2024.08.06

素行障がい(素行症)とは?診断基準から対応方法まで解説

素行障がい(素行症)とは、その年齢における社会規範に反する行為のいずれかが半年以上あり、かつ1年の間にそうした行為が複数みられる状態です。ADHD(注意欠如多動症)の二次障がいとして発症することもある素行障がい(素行症)について、症状から周囲の対応法まで詳しくまとめました。

 

素行障がい(素行症)とは?

素行障がい(素行症)とは、その年齢における社会規範に反する行為のいずれかが半年以上あり、かつ1年の間にそうした行為が複数みられる状態です。※素行障がいの読み方は「そこうしょうがい」、素行症は「そこうしょう」と読みます

 

社会規範に反する行為の例として、いじめ・喧嘩など人や動物に対して危害を加える行為、放火や他人の所有物の破壊行為、詐欺や不法侵入及び万引きなどの窃盗行為、13歳未満での夜間外出や家出・学校をさぼりる行為などが挙げられます。

診断にあたっては、こうした行為が、社会生活において障がいを起こしているかが確認されます。

 

なお、10歳になるまでに特徴があらわれている場合を児童期発症型、10歳以降に症状があらわれた場合を青年期発症型と分類します。18歳以上(大人)の場合は反社会性パーソナリティ障がい(反社会性パーソナリティ症)の基準を満たさない場合に限り診断されます。

 

小児期の後期や青年期の初期に始まる

素行症の小児は、わがままで他者への思いやりがなく、罪悪感にさいなまされることなく、いじめたり、他者の持ち物に損害を与えたり、嘘をついたり、盗んだりします。

診断は現在と過去の小児の行動に基づいて下されます。精神療法が助けになることもありますが、最も効果的な治療法は、問題の多い環境から小児を引き離し、代わりに精神衛生施設などの厳格に統制された環境におくことです。

 

小児の行動は多様です。ほかの小児より行儀よく振る舞う子どももいます。小児が年齢にふさわしくないやり方で、規則を破ったり他者の権利を侵害したりする行動をしつこく繰り返す場合にのみ、素行症と診断されます。

 

素行症は小児期の後期や青年期の初期に始まるのが通常で、女子より男子ではるかに多くみられます。遺伝的要因や環境が素行症の発症に影響を与えると考えられています。素行症の小児の多くには、薬物乱用、注意欠如・多動症、気分障がい、統合失調症、反社会性パーソナリティ障がいなどの精神障がいをもつ親がいます。しかし、素行症の小児が問題のない健全な家庭から生じることもあります。

 

年代別の素行障がい(素行症)の分類、ADHD(注意欠如多動症)との関連は?

素行障がい(素行症)には3種類あり、発症した年齢によって種類が分けられます。

◇児童期発症型

児童期発症型の素行障がい(素行症)は10歳までに発症するとされています。児童期発症型は、女児よりも男児のほうが多く、相手に対して暴力的になることや、対人関係に困難さが生じることがあります。

また児童期発症型の素行障がい(素行症)の場合、小児期早期に、反抗挑戦性障がい(反抗挑戦症)の診断がされている場合が多いと言われています。早期の発症は、行動上の問題が続きやすい傾向があります。

 

◇青年期発症型

青年期発症型の素行障がい(素行症)は、10歳になるまでに素行障がい(素行症)の症状が見られないことが診断の条件です。成人後は、不適切な行動が消失しやすいと言われています。

 

◇特定不能の発症年齢

素行障がい(素行症)の基準は満たしているが、発症年齢が10歳より前か後か分からない場合には、「特定不能の発症年齢」とされます。

 

ADHD(注意欠如多動症)との関連は?

ADHD(注意欠如多動症)の子どもの中には、多動や衝動性といった特性による言動が、その場の状況としては不適切な行動と捉えられることもあります。しかし、その行動自体が社会的なルールに反したり、他者の権利を侵害するようなものではないと考えられるため、通常は素行障がい(素行症)の診断を満たすことはないと言われています。

 

一方で、素行障がい(素行症)の子どもは、ADHD(注意欠如多動症)を併存することがあります。最初に素行障がい(素行症)と診断された子どもの多くが、経過中にADHD(注意欠如多動症)も有するという研究結果もあります(Cant-well and Baker 1989)。

 

素行障がい(素行症)の主な原因

素行障がい(素行症)の原因は、生物学的、心理学的、社会的要因、および発達上の要因が、複雑に絡み合っていると考えられています。

 

生物学的要因

素行障がい(素行症)の生物学的要因としては、遺伝やホルモン因子、神経伝達物質の機能不全などさまざま考えられます。素行障がい(素行症)における感情や行動の調整の難しさは、このような生物学的要因を含め、多数の要因が関連していると言われています。

 

例えば、素行障がい(素行症)における遺伝的な要因は、まだ十分に解明されていはいないものの、少なくとも何らかの影響があると考えられています。一方で、子どもは大人よりも生活していく場や家庭・学校などを自分で選択することが難しいため、児童期・青年期の素行障がい(素行症)は、心理学的・社会学的要因が強いのではないかという見方もあります。

 

また、ホルモンの変化が特に青年期の子どもの行動に影響を及ぼすことはよく知られています。例えばテストステロンが高い場合、より怒りっぽくなり攻撃的な行動を起こしやすくなることを明らかにした研究などもあります。

 

また、素行障がい(素行症)のある少年について、デヒドロエピアンドロステロンおよびコルチコトロピン濃度が上昇しているという研究結果もあります。その他にも、神経伝達物質の機能不全や自律神経系機能の低下など、さまざまな要因が考えられます。ただし、これらの精神生理学的な所見は、素行障がい(素行症)の診断基準ではありません。診断は、原因に関係なく、行動基準に基づいて行われます。

 

環境要因

環境要因としては、家族に関する要因や地域や仲間関係、社会的立場などが考えられます。例えば、以下のような要因が関連していることがあります。

親からの拒絶や、育児放棄(ネグレクト)

・厳しすぎるしつけ

・身体的虐待、性的虐待

・仲間からの拒絶や非行グループとの関係

・地域で社会的に不利な状況にある、暴力にさらされる など

「反社会性パーソナリティ障がい(反社会性パーソナリティ症)」との違いはあるの?

反社会性パーソナリティ障がい(反社会性パーソナリティ症)は、他者の尊厳を軽視し、自分勝手な都合で衝動的(または無計画)に権利を侵害するような言動を繰り返すパーソナリティ障がい(パーソナリティ症)です。

社会的なルールや法律に反する行動をする、自分の利益のために繰り返し嘘をつく、自分や他者の安全を考えない、自分の行動で相手を傷つけても無関心である、計画性がなく衝動的で暴力を繰り返す、というような特徴のうち複数があてはまることが基準の一つです。

対象者が18歳以上であり、かつ15歳以前に素行障がい(素行症)を発症している場合に限り診断されます。またここでの反社会的な行動は、統合失調症や双極性障がい(双極症)によるものではありません。

 

「素行障がい(素行症)」と「反社会性パーソナリティ障がい(反社会性パーソナリティ症)」の大きな違いは発症年齢にあります。素行障がい(素行症)は10歳以下の場合も含まれますが、反社会性パーソナリティ障がい(反社会性パーソナリティ症)の対象は、18歳以上とされています。18歳以上の場合は、反社会性パーソナリティ障がい(反社会性パーソナリティ症)の基準を満たさない場合に限り「素行障がい(素行症)」と診断されます。

 

「行為障がい」との違いはあるの?

医療機関では、2023年に出版されたアメリカ精神医学会の『DSM-5-TR』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版改訂版)や世界保健機関(WHO)の『ICD-10』の基準を用いて診断されます。「素行症」とは『DSM-5-TR』で主に用いられる疾患名です(本コラムはこれに照らし合わせ記述しています)。

※素行障がいは現在、「素行症」という診断名となっていますが、最新版『DSM-5-TR』以前の診断名である「素行障がい」といわれることが多くあるため、ここでは「素行障がい(素行症)」と表記します。

 

これに対し、『ICD-10』では主に「行為障がい」という疾患名が用いられていますが、診断基準や原因などに大きな差はありません。しかし『ICD-10』は、「行為障がい」の下位項目に「反抗挑戦性障がい(反抗挑戦症)」を含めている点が、『DSM-5-TR』とは大きく異なっていると言えます。以下が『ICD-10』の行為障がいに含まれる下位分類の例です。


  • 家庭限局性行為障がい

家庭や家族に対して、単に反抗的や挑戦的ということにとどまらない非社会的または攻撃的な行動を含む行為障がいのことです。


  • 非社会化型<グループ化されない>行為障がい

非社会的または攻撃的な行動が続いており、他の子どもとの関係が明らかに乏しいことが特徴です。


  • 社会化型<グループ化された>行為障がい

非社会的または攻撃的な行動が続いており、仲間グループにとけこみ、仲間との関係が正常範囲内であることが特徴です。


  • 反抗挑戦性障がい(反抗挑戦症)

反抗挑戦性障がい(反抗挑戦症)とは、通常は低年齢の子どもに見られ、家族や先生、友だちなどに対し非常に挑戦的であることが特徴ですが、非行や極端な非社会的行為は含まれません。親や教師など目上の人に対して拒絶的・反抗的な態度をとり、口論をしかけるなどの挑戦的な行動をおこしてしまう疾患です。

 

素行症の症状

一般的に素行症の小児には以下の特徴がみられます。

  • わがままである。
  • 他者とうまく付き合うことができない。
  • 罪悪感が欠落している。
  • 他者の感情や幸せに関心を示さない。
  • 他者の行動を脅しであると間違って捉え、攻撃的に反応する傾向がある。
  • いじめや脅迫に加わったり、頻繁にけんかをしたりする。
  • 動物に対して残酷である。
  • 物を壊す(特に放火による)。
  • 嘘をつく、窃盗を行う。

素行症には男女差があります。女児の場合は、男児ほど体を使った攻撃性を表すことはありません。その代わりに女児の場合は、家出をしたり、嘘をついたり、ときには売春行為をしたりすることが多くなります。男児の場合は、けんかをしたり、盗みをしたり、破壊行為をしたりする傾向があります。男女とも、薬物使用や物質乱用に至る可能性が高いです。(青年期における行動面の問題も参照のこと。)

 

行動の性状

素行症の診断は小児の行動に基づいて下されます。素行症と診断するためには、症状や行動が学校や職場の人間関係を損なうほど深刻でなければなりません。社会的環境も考慮されます。非常にストレスの多い環境(戦禍を受けた地域や政情不安定な地域など)に適応している間に起こった違法行為は、素行症とみなされません。医師は小児に他の精神障がいや学習障がいがないか確認します。

 

素行症の治療

多くの場合、小児を問題の多い環境から引き離して、厳格に統制された環境におく。

 

精神療法(心理療法)

素行症の小児や青年が自分の行動に間違いを感じていることはめったにないため、素行症の治療は非常に困難です。そのため、行動を改めるよう叱ったり強く促しても効果はないため、そのようなことは避けるべきです。多くの場合、症状が重篤な小児や青年に対する最も効果的な治療法は、問題の多い環境から引き離して、精神衛生施設や青少年保護施設などの厳格に統制された環境におくことです。精神療法によって小児の自尊心や自己制御が改善し、自分の行動をうまくコントロールできるようになることがあります。

 

ほかの病気がある場合には、それを治療します。とりわけ注意欠如・多動症やうつ病のような他の障がいが併存する場合には、特定の薬剤が一定の効果をもたらすことがあります。このような障がいの治療により、素行症の症状が軽減する可能性があります。学習障がいに対しては、それぞれの小児に合うよう入念に調整した教育を行うことが最も有用な治療法になります。

 

重大な規則違反を犯すことが多く、家出や頻繁な無断欠席などを起こします。小児は違法薬物を使用したり乱用したりしがちであり、学校で問題を起こします。自殺を考えることもあり、これは深刻に受け止めなければなりません。

 

素行症の小児は、うつ病、注意欠如・多動症、または学習障がいなどの他の障がいも併せもっていることがあります。素行症の小児の約3分の2は、成人するまでに不適切な行動をしなくなります。素行症が始まった時期が早いほど、問題行動が長引く傾向があります。 問題行動が成人期まで続くと、法的なトラブルを起こしたり、慢性的に他者の権利を侵害したりすることが多くなり、しばしば反社会性パーソナリティ障がいと診断されます。このような成人の中には、気分障がいや不安症、その他の精神障がいを発症する者もいます。

 

素行障がい(素行症)の治療法

素行障がい(素行症)の治療法として主に認知行動療法、ペアレントトレーニング、薬物療法などさまざまな方法が挙げられます。効果的な素行障がい(素行症)の治療のためには、多方面への取り組みを継続的に行うことが必要だと言われています。また、素行障がい(素行症)の行動様式が現れていたとしても、その要因や併存症の有無等は一人ひとり異なるため、一部の子どもに有効な取り組みがすべての子どもに有効とは限りません。以下に素行障がい(素行症)の代表的なアプローチを紹介します。

 

認知行動療法(問題解決技法のトレーニング)

素行障がい(素行症)の子どもに対する認知行動面へのアプローチとしては、反社会的行動の背景にあると考えられる「認知面」に焦点が当てられることがあります。

一般的には、モデル作成、リハーサル、ロールプレイングおよび、自分自身と対話などが行われます。

 

ペアレントトレーニング

ペアレントレーニングとは、保護者が子どもとより良い関わりができるための保護者向けプログラムです。例えば、素行障がい(素行症)に対応するためのスキルとして、保護者と子どもが良好なコミュニケーションをとるためのコツや子どものよい行動を褒める関わり方を学ぶこと等をします。

日本でペアレントトレーニングを研究・実践する専門家たちにより開発された「基本プラットホーム」の中には、以下のような要素が含まれています。

 

コアエレメントの要素の例

  • 子どものよいところを探し、ほめる
  • 行動理論にもとづく行動理解(ABC分析)
  • 環境調整
  • 子どもが達成しやすい指示
  • 子ども不適切な行動への対応 など

 

薬物療法

素行障がい(素行症)においては、併存症が起こりえるため、別の症状がはっきりと特定され薬物療法が行われた場合、それによって行動的な問題が顕著に消退する場合もあります。

また向精神薬は素行障がい(素行症)の治療に対する有用性がまだ明らかにされていませんが、一部の薬物は素行障がい(素行症)の症状、特に攻撃性の治療に使用されることがあります。

まとめ

素行障がい(素行症)は、その背景に多くの要因が絡み合う複雑な障がいです。早期の発見と適切な対応が、子どもたちの将来に大きな影響を与える可能性があります。保護者や教育者、医療従事者が連携し、理解と支援を深めることで、素行障がい(素行症)を持つ子どもたちの生活の質を向上させることができます。問題の根本に立ち向かい、一人ひとりに最適なサポートを提供することが重要です。

 

参考

素行症|MSDマニュアル

素行障がい(素行症)とは?症状や原因、発達障がいとの関連は?【専門家監修】|LITALICO発達ナビ

 


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