにも一般的に支援が必要とされます。

※参考文献

『ICD-10 精神および行動の障がい 臨床記述と診断ガイドライン(新訂版)』(医学書院)

『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)

『カプラン 臨床精神医学テキスト』(メディカルサイエンスインターナショナル)

まとめ

ほとんどの知的障がいにおいて、基礎にある障がいそのものを改善させることは難しい状況です。しかし恵まれた環境下においては適応機能などが向上する可能性は十分あります。早期に発見され適切な療育が施された場合、長期的予後は改善するとされています。本人のみならず家族への支援も欠かせないと考えられます。

 

知能やその遅れに関する知識の啓蒙や教育を当事者のみならず一般社会に行うこと、家族や遺伝に関するカウンセリングがなされることも有用と思われます。出生前後の適切な医学的対応や生後の様々な福祉的・教育的支援(特別支援教育)は、知的障がいや二次的な合併症(二次障がい)を最小限にとどめることに役立つと思われます。

 

参考

軽度精神遅滞[知的障がい]|ハートクリニック

知的障がい(精神遅滞)|e-ヘルスネット

 


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