2024.08.29

盲導犬と共に生きる視覚障がい者への理解とサポートの現状と課題

目が見えない、見えにくい視覚障がい者にとって、外出はなかなか気軽にできることではありません。そういった方々の大事なパートナーが盲導犬です。盲導犬は目的地に無事にたどり着けるようにするだけでなく、自立や社会参加を促す重要な役割も担っているのです。

しかし、一般的に「盲導犬について知る機会」というのはあまり多くありません。今回、公益財団法人日本盲導犬協会の広報・コミュニケーション部に所属する奥澤優花(おくざわ・ゆか)さんに、盲導犬やそれを取り巻く環境についてお伺いしました。

 

視覚障がい者を支える盲導犬の主な役割

――「盲導犬の役割は、視覚障がい者のサポート」と認識している人は多いかと思いますが、具体的にどのようなサポートをしているのでしょうか?

奥澤さん(以下、敬称略):具体的なサポートの内容は日本国内に11カ所ある盲導犬育成団体により細かく異なるのですが、多くの盲導犬は視覚障がい者に、道の曲がり角や交差点、段差、障がい物といった歩行に必要な情報を伝えるよう訓練されています。なかには、駅の改札口や建物の扉の前まで誘導する盲導犬もいます。

よく、「盲導犬が道順を覚えて目的地まで連れて行ってくれる」と思われがちなのですが、そうではありません。道順を覚えるのは視覚障がい者の役割です。盲導犬はその道中にある情報を伝えることがメインとなります。

 

――体の不自由な人をサポートする介助犬というものもありますよね。盲導犬とはどのような違いがあるのでしょうか?

奥澤:介助犬と盲導犬は、障がい者をサポートするという意味では似ています。しかし、日本では盲導犬、介助犬、聴導犬の3種を「身体障がい者補助犬(補助犬)」と総称しており、それぞれで役割が異なります。

介助犬は、肢体不自由者にペットボトルや携帯電話を持ってくる、落としてしまった物を拾うなど、日常生活動作のサポートが主な役割です。

聴導犬は、玄関のチャイム音、車のクラクション、非常ベルなどの音を聞き分け、聴覚障がい者に伝える役割を担っています。

 

――盲導犬は補助犬の一種なんですね。盲導犬になれる犬種は限定されているのでしょうか?

奥澤:盲導犬になれる犬種に決まりはありません。ただ、盲導犬が止まったときや、障がい物を避けて知らせるとき、小型犬だと人間の力が勝ってしまうため、犬の動作が人に伝わらないことがあります。その点では大型犬が盲導犬になりやすいですね。

また、人とコミュニケーションを取ることから、もともと猟犬であった犬種が多いようです。盲導犬の大半ががラブラドール・レトリーバーで、他にもゴールデン・レトリーバーやシェパード、コリーなどが活躍しています。

 

盲導犬の育成に欠かせない、ボランティアの存在

――盲導犬として活動するためには、さまざまな訓練が必要だと思うのですが、どのような育成をしているのでしょうか?

奥澤:盲導犬の候補犬は、盲導犬協会が所有している繁殖犬や、他の協会、海外の繁殖犬との交配によって生まれます。生後2カ月から1歳頃まではパピーウォーカーというボランティアに預け、人と一緒に安心して暮らすための関係づくりと家庭でのルールを学んでいきます。

パピーウォーカーとの触れ合いを通して、犬たちは人と一緒にいることが大好きになっていく、とても大切な期間です。その後、候補犬はパピーウォーカーから離れ、盲導犬としての訓練が始まります。

 

――盲導犬になるための訓練期間はどれくらいですか?

奥澤:平均で約1年かかり、盲導犬としてデビューするのは2歳頃からですが、訓練期間は犬によってさまざまですね。例えば、覚えが早い犬もいれば、少しずつ覚えていく犬もいるように、性格はそれぞれです。

訓練士はそれぞれの犬に合わせた訓練計画を立てて育成しています。しかし、候補犬の全頭が盲導犬になるわけではありません。訓練中に性格面や健康面において盲導犬には向かないと判断した犬は、キャリアチェンジ犬と呼び、一般家庭に譲渡しています。盲導犬になる犬は約3~4割です。

 

――盲導犬になる頭数が意外と少ないことに驚きました。育成に携わるボランティアの数は、どれくらいいるのでしょうか?

奥澤:2024年4月の時点で約3,000人、ボランティアに参加していただいています。活動内容は、盲導犬の親犬を飼育する「繁殖犬飼育ボランティア」、盲導犬候補の子犬を飼育する「パピーウォーカー」、盲導犬にならなかった犬を飼育する「キャリアチェンジ犬飼育ボランティア」、引退した盲導犬を飼育する「引退犬飼育ボランティア」とさまざまです。

しかし、盲導犬同様に、ボランティアの人数も決して多くはなく、盲導犬の育成を安定的に継続させるには難しいのが現状です。

 

――盲導犬の飼育ボランティアをやってみたいけれど、犬を飼うことが初めてで不安がある人は多いと思います。そういう方でもボランティアは可能なのでしょうか?

奥澤:単身世帯ではない、留守がちでないなどの一定の条件を満たしていれば、どなたでも可能です。家族で何かのボランティアをしたいと思い、盲導犬のパピーウォーカーになる選択をした方もたくさんいらっしゃいますよ。

パピーウォーカーの期間は1年と短期であるため、ぜひ多くの方にボランティアに参加していただきたいですね。

 

盲導犬の店内受け入れ拒否や視覚障がいリハビリテーションの認知不足解消が課題

――視覚障がい者にとって大切な盲導犬ですが、お店側からの受け入れ拒否もあると伺っています。

奥澤:そうですね。2023年に行った当協会の調査だと、「盲導犬の受け入れを拒否されたことがある」と回答した人が44パーセントいることが分かりました。その多くは飲食店で、次点で公共交通機関となっています。コロナ禍に受け入れ拒否の割合は一時的に減りましたが、依然として多いのが現状です。

 

――受け入れ拒否にあってしまう要因は何でしょうか?

奥澤:私たちは、多くの人が「身体障がい者補助犬法」を知らないこと、また特別な対応が必要なのではないかと不安になってしまうことが要因だと考えています。

協会にも問い合わせを頂くことがありますが、多くの場合「盲導犬は店内では足元で静かに待機します。安心して受け入れてください」とお伝えすると、ご理解いただけます。盲導犬ユーザーからも、「お店から出るときには、店員さんから『本当にいい子ですね。また来てください』と言ってもらえた」という話を聞くことがあり、少しずつ理解は広まりつつあると思います。

 

――そのほか、日本盲導犬協会が課題と感じているところはありますか?

奥澤:視覚障がい者の中には、「どうすれば盲導犬の申請ができるのかが分からない」という方も多くいらっしゃいます。

盲導犬の申請に限ったことではなく、協会には「身体障がい者手帳の取得方法が分からない」、「これから目が見えなくなっていく中で、どのような福祉サービスがあるのか知っておきたい」「そもそもどこに問い合わせたらいいのかが分からない」といったさまざまな相談が寄せられます。

 

そのような方に情報を届け、困り事の解消へ向け対応をするため、当協会には視覚障がいリハビリテーションの専門部署があります。盲導犬歩行だけでなく、生活全般のリハビリテーション訓練も行いますが、場合によっては、ご本人のお住まいの地域にある関係機関をご紹介することもあります。

情報提供をすると「もっと早く知りたかった」と話す方が多く、視覚障がい当事者に情報が行き届いていないことを痛感します。どんな些細なことでも、気軽にご相談いただけるとうれしいです。

 

――盲導犬の施設のことは知っていても、そういった窓口があることは知りませんでした。盲導犬の受け入れ拒否やボランティア不足、視覚障がい者への情報不足を解消するため、協会全体で取り組んでいることはありますか?

奥澤:現在、企業や行政、学校に向けてセミナーや講演などを行っています。近年は学校の教科書に盲導犬に関する内容が掲載されるようになったり、学校に訪問して実際に授業を行ったりする回数も増えています。2023年は年間で300校以上、オンラインの講習を合わせると450校ほど開催しました。

また、土日は大型商業施設でイベントを開き、盲導犬の役割を紹介するデモンストレーションや資料配布を行いながら、盲導犬や視覚障がい者をより身近に感じていただけるように取り組んでいます。

「手伝いましょうか?」の一声が、誰ひとり取り残さない社会につながる

――盲導犬への接し方が分からないという人もいるかと思います。接し方について教えてください。

奥澤:犬に接する必要はありません。盲導犬を見かけると、触る、口笛を吹く、食べ物をあげようとする方もいるかもしれませんが、盲導犬の気を引くようなことは避けていただけるとうれしいです。

盲導犬は人がとても好きなので、初対面の人でも友好的に接してしまいます。それが段差や交差点の近くだったら、思わぬ危険につながるかもしれません。彼らの仕事を妨げないようにそっと見守ってあげてください。

 

――盲導犬と視覚障がい者が、今より過ごしやすい社会を目指す上で、必要な一人一人の行動はなんでしょうか?

奥澤:視覚障がい者や盲導犬など、普段あまり接する機会がない人がいざ目の前にしたとき、どうすればいいか分からないのは当然だと思います。しかし、受け入れ拒否のように「分からないから拒む」というのは、残念に思います。

もし交通量の多い交差点で盲導犬を連れている人や、白杖を手にしている人を見かけたら、ぜひ自ら「何かお手伝いしましょうか?」「お困りごとはありませんか?」と声をかけていただきたいです。

声をかけ、コミュニケーションが生まれることで、初めて視覚障がい者にも配慮された社会が広がっていくと思います。

 

盲導犬と視覚障がい者のパートナーシップ:目の代わりだけでない、その役割と重要性

盲導犬とは?

盲導犬は、視覚障がい者が安全に生活できるようにサポートする特別な訓練を受けた犬です。視覚障がい者にとって、盲導犬は単なる補助具ではなく、信頼できるパートナーであり、日々の生活に欠かせない存在です。盲導犬の役割は、視覚に障がいがある人が外出時に安全に歩行できるよう、道案内をすることにとどまりません。道の段差や障がい物、信号の変わり目を知らせたり、公共交通機関への乗り降りをサポートしたりするなど、多岐にわたるサポートを提供します。

 

盲導犬の訓練と適性

盲導犬になるためには、特別な訓練と適性が求められます。盲導犬候補となる犬は、通常、ラブラドール・レトリーバーやゴールデン・レトリーバー、またはそのミックス犬種が多く選ばれます。これらの犬種は、温厚で従順、かつ訓練性が高いという特性があり、盲導犬に適しています。

 

盲導犬は、生後約2ヶ月から「パピーウォーカー」と呼ばれるボランティア家庭で育てられ、基本的な社会性と家庭でのルールを学びます。その後、盲導犬訓練施設に戻り、盲導犬としての専門的な訓練を受けます。この訓練には、視覚障がい者の指示に従う基本的な技術に加え、特定の状況で自ら判断して行動する「インテリジェント・ディスオビディエンス(賢明な反抗)」と呼ばれる能力も含まれます。この能力により、例えば、指示された行動が危険であると判断した場合、盲導犬は指示を無視し、別の行動を取ることが求められます。

 

盲導犬と視覚障がい者の信頼関係

盲導犬と視覚障がい者との間には、深い信頼関係が築かれます。盲導犬は視覚障がい者の目となり、安全を守るために常に注意を払っています。そのため、視覚障がい者にとって盲導犬は、単なるガイド以上の存在であり、生活の中で不可欠なパートナーです。この信頼関係を築くために、視覚障がい者と盲導犬は一緒に訓練を受ける期間が設けられ、互いに理解を深めるプロセスが行われます。

 

盲導犬が視覚障がい者の生活を大きく支える一方で、盲導犬自身も愛情とケアを受けることが非常に重要です。視覚障がい者と盲導犬の関係は、一方的なものではなく、互いに支え合うパートナーシップとして成り立っています。

 

盲導犬と社会の理解

盲導犬は法律によって保護されており、視覚障がい者が盲導犬と共に公共の場所や交通機関にアクセスする権利が認められています。しかし、盲導犬に対する理解や受け入れが十分でない地域や状況も依然として存在します。例えば、盲導犬が入店を拒否されたり、周囲の人々が盲導犬の存在に慣れておらず、誤解や偏見を持たれたりすることがあります。

 

盲導犬が視覚障がい者の生活に与える影響を広く理解し、社会全体で盲導犬を受け入れることが大切です。盲導犬を見かけた際は、業務中であることを尊重し、むやみに触れたり声をかけたりしないようにしましょう。盲導犬とそのパートナーの生活を支えるためには、社会全体の理解と協力が不可欠です。

 

盲導犬の引退とその後

盲導犬として活躍した犬たちは、引退後も新たな生活を送ります。引退後は、育ての親であるパピーウォーカーや盲導犬ユーザーの家庭で、家庭犬として過ごすことが一般的です。また、新しい里親のもとで余生を過ごすこともあります。盲導犬が引退した後も、彼らが幸せな生活を送れるよう、引き続き配慮がなされます。

まとめ

「接し方が分からないからこそ関心を向け、自ら関わってほしい」。奥澤さんの言葉が心に響いた取材でした。また、本記事にはないエピソードではありますが、取材中、ハッとしたのが、タッチパネルの話でした。コロナ禍を経て、タッチパネルでの注文や決済が増加しましたが、なかには視覚障がい者には利用できない設計のものもあるそうです。

誰かにとっての便利は、誰かにとっての不便となっているのかもしれません。「では、誰にとっても便利とはなんだろう?」を考えるきっかけともなりました。誰一人取り残さない社会のためには、「多様な人の声を聞くこと」が重要なのだと、改めて痛感しました。(日本財団ジャーナル編集部)

 

参考

視覚障がい者の生活を支える盲導犬。ボランティア不足解消が喫緊の課題(日本財団ジャーナル) #Yahooニュース

 


凸凹村や凸凹村各SNSでは、

障がいに関する情報を随時発信しています。

気になる方はぜひ凸凹村へご参加、フォローください!

 

凸凹村ポータルサイト

 

凸凹村Facebook

凸凹村 X

凸凹村 Instagram


 

関連情報

みんなの障がいへ掲載希望の⽅

みんなの障がいについて、詳しく知りたい方は、
まずはお気軽に資料請求・ご連絡ください。

施設掲載に関するご案内