2024.06.20

発達障がいが治る子と治らない子、その違いはどこに…?発達障がいにまつわる「嘘と本当」

言葉が幼い、落ち着きがない、情緒が不安定。育ちの遅れが見られる子に、どのように治療や養護を進めるか。

講談社現代新書のロングセラー『発達障がいの子どもたち』では、長年にわたって子どもと向き合ってきた第一人者が優しく教え、発達障がいにまつわる誤解と偏見を解いています。

本記事では〈「発達障がいは一生治らないし、治療方法はない」は本当? …発達障がいについて、誤った認識を持っていませんか?〉に続き、著者が長年にわたって相談に乗ってきた成人について紹介します。※本記事は杉山登志郎『発達障がいの子どもたち』から抜粋・編集したものです。

 

自閉症と診断されたB君の成長記録

B君に初めて会ったのは、彼が4歳のころでした。このころのB君は、幼児らしいふっくらとした体型で、毎日のようにかんしゃくを起こしていました。

 

初診の際、B君のお母さんはおんぶ紐で彼を背負って診察室に入ってきました。この光景は今でも鮮明に覚えています。B君がぐずるとお母さんは彼をあやすために診察室を出て行ってしまい、そのまま戻ってこなかったのです。後に聞くと、お母さんは既に息子が自閉症ではないかと強く疑っており、その診断を下されるのが怖くて診察室にとどまることができなかったそうです。

 

通常学級に進学

B君は両親と目を合わせることがなく、お母さんの指示も理解しませんでした。おんぶされていたのも、下におろすとそのまま走り出してしまうからでした。実際に迷子になったこともありました。言葉は4歳を過ぎても数語程度で、オウム返しのような断片的な発声しかできませんでした。理由もわからずかんしゃくを起こし、行動を止められることに強い抵抗を示しました。お母さんの予想通り、私はB君を自閉症と診断しました。

 

その後、B君は市の運営する母子通園施設に通い始めました。この施設では、保育園に入る前に母子で通園し、生活習慣や集団行動の基礎的な練習を行います。B君はここで急速に身辺の課題をこなせるようになり、周囲の状況に合わせた行動ができるようになりました。5歳前後からは言葉も急速に伸び、小学校入学前の心理検査では知能指数76を示しました。ご両親は迷われましたが、B君は通常学級に進学しました。

 

小学校中学年ごろから学習に困難を覚えるように

しかし、B君も小学校中学年ごろから学習に困難を覚えるようになりました。これは、小学校3~4年の時点でカリキュラムに抽象的なイメージ操作を用いる課題が増えるためです。国語では接続詞、算数では分数や小数など、学習内容が一段階飛躍します。この現象を「9歳の壁」と呼びます。また、同じ時期にいじめもありました。ギャングエイジに突入するこの時期の子どもたちは、親への秘密を持ち、仲間を作るようになるため、いじめが深刻化する傾向があります。B君もそのつど学校の担任にいじめの沈静化をお願いすることが続きました。

 

小学校5年生ごろには、B君は自信を失い、著しく元気がなくなる時期もありました。また、わざと叱られるような行動を取るなど、情緒的にこじれる症状も見られました。しかし、知的には成長しており、知能指数は82とほぼ正常知能に近い値を示していました。

生き生きと働くようになったB君の成長物語

B君とご両親は中学校進学の際、特殊学級への進学を迷うことなく選びました。知的にも高く、学力もあるB君はクラスのリーダーとなり、連続して特殊学級の級長を任せられるようになりました。中学校1年生の2学期には、自分の学校での様子を誇らしげに話すようになり、自信を取り戻したことが窺えました。

 

この頃、B君を知的な遅れのない自閉症やアスペルガー症候群の子どもとその親の会である「アスペ・エルデの会」に誘いました。この会は親子ともに気に入り、B君は熱心に通うようになりました。

 

高校進学に際して、B君は養護学校の高等部を選びました。学力的には通常高校や専門学校にも進学可能でしたが、親子ともに躊躇はなかったようです。彼が選んだ養護学校高等部は職業訓練を徹底的に行うことで有名でした。

 

養護学校高等部を卒業後就職

この学校では、作業の受け答えや作業態度まで含む徹底的な指導が行われます。高校2年生になる頃には、B君は学校の厳しい教育が身についてきたようで、私との受け答えも以前とは異なり、しっかりと目を見て返事をするようになりました。

 

「アスペ・エルデの会」では、高校生以上の青年たちで構成される「サポーターズクラブ」があり、B君も熱心に参加しました。高校生の仲間同士で遊びに行ったり、ボランティアに出かけたりしていました。筆者が主宰する地域のアスペの会の手伝いにも、サポーターズクラブの仲間を誘って駆けつけてくれました。

 

B君は養護学校高等部を卒業後、ある大企業に就職しました。障がい者雇用促進法により、企業は一定割合の障がい者を雇用する必要があり、B君もその枠で雇用されました。養護学校では徹底した職業訓練が行われ、現場実習や企業との話し合いが重ねられ、就労後も教師が職場に訪れるなどのサポート体制が整っていました。

 

他人の悪意に非常に脆弱

B君はこうして就労を果たし、生き生きと働くようになりました。大企業で初任給も高く、すぐにボーナスも支給されるなど待遇も良好でした。B君は残業もこなし、自動車の免許を取得し、自分の給料で購入した車で通勤を始めました。アスペの会やサポーターズクラブの友人との交流も続いており、休日には一緒に出かけることも多かったです。就職後もサポーターズクラブの友人を誘い、アスペの会にボランティアとして参加していました。

 

ある日のこと、比較的遅い時間まで彼がのんびりとしていたので、「今日はゆっくりしているけど大丈夫?」と筆者が尋ねると、B君は「今までは学生だったから鈍行の電車で来ていたけど、今は自分の給料で新幹線で帰れるから大丈夫」と答えました。筆者はこの言葉に非常に感動しました。

 

しかし、問題がまったくないわけではありません。数年前、B君はキャッチセールスの被害に遭い、新しい友達と思っていた相手が実はセールスのお姉さんで、被害額は100万円以上にのぼりました。B君のような人たちは他人の悪意に非常に脆弱です。今後の社会生活の中で、B君が学ばなくてはならないことはまだまだ多いのです。

 

B君の選択

学習に関する問題はB君も、小学校時代に学習のつまずきを経験し、小学校高学年になると危機的な状況に陥りました。B君は中学校進学の際に特殊教育を選択しました。この選択の違いがその後の大きな差を生んだと言わざるを得ません。

 

B君の医学的な診断は学習障がいですが、適応を妨げたのは学習の問題だけでなく、それ以上に自己イメージの混乱や自信の欠如が大きな障がいとなりました。B君は高校生になると、小学校中学年レベルの社会的自立に必要な基礎学力を身につけていました。これは新聞を読んだり、買い物やお金の管理ができる程度の国語力と数学力です。つまり、学習障がいそのものが自立を妨げたのではありません。

 

混乱や選択の誤りがどこにあったのかは、この本を読み進めるうちに理解いただけると思いますが、いくつかの一般的な誤解については、すでにこの事例から疑問を持たれるかもしれません。それをここで取り上げます。

 

発達障がいに関する誤解

1. 発達障がいは一生治らないし、治療方法はない

これは完全な誤りです。きちんと就労し、自分で買った車で会社に通い、残業もこなし、税金をきちんと払っているB君を見れば分かるでしょう。自閉症であるB君はいまだに多くのハンディキャップを抱えていますが、社会的な適応の障がいはほとんど改善されています。

 

2. 発達障がい児も普通の教育を受けるほうが幸福であり、発達にも良い影響がある

B君の学校生活は幸福でした。ご両親はB君の幸せを願って学校選択をしましたが、結果的にはB君の学校生活に大いに貢献しました。通常教育の場では、個別の学習対応には限界があり、子どもの自己イメージに関わる問題も大きいのです。自尊感情を失わせないことが重要なのです。

 

3. 通常学級から特殊学級に変わることはできるが、その逆はできない

これは完全な噓です。特殊学級から通常学級へ移行する児童も多くいます。しかし、通常学級でやってみてダメなら特殊に移すという考えは賛成できません。失敗した場合、子どもは自己尊厳を著しく傷つけてしまうからです。

 

4. 養護学校卒業というキャリアは、就労に際して不利に働く

これはB君の事例からも分かるように、そうではありません。養護学校では就労に関する手厚いケアがあり、企業側もきちんと働ける障がい者を求めています。

 

このように学校選択や教育環境の違いに起因する部分が大きいのです。最適な教育環境の選択が子どもの将来に与える影響は非常に大きいのです。

※本書で取り上げられている事例は、公表に関してご家族とご本人に許可を得ていますが、匿名性を守るため、大幅な変更を加えています。

まとめ

本書を通じて、発達障がいの子どもたちが持つ可能性を最大限に引き出すために必要な教育や支援の在り方について考えていただければと思います。発達障がいは決して一生治らないものではなく、適切な環境とサポートがあれば、彼らも社会で立派に活躍することができます。親や教育者、社会全体が発達障がいについて正しい理解を深め、偏見を取り除くことが求められています。

 

この本が、発達障がいを持つ子どもたちやその家族、教育者にとって一つの指針となり、少しでも多くの子どもたちが自信を持って未来を歩んでいけるようになることを願っています。発達障がいに関する理解を深め、適切なサポートを提供することで、子どもたちの可能性は無限に広がります。A君やB君のような事例から学び、すべての子どもたちがより良い未来を築けるよう、一緒に取り組んでいきましょう。

 

参考

発達障がいが治る子と治らない子、その違いはどこに…?発達障がいにまつわる「嘘と本当」(現代ビジネス) #Yahooニュース


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