ASD(自閉スペクトラム症)とは?診断や特徴、子どもへの対応について
ASD(自閉スペクトラム症)は、「コミュニケーションがうまく取れない」「人との関わりが苦手」「こだわりが強い」といった特性を持つ障がいです。この障がいには、かつて「自閉症」「アスペルガー症候群」「高機能自閉症」と呼ばれていた子どもたちも含まれます。
「子どもの発達に不安を感じる」「自閉症かもしれない」と思っているご家庭に向けて、ASD(自閉スペクトラム症)の診断基準や特徴を解説します。特に幼児期から小学校入学前の子どもにはどのような行動や困りごとがあるのか、またその対応方法についても詳しく説明します。
ASD(自閉スペクトラム症)とは
ASD(自閉スペクトラム症)は、「対人関係や社会的なやりとりの障がい」と「こだわり行動」という2つの基本特性を持つ発達障がいです。ASDとは、自閉スペクトラム症の英語表記である「Autism Spectrum Disorder」の頭文字を取ったものです。ASD(自閉スペクトラム症)の基本特性について解説します。
対人関係や社会的なやりとりの障がい
ASDの最初の基本特性は、「対人関係や社会的なやりとりの障がい」です。ASDを持つ人は、人との関わりが苦手で、社会的な場面での挑戦が継続します。彼らはしばしば場の空気を読み取ったり、比喩や皮肉を理解したり、相手の気持ちや暗黙のルールを理解することに難しさを感じます。また、言われたことを直接的に受け取る傾向があります。
こだわり行動
ASDのもう一つの基本特性は、「こだわり行動」です。ASDの人々は、物の配置や順序、自分のやり方に対する強い固執、あるいは特定の興味や関心の極端な偏りを示すことがあります。これらのこだわりは個々に異なり、その程度や種類も人それぞれです。
その他の特性として、手先の不器用さや感覚刺激への過敏や鈍さが見られることもあります。ASDは個々の人によって表れ方が異なるため、それぞれの特性や困りごとに合わせた支援や理解が重要です。
ASD(自閉スペクトラム症)の原因
ASDは、脳の障がいに起因するとされています。生まれつきの脳の機能に何らかの不具合があるために発生すると考えられており、親のしつけや育て方、本人の性格とは無関係であることが確認されています。
この脳の機能の不具合による障がいは完全に治ることはありませんが、対人関係や社会性の困難に対する配慮と、本人の特性に適した環境調整、そして療育・教育の提供によって、症状の改善や発達の促進が期待されます。特定の支援や理解が提供されることで、ASDの人々が可能な限り自立し、満足できる生活を送ることが目指されています。
『DSM-5』より「自閉スペクトラム症」に統合
『DSM-5』において、2013年以降、「自閉スペクトラム症」が診断名として採用されるようになりました。これにより、それまでの「自閉症」「アスペルガー症候群」「広汎性発達障がい」などの診断名が統合され、境界なく連続したスペクトラムとして捉えられるようになりました。2022年に発刊された『DSM-5-TR』(日本語版は2023年)でも、「自閉スペクトラム症」が引き続き診断名として使用されています。
ASD(自閉スペクトラム症)の診断について
ASDの特性は、生後2年目(12ヶ月〜24ヶ月)に見られることが多く、早ければ1歳半検診の時点で気づかれることもあります。しかしながら、ASDの特性が見られるからといって、それを確定的な診断とすることはできません。診断は医療機関でしか行うことができません。
ASDの診断は専門の医師や専門チームによって行われます。全ての病院がASDの診断を行うわけではなく、大学病院や総合病院、または専門的な診療を行う小児科、児童精神科、小児神経科、発達外来などが診断を行うことが多いです。
ASDの診断には、観察と評価尺度の使用、発達や行動の詳細な評価、家族や保護者からの情報収集などが含まれます。診断プロセスは個々の特性や発達の進行によって異なりますが、適切な支援や介入を提供するために重要です。
ASDの特性を持つ可能性がある場合は、専門医の診断と適切なサポートを受けることが早期介入の鍵となります。
ASD(自閉スペクトラム症)の診断基準
ASDの診断基準は、アメリカ精神医学会が発行している「DSM-5」(精神疾患の診断・統計マニュアル 第5版)に記されています。以下は主な診断基準です。
- 特性による困りごとの存在: ASDの特性である「対人関係や社会的なやりとりの障がい」「こだわり行動」などによる問題が、複数の状況(学校や家庭など)で起きていることが求められます。
- 影響の大きさ: これらの特性が日常生活や社会生活において重大な影響を与えていることが必要です。例えば、学業の遅れ、社会的孤立、日常生活のルーチンの困難などが考慮されます。
- 継続性: これらの特性が少なくとも6か月以上継続していることが診断の基準として記されています。一時的な問題や一過性の行動パターンでは診断されません。
ASDの診断は、これらの基準をもとに専門の医師や専門チームが行います。具体的な診断プロセスには、問診、行動観察、心理検査や知能検査などが含まれ、診断が確定するまで数日にわたって評価が行われることが一般的です。
ASDの早期発見と診断は、早期介入や適切な支援を提供するために非常に重要です。診断が確定した場合、個別に合わせた教育的・行動的支援を通じて、ASDを持つ人々が可能な限り満足できる生活を送ることを支援することが目的とされています。
ASD(自閉スペクトラム症)の診断方法
診断方法の手順
問診: 初めに医師は保護者や家族から、子どもの日常生活や行動、発達の経過に関する詳細な情報を収集します。母子手帳、保育園や幼稚園の連絡帳、学校の通知表など、様々な記録やメモを持参することが推奨されます。これにより、日常生活での困りごとや特異な行動の発現を把握します。
行動観察: 医師や専門家が実際に子どもと接し、日常の活動や遊びの中での行動を観察します。ASDの特性である社会的な相互作用の困難さやこだわり行動の表れなどを直接確認することが目的です。
心理検査や知能検査: 次に、さまざまな心理検査や知能検査が行われます。これには、知能を測るための検査(例: WISC-IV 知能検査)、発達水準や認知機能を評価する検査などが含まれます。これらのテストは年齢や発達段階に応じて選択され、専門的な判断基準に基づいて行われます。
生理学的検査: 必要に応じて、生理学的な検査も実施される場合があります。例えば、脳波検査や遺伝子検査がその例です。これらの検査は、ASDの診断を補完し、他の医学的な要因を排除するのに役立ちます。
総合的な判断: 上記の検査結果をもとに、専門家チームが総合的な判断を下します。ASDの診断が確定するには、診断基準を満たしていることが必要です。一度の受診だけで診断が下ることは稀であり、通常は数日にわたる評価と検査が必要です。
ASD(自閉スペクトラム症)の治療方法
ASD(自閉スペクトラム症)の治療方法
ASDは、生まれつき脳の機能に何らかの不具合がある障がいです。そのため、完全に治るということはなく、子どもの特性に合わせた「環境調整」や「療育」といった方法により、困り事を軽減していくことを目指します。
環境調整
環境調整とは、ASDの子どもの特性に合わせて環境を調整し、困り事が起きないようにすることをいいます。
例えば急な変化に対応するのが難しくパニックになってしまうことのある子どもには、一日の予定を時計のイラストなどを用いて視覚的にわかりやすく伝える、ということがあります。
また、その場に合わせた振る舞いが苦手な子どもには、仕切りなどを使って場所を明確に区別する方法もあります。子ども部屋の中に段ボールなどで、「遊ぶ場所」「勉強場所」「おもちゃを片付ける場所」と明確に分けることで、子ども安心してそれぞれの作業を行うことができるようになります。
療育
療育とは、ASDなど障がいのある子ども一人ひとりの障がい特性や発達の段階に合わせて、対人関係や学習のサポートを行い、困り事の解消やスムーズな社会参加を促していきます。
療育を受けることができる場所としては「児童発達支援センター」や「児童発達支援事業所」などがあります。こちらは未就学の子どもが対象となっており、小学生~18歳までの子どもは「放課後等デイサービス」が対象となります。
ASD(自閉スペクトラム症)の子どもの特徴
子どものASDのサインや特徴的な行動について、特に発達特性が表れやすいと言われている1歳、2歳、3歳、就学前と年齢別に解説します。ただしそれぞれの年齢段階での行動特徴には個人差もあります。
ASD(自閉スペクトラム症)の子どもの年齢別行動特徴
生後~1歳の例
- 抱っこをいやがる
- あまり泣かない・あやしても笑わない
- ミルクを飲まない・偏食ぎみ
- 寝つきが悪い・すぐ目を覚ます など
2歳~3歳の例
- 発語や言葉が遅い
- 名前を呼んでも反応しない
- 人と視線をあわせようとしない
- ひとり遊びを好む
- 一緒に見てほしいものを指し示すことが難しい
- 触られることを嫌がる など
小学校入学前(4~6歳)の例
- 特定の順番で活動することや道順やものの位置などにこだわる
- 集団行動をするのが苦手
- 同年齢の友達とうまく遊ぶことができない(自分勝手な行動をとったり、状況を読むことができないなど)
- 同じ遊びを繰り返す
- ごっこ遊びが苦手 など
ASD(自閉スペクトラム症)の子どもへの対応方法
ASDの子どもはどんな困りごとが起こりやすいのか、その対応方法とあわせて解説します。
言葉での説明が伝わりづらい
ASDの子どもの中には抽象的な言葉や言い回しの理解が難しく、注意の切り替えができなかったり、複数のことを同時にすることが苦手な子どももいます。例えば「手を洗ってから、おやつを食べる」といった、2つのことを一度に伝えようとすると、言葉を聞き逃してしまいます。
対応方法
- 短い文章で、1つずつ伝える
- 注意をひいてから伝える
- 具体的な言葉で伝える
- 視覚的に伝える など
時間を守ることが苦手
ASDの子どもは時間など目に見えない概念を理解することが不得意な傾向があります。そのため予定がいつ始まって、いつ終わるのかが分からないことで不安を感じることがあります。
対応方法
- いつ、なにをするか作業の見通しを伝える
- 時計のイラストつきの予定表・タイマーなど、視覚的に伝える など
相手の気持ちや表情・身振り手振りが分からない
ASDの子どもは表情や身振り手振り、視線などから、相手の状況を読むことや気持ちを理解することが苦手な場合が多いです。結果的に友だちを意図せず傷つけたり、集団行動を乱してしまうことがあります。
対応方法
- 表情だけではなく、言葉や動作なども交えて伝える
- あれ・それなど、代名詞は避ける
- ルールや指示は分かりやすく伝える など
光や音、温度、匂いなどに過敏に反応する(感覚過敏)
ASDの中でも感覚過敏のある子どもは、音や温度、匂い、光など、感覚刺激に敏感に反応します。過敏な感覚がパニックやかんしゃくを引き起こす原因になることもあります。いっぽう、痛みなどには鈍感な子どももいます。
対応方法
- 装飾のない静かな環境を用意する
- 音や光など、感覚刺激の原因になるものを少なくする
- 騒がしい場所ではイヤマフや耳栓、フードをかぶる など
ここまでASDの子どもの困り事の傾向や対応方法を紹介してきました。そのほかにも、ASDの子どもは、さまざまな場面で困り事を抱えて不安を感じやすく、自己肯定感が育まれにくいといえます。
「1つのことに集中して取り組むことができる」「行動力がある」など、ASDの特性を子どもの個性ととらえることや、親や周囲の人が特性を理解し、ほめる機会を増やし、自信を感じやすい接し方をすることで達成感や安心感を得ることができます。
まとめ
子どものASDは、コミュニケーションの困難さや社会的な関わりの苦手さ、こだわりの強さなどの特性が見られます。しかし、ASDは明確な境界線がなく、診断が容易ではありません。
ASDが疑われた場合、早期に適切な支援やサポートを受けることが重要です。診断は専門医のチームによって行われ、問診や行動観察、心理検査など多岐にわたる検査を通じて行われます。
発達障がい、特にASDは、親のしつけや子育てによるものではなく、生まれつきの脳の特性に起因するものです。親や家族は自責の念にかられることなく、子どもの個々の特性を理解し、適切な環境を整えることが大切です。
周囲の支援や理解を得ながら、子どもの強みを見つけ、肯定的に支援していくことが、ASDを持つ子どもの成長と発達を促すための鍵となります。
参考
ASD(自閉スペクトラム症)とは?診断や特徴、子どもへの対応について|リタリコ
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