アスペルガー症候群(ASD/自閉スペクトラム症)とは?その特徴と対応方法
以前は、言葉や知的発達に遅れがない場合、「アスペルガー症候群」という名称が用いられていました。しかし、アメリカ精神医学会発刊の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)において、自閉的特徴を持つ疾患が統合され、2022年発刊の『DSM-5-TR』では「自閉スペクトラム症(ASD)」という診断名になりました。本記事では、この新しい診断名を使用しています。
アスペルガー症候群(ASD/自閉スペクトラム症)の特徴
アスペルガー症候群(ASD/自閉スペクトラム症)の特徴には、次のような点が挙げられます。遠回しな表現や比喩を使った表現、表情や仕草から相手の感情を読み取ることに困難さがあるため、自分の話ばかりしてしまったり、相手が傷つく言葉を悪気なく伝えてしまったりすることがあります。また、一度決まったルーティンが崩れたり、新しい環境に適応する必要が生じたりするなど、変化に対する抵抗が強いとも言われています。
知的発達や言語発達の遅れがないため発見が遅れやすい
知的発達や言語発達に遅れがないため、アスペルガー症候群(ASD/自閉スペクトラム症)は発見が遅れやすいという特徴もあります。幼少期からアイコンタクトの少なさや気持ちの共有がしにくいといったコミュニケーションの取りにくさを感じることはありますが、発達的な課題があることに気づかれにくいのです。
また、表面的な言語的コミュニケーションを取ることができ、学力的にも問題がない場合が多いため、大人になるまで診断がつかないこともあります。
アスペルガー症候群(自閉スペクトラム症)の原因と早期療育
アスペルガー症候群(ASD/自閉スペクトラム症)の原因は明確には分かっていませんが、先天的な遺伝的要因が素因として考えられています。これが胎児期や出生後に脳や心身の発達過程で様々な環境要因と相互に影響し合い、結果として脳機能障がいとして現れると言われています。
近年、発達が気になるお子さまへの早期療育を行う例が増えてきています。早期から介入し療育を行うことで、特性自体を治療することは難しいものの、いじめ、不登校、抑うつなどの二次的な問題を予防することができると言われています。このような早期療育は、特性の理解と適切なサポートを通じて、子どもたちがより良い生活を送るための重要な手段となっています。
アスペルガー症候群(ASD/自閉スペクトラム症)の特徴
アスペルガー症候群(ASD/自閉スペクトラム症)には、「対人関係や社会的コミュニケーションの困難」と「特定のものや行動における反復性やこだわり、感覚の過敏さまたは鈍麻さ」などの特性があります。
社会的コミュニケーションの困難
ASDの人々は、会話自体は問題なくできるものの、行間を読むことが苦手な傾向があります。そのため、言葉を文字通りに受け取り、人の発言を勘違いしやすく、傷ついてしまうこともあります。具体的な特徴として、曖昧なコミュニケーションが苦手だったり、その場にふさわしい話し方ができない場合があります。また、複数の人がいる場面で誰に対して発言しているのか分からなかったり、相手や環境の変化に気づかないことがあります。
対人関係の困難
場の空気を読むことや相手の気持ちを理解し、それに寄り添った言動が苦手な傾向があります。そのため、場にそぐわない言動をしたり、自己中心的と思われたり、意図せず相手を傷つけてしまうことがあります。このような特性から、対人関係を上手に築くことが難しくなることがあります。
こだわりが強い
一旦興味を持つと過剰なほど熱中し、他のことが目に入らなくなったり、自分の興味のあることをずっと話し続ける傾向があります。また、法則性や規則性のあるものを好み、異常なほどのこだわりを見せることがあります。これらの法則や規則が崩れることを極端に嫌うため、ルールや予定が変更になると混乱することもあります。しかし、この特性は強みとして活かすこともでき、興味のある分野では大量の情報を記憶し、詳細に説明できる人も多くいます。
感覚の偏り
ASDの人々には、視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚のどれかが非常に過敏な「感覚過敏」が多く見られます。例えば、服の肌触りや匂いにこだわり、いつも同じ服を着たがったり、ザワザワした職場や教室で過ごすことに苦痛を感じたりする場合があります。また、食事において偏食があり、強い匂いのする食べ物が苦手なこともあります。このように感覚に対する強いこだわりがある場合があります。
アスペルガー症候群(ASD/自閉スペクトラム症)によく見られる行動リスト
アスペルガー症候群(ASD/自閉スペクトラム症)の特徴として、以下のような行動がよく見られます。
- 相手の反応や状況を察することが難しい
表情や声のトーンから感情を読み取ることが難しい:相手の気持ちや感情を表情や声のトーンから読み取ることが苦手です。
- 発言が一方的
交互に話すことができない:会話のキャッチボールが苦手で、自分の関心のある話を一方的にし続けてしまうことがあります。
- 大人との会話を好む
大人との会話を好む:同年代の子どもよりも、自分に合わせて会話を進めてくれる大人との会話を好む傾向があります。
- 言葉の裏の意味や曖昧な表現が分からない
皮肉が分からない:例えば、皮肉を言われても理解できないことが多いです。「最近どう?」といった曖昧な質問の意図が分からないこともあります。
- 特定のものやことがらにこだわる
変化に対する不安や緊張:想像力を巡らせることが苦手なため、ちょっとした変化に不安や緊張を感じ、いつも通りであることにこだわることがあります。
- ものの形や図柄が変わらないものを好む
一定のパターンや規則性を好む:駅名や国旗などの変わらないものが好きです。自分なりのルールに従ってミニカーを並べるなどの遊びを好むこともあります。
- 同じ動作を繰り返す
反復的な動作:体を揺らす、クルクル回るなどの動作を繰り返します。また、ルールに対して非常に厳格で、柔軟に対応するのが難しいです。
これらの行動は、ASDの人々が日常生活で直面する典型的な課題や特性を反映しています。理解とサポートを通じて、彼らがより良い生活を送るための助けとなることが重要です。
アスペルガー症候群(ASD/自閉スペクトラム症)の大人と子どもの症状の違い
アスペルガー症候群(ASD/自閉スペクトラム症)の症状は、大人と子どもで多くの部分が共通しています。症状は子どもの頃から持続し、大人になると社会的な状況や求められるスキルの変化により、その影響が異なる形で現れることがあります。
子どもの症状
- コミュニケーションや対人関係の困難:友達がなかなかできなかったり、曖昧な表現や皮肉が理解できず、相手の気持ちを読み取ることが難しいため、いじめの対象になることがあります。
- こだわり行動:特定のルーティンや活動に固執し、新しいことや変化に対して強い抵抗を示すことがあります。
- 支援と環境:学校では授業や宿題などのルーティンが決められており、周囲の大人からのサポートもあるため、彼らの特徴が目立ちにくい場合もあります。
大人の症状
- 就職活動や仕事での困難:大人になると、上司や部下、同僚とのコミュニケーションが増え、場の空気を読んだり、相手の発言の裏にある意図を理解したりするスキルが求められるようになります。これが苦手なため、職場での対人関係で問題が生じやすくなります。
- 対人関係の問題:子どもの頃から持っていた対人関係の困難さが、大人になってからの職場や社会生活で顕著に現れ、悩みの原因となることがあります。
- 診断の遅れ:大人になって初めて対人関係の問題に気づき、医療機関を受診して診断を受けるケースも多く見られます。
子どもと大人の違い
- サポートの有無:子どもは学校や家庭でのサポートを受けやすい環境にある一方、大人になるとサポートを受ける機会が減少し、自分自身で対処しなければならない場面が増えます。
- 求められるスキルの変化:子どもの頃は決まったルーティンの中で生活できることが多いですが、大人になると柔軟な対応や高度なコミュニケーションスキルが求められるようになります。
以上のように、アスペルガー症候群(ASD/自閉スペクトラム症)の症状は大人と子どもで共通する点が多いものの、年齢による社会的な要求や環境の違いにより、その影響が異なる形で現れることが多いです。
アスペルガー症候群(ASD/自閉スペクトラム症)の子どもとの接し方
- 見てすぐ分かる環境に整える
漠然とした空間や時間の把握が難しいお子さまには、視覚的に理解しやすい環境を整えることが効果的です。イラストや写真を使って手順や1日のスケジュールを明確に示したり、空間を目的に合わせて仕切ったりすることで、何をする場所なのかが分かりやすくなり、行動しやすくなります。
- 指示は短く具体的に
抽象的な表現ではなく、具体的な言葉で指示を出すことが重要です。「ちゃんと片づけてね」ではなく、「車を箱に入れて」と具体的に伝えると、お子さまが何をすればよいか分かりやすくなります。また、「走らない」ではなく「歩こう」のように、否定形ではなく肯定形で指示を出すと、適切な行動が理解しやすくなります。
- 注意を引いて、事前に伝える
コミュニケーションを取る際には、お子さまの注意を引くことが重要です。肩を叩く、目を合わせるなどしてから話しかけると、伝えたいことを確実に伝えやすくなります。口頭だけでなく、視覚的なサポートを併用することも有効です。
- できる行動に着目し、できない行動は事前・事後の関わりを工夫する
対人コミュニケーションが難しいお子さまには、具体的な行動の手本を示すことが大切です。うまく行動できた時には、すぐにほめるなど、その子にとってうれしいと感じる場面を増やすことで、行動の定着が促されます。現時点でできていることを積極的にほめたり、難しい行動を段階的に促すなどの工夫をして、周りとのスムーズなコミュニケーションをサポートします。
実践例
視覚的な支援:毎日のスケジュールをイラストで示したカレンダーを作る。たとえば、朝のルーティン(顔を洗う、歯を磨く、朝食を食べる)をイラストと一緒にリストにして掲示します。
具体的な指示:片づける時には「おもちゃを棚に置いて」と具体的な動作を示します。行動を促すときには「手を洗おう」と具体的な動作を肯定的に伝えます。
注意を引く方法:話しかける前に肩を軽く叩いて注意を引き、「これから話すよ」と目を合わせて伝えます。視覚的な支援として、重要な指示はイラスト付きのメモに書いて渡すことも有効です。
成功体験の強化:お子さまができた行動について、すぐに「よくできたね」と具体的にほめる。たとえば、「今日、おもちゃをちゃんと片づけられてすごいね」とほめることで、行動が定着しやすくなります。
このような接し方を心がけることで、アスペルガー症候群(ASD/自閉スペクトラム症)のお子さまが安心して生活できる環境を整え、よりスムーズにコミュニケーションを取れるようサポートすることができます。
アスペルガー症候群(ASD/自閉スペクトラム症)の治療
現在のところ、アスペルガー症候群(ASD/自閉スペクトラム症)の症状を根本的に治療することはできません。しかし、トレーニングによって本人のコミュニケーション能力を高めたり、周囲からのサポートによって困難さを減らすことはできます。子どもの頃に受けるそういったアプローチのことを「療育(発達支援)」と呼んでいます。
「療育(発達支援)」とは言葉や身体機能など発達に遅れの見られる子どもについて、生活への不自由をなくすよう専門的な教育支援プログラムにのっとり、トレーニングをしていくことを言います。また、大人になってからはSST(ソーシャル・スキル・トレーニング)と呼ばれる対人関係をうまくおこなうための社会生活技能を身につけたり、障がいの特性を自分で理解し自己管理をするためのトレーニングを受けることがあります。
また、対人関係などの悩みにより眠れなくなったり、抑うつ的になったりした際には、それらの二次的な症状を緩和させるために薬物療法が用いられることがあります。ただ、薬には副作用やその人ごとに合う合わないがあります。そのため低年齢の子どもの場合はより慎重に進めるべきという専門家もいます。主治医の先生と信頼関係を築き、よく相談した上で服薬していけるとよいでしょう。
まとめ
アスペルガー症候群(ASD/自閉スペクトラム症)にはさまざまな症状がありますが、その症状には個人差があります。早期にそれらの特性に気づき、一人一人に合った環境をつくること、苦手なことの対応方法を工夫して、特性を強みとしながら、その人らしい生き方を考えていきましょう。理解とサポートを通じて、ASDの方々がより良い生活を送れるよう、共に歩んでいくことが大切です。
参考
アスペルガー症候群(ASD/自閉スペクトラム症)とは?|LITALICOジュニア
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