2024.08.26

障がいのある子の高校進学、特別支援学校の「職能開発科」選ぶメリット

2つのコースで「任された職務を正確に遂行」する訓練を

診断基準や教育制度などの変化により、発達障がいや知的障がいとされる子どもが増加しています。これに伴い、需要が高まっているのが特別支援学校の高等部です。東京都では、2024年4月に「都立八王子南特別支援学校」を新設しました。普通科のほか、中程度までの知的障がいがある生徒を対象に、企業就労を目指して職業教育を行う「職能開発科」も設置しました。その学びと目指すゴールについて、同校の校長を務める濱辺清氏に詳しくお話を伺いました。

 

普通科のほかに、「職能開発科」が設置

神奈川との県境近くに位置する、東京都立八王子南特別支援学校は、今年の4月に新設されたばかりの新しい学校です。

同校には普通科のほかに、「職能開発科」が設置されています。これは軽度から中程度の知的障がいがある生徒たちが企業への就労を目指して学ぶもので、現在は東京都内の7つの特別支援学校に設置されています。受検対象は卒業を控えた中学3年生か、すでに中学を卒業した方です。

似た学科に「就業技術科」がありますが、こちらは軽度の知的障がいがある生徒が対象です。目指す力についても、職能開発科が「任された職務を正確に遂行できる能力」を掲げるのに対し、就業技術科ではさらに「職責の範囲内で自ら判断する」能力を育成するという違いがあります。

 

初年度の今年、都立八王子南特別支援学校の職能開発科には20人が入学しました。普通科の17人と合わせても、周辺の特別支援学校に比べて少人数でのスタートとなりました。校長の濱辺清氏はこう語っています。

「人数が少ない分、今はより丁寧な指導が期待できます。本校が掲げる『一人一人を大切にする学校』という目標がとくに達成しやすい環境だと言えるでしょう」

 

2年生になるとより専門的な内容を学ぶ

2年生になると、職能開発科は食品コースか流通サービスコースのいずれかに分かれ、より専門的な内容を学びます。どちらのコースに進んでも、事務情報処理と清掃は3年生まで全員が履修します。事務や清掃はどんな職場でも役立つスキルであり、東京都の障がい者雇用で最も需要の高いジャンルだからです。1年生では、1週間のうち2日間は実習を行い、残る3日間で国語や数学などの教科を学習します。

 

すでに『食品業界で働きたい』と明確な希望を持っている生徒もいます。家でも熱心に調理の手伝いをして練習していると教えてくれましたが、仕事として食品を扱うなら、衛生管理などが非常に重要になります。清掃もやはり、家庭での掃除とは異なるものです。業務で求められる感覚を身につけられるよう、職能開発科では教員公募制度も使って、実績のあるベテランの先生方が集まりました」

 

例えばテーブルを拭く練習では、タオルの四隅を合わせてきっちり畳むところから指導します。現役のプロの料理人や、障がい者雇用実績がある企業の職員、東京ビルメンテナンス協会の指導員など、実社会で働く特別専門講師をローテーションで招き、教員だけでは不足しがちな専門的指導も行っています。

 

「必要な人に情報を届けたい」学校も積極的にアピール

「子どもの数は減っていますが、支援が必要な生徒の就学相談は増えています。特別支援学級が設置されるのは中学校までです。その後の学びの受け皿としても、特別支援学校はより求められるようになっていると感じています」

 

文部科学省の発表によれば、特別支援学級の在籍者は10年前に比べて倍増しています。障がいへの認知度が高まることで、療育手帳の取得者も増えています。職能開発科と就業技術科は、この療育手帳もしくは医師の診断があれば出願可能です。しかし、特別支援学校(高等部)卒業後に企業へ就職する人の増加は鈍く、全国で見ると、その割合は全体の3割ほどとなっています。職業教育の取り組みにより、この数字が上向くことも期待されます。

 

普通科は通学区域が定められていますが、職能開発科の場合は、一人で通学できれば都内全域からの入学が可能です。濱辺氏は「部活動などを決め手に、普通科の通学区域よりも遠いところから通ってくる生徒もいます」と言っています。

 

また、近隣の特別支援学校との連携が密であることも同校の特徴です。歩いて10分ほどのところに、就業技術科を設置する都立南大沢学園があります。

南大沢学園は歴史も認知度もあるので、本校より希望者が多いです。でもその就業技術科で不合格になったとしても、すぐ近くに本校の職能開発科があります。これは地域の新たな利点になったと思います」

 

存在を知ってもらうことは不可欠

周辺の中学校に通う対象者や、説明会に訪れる保護者らには「南大沢学園と八王子南で、チャンスが2回あると考えて」と伝えている濱辺氏。「連携校」としてアピールするのは、周知が喫緊の課題だと考えているからです。

 

「新しい学校なので、まず存在を知ってもらうことは不可欠です。でもそれだけでなく、必要な人に職能開発科の正しい情報が届かないということをなくしたいと考えています。制度上は10年近く続いている仕組みですが、選考があることを知らなかったり、普通科に入ってから『職能開発科がよかったな』と悔やんだりする人もいます。入試が11月と早いこともあって、『受けたかったのに受けられなかった』と言われたこともあります。こうした後悔やミスマッチを防ぐため、積極的に情報を発信しています

 

ただ守られる雇用環境でなく、自己実現して働ける場所へ

夏休み期間を除く6月以降は、ほぼ毎週学科説明会と見学会を実施しています。参加者数はほぼ毎回、定員の50人に達しています。職能開発科への出願には個別説明を受けることが必要ですが、こちらの申し込みも盛況です。

 

グレーゾーンを含め、支援を必要とする人たちは進路選択にとても悩むものです。出願にあたっては中学校での指導が非常に重要になるので、本校の開校前から、周辺の中学校ともコミュニケーションを心がけてきました」

 

こうした活動の中で、濱辺氏は中学校での進路指導の難しさも耳にしました。大部分の保護者はそうではありませんが、ごく一部、子どもの「高卒資格」にこだわるケースがあるといいます。

 

「特別支援学校ではなく単位制などを含めた高校に入れたがる親御さんはいますし、生徒自身がそう望む場合もあります。しかし、所要単位や出席日数を満たして本当に卒業までたどり着けるのかと考えると、入学すればそれで安心というわけにはいきません。本校で示したいのは、ただ入ればいいという短期的な目標ではなく、3年後、5年後にどう生活していくか、社会でどう活躍していくかという長期的な選択肢なのです」

 

自己実現の一つとして働ける場所へ羽ばたいてほしい

職能開発科では全員の企業就労を目指していますが、それだけがゴールではない、と濱辺氏は続けます。

「職業の重要な3つの要素として、経済性だけでなく、納税による社会貢献や個人の生きがいを満たすことが挙げられます。これは知的障がいのある人たちにとっても同じことです。卒業生には、ただ守られる雇用環境でなく、自己実現の一つとして働ける場所へ羽ばたいてほしいのです。東京都では、卒業後も約3年間は学校によるフォローが求められているので、それも見据えてしっかりと関係を築いていきます

 

先輩や卒業生がいないという初年度の現状を、メリットにしていきたいとも考えています。

スタートしたばかりだからこそ、自分たちで学校を作っていくことができるフロンティア感があります。先生たちも意欲的で風通しがよく、アットホームな雰囲気は自慢です。保護者も非常に協力的で、入学式では在校生の代わりに校歌を歌ってくれました。事前に渡したCDや楽譜、動画を見て、校歌を覚えてきてくれたのです。両親だけでなく祖父母や親戚を連れてきた家族もあり、1年生しかいないにもかかわらず、入学式はとてもにぎやかでした。学校への期待の大きさを感じましたし、それに応えたいと強く思っています

 

2027年には、同校の職能開発科から初めての卒業生が巣立ちます。そのときには「本校の先輩が働く会社で生徒が研修する取り組みを作り、それを伝統にしていきたい」と話す濱辺氏。「卒業生も張り切って教えてくれるでしょうし、生徒も自分の未来像がリアルに描けて、双方にいい効果があるはず。今からそれが楽しみです」とにっこりしました。(文:鈴木絢子)

発達障がいとは

発達障がいは、主に脳の機能に関連する障がいで、幼少期からその特性が現れます。大きく分けて、自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠陥・多動性障がい(ADHD)、学習障がい(LD)の3つがあります。これらの障がいは、コミュニケーションや社会的スキル、学習や集中力に影響を与えることがあります。

 

自閉スペクトラム症(ASD)

ASDは、コミュニケーションや社会的な相互作用に困難を伴う障がいです。ASDの特徴として、こだわりの強い行動や、特定の興味に集中することが挙げられます。また、感覚過敏や鈍感といった感覚の異常も見られることがあります。ASDはスペクトラム(連続体)と呼ばれるように、症状の重さや現れ方が人それぞれ異なります。

 

注意欠陥・多動性障がい(ADHD)

ADHDは、集中力の欠如や衝動的な行動、多動性が特徴的です。学校や職場での課題や指示に従うことが難しく、忘れ物が多い、じっとしていられないといった行動が見られることがあります。ADHDは幼少期に診断されることが多いですが、成人してからもその影響が続くことがあります。

 

学習障がい(LD)

LDは、知的能力に問題がないにもかかわらず、特定の学習分野において著しい困難を伴う障がいです。例えば、読字障がい(ディスレクシア)は、文字を正しく読むことが難しい障がいであり、書字障がいや算数障がいなどもあります。LDの影響を受ける子どもは、特定の教科でのみ学習の遅れを示すことが多く、早期の発見と支援が重要です。

 

知的障がいとは

知的障がいは、知的機能(IQ)や適応行動における発達の遅れが見られる障がいです。日常生活のスキルやコミュニケーション能力が低く、学習や社会生活において支援が必要とされます。知的障がいは、軽度から重度まで幅広く、その症状や支援の必要性は個々の状況によって異なります。

 

知的障がいの原因はさまざまで、遺伝的要因や染色体異常、出産前後の環境要因(例えば、胎児期の感染症や酸素不足)などが関係しています。知的障がいを持つ人々は、日常生活においてさまざまな困難に直面するため、個別の支援が求められます。

 

支援と対応

発達障がいや知的障がいを持つ人々に対する支援は、早期発見と適切な教育、治療が鍵となります。以下に、主な支援方法を紹介します。

 

特別支援教育

特別支援教育は、発達障がいや知的障がいを持つ児童・生徒に対して、個別のニーズに応じた教育を提供するものです。特別支援学校や特別支援学級、通常の学校内での特別支援教室など、さまざまな形態があり、生徒一人ひとりに合わせたカリキュラムが組まれます。

 

医療・療育

医療や療育による支援も重要です。例えば、ADHDに対する薬物療法や、自閉スペクトラム症に対する行動療法、言語療法などがあります。これらの療法は、症状の緩和や社会的スキルの向上を目指します。また、親や家族に対する支援やカウンセリングも、家庭での適切な対応に役立ちます。

 

職業支援

発達障がいや知的障がいを持つ人々が社会で自立するためには、職業訓練や就労支援が不可欠です。職業訓練施設や企業内でのインターンシップ、職場での合理的配慮などが提供されることにより、障がいを持つ人々が能力を発揮し、社会に貢献できる環境が整備されます。

 

社会の課題と展望

発達障がいや知的障がいに対する社会の理解は進んでいますが、依然として課題は残されています。例えば、障がいを持つ人々への偏見や差別、十分な支援体制が整っていない地域があることなどです。これらの課題を解決するためには、障がいに対する正しい知識の普及や、包括的な支援体制の確立が必要です。

 

また、発達障がいや知的障がいを持つ人々が、より良い生活を送るためには、社会全体の協力が求められます。教育機関や医療機関、企業、行政が連携し、支援の質を高めることが重要です。社会全体が理解し、支え合うことで、障がいを持つ人々が自らの可能性を最大限に発揮できる未来が築かれるでしょう。

まとめ

発達障がいや知的障がいを持つ人々に対する支援は、単なる「治療」や「特別扱い」ではなく、彼らが自分らしく生きるための手助けです。私たち一人ひとりが障がいについて理解し、適切な支援を提供することが、共生社会の実現につながります。今後も、より多くの人々が発達障がいや知的障がいについて学び、支え合う社会を目指していくことが大切です。

 

参考

障がいのある子の高校進学、特別支援学校の「職能開発科」選ぶメリット(東洋経済education×ICT) #Yahooニュース

 


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