2024.06.12

強度行動障がいで自立訓練に追い込まれ、知的障がいの息子が起こした”反乱”「頑張っているけど、もう…」

3月初旬の昼下がり、長野県稲荷山養護学校(千曲市)の中学部3年の教室では、生徒たちが静かに給食を楽しんでいました。その中で、陽気な15歳の大井陽介さん(現在は高等部1年)が突然、両腕でリズムを取りながら「オーレー、オーレー、マツケンサンバ」と歌い出しました。担任の西川ひろみさん(45)は微笑みながら彼を見守っていました。

 

「中学部2年生の時まではイライラしてた」

陽介さんは自閉スペクトラム症と知的障がいを持っていますが、授業で踊ったことがきっかけで、「マツケンサンバ2」の陽気なメロディーが大好きになりました。また、お笑い芸人のコントや「笑点」といった演芸番組も彼のお気に入りで、家では宿題が終わった後に「ザ・ドリフターズ」の動画をよく見ています。陽介さんは常に明るい性格です。

しかし、そんな陽介さんも「中学部2年生の時まではイライラしてたよ」と振り返ります。それでも、今では彼の明るさがクラスに笑顔をもたらしています。

 

おとなしかった陽介さんが物を壊すように

大井陽介さんは10歳ぐらいまでおとなしく、大人に言われたことをきちんとこなす子どもでした。地元の小学校に入学し、特別支援学級に通いながら、順調に学習を進めていました。

しかし、5年生の頃、学校の学習で飯縄山に登り宿泊した際、無理がたたったのか、1カ月後に理科室の窓ガラスを割ってしまいました。その後、タブレット端末なども度々壊すようになり、朝、校門まで来ても近くの木にしがみつき、校内に入るのを拒むようになりました。

 

「毎日ビクビクしていた」

環境を変えるために、陽介さんは稲荷山養護学校に転校しました。登校はできるようになったものの、破壊行動は続きました。家ではテレビを1回、戸を2回壊し、中学部になる頃には母の光世さん(46)よりも体が大きくなっていました。

強度行動障がいの行動が出ていた陽介さんを止めようとしても、光世さんは物を投げ始めると手を出せない状況でした。「毎日ビクビクしていた」と光世さんは振り返ります。

 

強度行動障がいは医学的な診断名ではなく、生まれつきの障がいの特性と周囲の環境がうまく合わないことが原因で起きる二次障がいです。自傷や他害、窓ガラスを割るといった物を壊す行動が現れる状態を指します。

陽介さんは自宅や校舎から飛び出すこともあり、家では光世さんが常に目を離さないようにしていました。陽介さんはいつも眉間にしわを寄せ、にらみつけるような目をしていました。

 

母親にこぼした暴れる理由

2年ほど前のことです。陽介さんは学校から帰ってきて家で暴れた後、疲れ果ててソファに座っていました。一緒にいた母親の光世さんも疲れ果て、つい疑問が口をついて出ました。「どうして」。その問いかけに、陽介さんはぽつりと「僕、もう疲れちゃったよ」と答えました。「頑張っているけど、疲れるし、もう嫌なんだよ。それでイライラする」と続けました。

 

「過剰適応」をして限界が来たのでは

光世さんには、その言葉がこの日のことだけを指しているようには思えませんでした。「社会に出て困らないように」「本人のために」。

振り返ると、幼少期から身の回りのことを自分でできるように訓練を詰め込み、学校でも家でも実行するよう伝えてきました。宿題も一生懸命教え、話すのが苦手な陽介さんに代わり、光世さんは彼の気持ちを代弁して周囲に伝えたつもりでした。

「自分だって疲れている時に頑張らされたら嫌」と光世さんは言います。陽介さんが自分の欲求や感情よりも周囲の期待に応える行動を優先する「過剰適応」をして限界が来たのではないか、と光世さんは思いました。

 

理解したように見えても「過剰適応」の場合も

その日以降、光世さんは陽介さんに気持ちを細かく尋ねるよう心がけました。教員や支援員にも協力を依頼し、陽介さんが自分の気持ちを表現できるようにサポートしてもらいました。陽介さんは「僕は今これをやりたかった」などと自分の気持ちを話すようになり、イライラした気持ちも小出しに伝えることでため込まなくなりました。その結果、陽介さんの物を壊す行動は昨年の春には影を潜めました。

 

耳からの情報を受け止めにくい特性

信州大学医学部の本田秀夫教授(60)は、自閉スペクトラム症の人は耳からの情報を受け止めにくい特性があり、人の指示が分からないことがあると説明します。周囲が「理解した」と思っても、本人にとっては無理やり何かをやらされる行動を止められるといった経験になりやすいのです。そのため、本田教授は「(理解できないまま)過剰適応をしていると思っておいた方がいい」と指摘します。

 

今では、陽介さんは穏やかな表情を見せることが多くなりました。本田教授は、陽介さんが一度行動障がいになったものの、周囲が接し方を変えたことで「社会参加も可能になった」と分析しています。光世さんは次のように話します。「親に迎合せず立派に反乱した。彼の勝ちですね。母は気づかされました」

強度行動障がいは思春期に激しくなりやすく

強度行動障がいは、当事者の特性と周囲の環境がうまく合わないことなどが原因で起きる二次障がいです。特に思春期にはこの障がいが激しくなることが多いとされています。

鳥取大学などのグループが行った研究によると、行動を点数化して年代別に重症度の平均値を調べたところ、就学前(~6歳)から小学校(7~12歳)、中学校(13~15歳)と、思春期に向かうにつれて行動障がいの点数は高まり、高校(16~18歳)および高校卒業後(19歳以上)で最も高くなることが分かりました。

 

思春期は当事者の力が強くなるため、周囲が行動を止めにくくなります。逆に、子どもの頃は力が弱く、高齢になると体力が低下するため、行動障がいが目立ちにくくなりますが、どの年代でも当事者への配慮が必要なことに変わりはありません。

 

力ずくで止められた経験、暴力をふるう原因に

当事者が幼い頃、周囲に力ずくで行動を止められる経験を繰り返すと、「強い者は力を使って弱い者を従わせてよい」などと誤った行動を覚える「誤学習」が起きる可能性があります。この誤学習が起こると、成長して親より力が強くなった時に親に暴力をふるう行動につながることがあります。

 

また、思春期に限らず、聴覚などの感覚が過敏な人は、周囲が何とも思わない環境でもそのつらさを行動で表すことがあります。さらに、嫌な記憶が急によみがえる「フラッシュバック」によって行動障がいが発生するケースもあります。

 

自閉スペクトラム症について: 理解と支援

自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder:ASD)は、幅広い症状や特性を持つ発達障がいの一つです。この症状は、社会的相互作用やコミュニケーション、興味や行動の幅において個々に異なる特性を示します。ここでは、自閉スペクトラム症についての理解と、個々のニーズに合わせたサポートの重要性について探っていきます。

 

症状と特徴

自閉スペクトラム症は、さまざまな症状や特性を包括するスペクトラム状の障がいです。典型的な症状には以下が含まれます。

 

社会的相互作用の困難:他者とのコミュニケーションや関係の構築が難しいことがあります。視線を合わせない、適切な表情やジェスチャーを理解しない、他者の感情や意図を読み取る能力が低いなどが挙げられます。

反復的な行動や興味:特定の興味や活動に強い執着を示すことがあります。例えば、同じ行動や活動を繰り返したり、特定のトピックに対する深い関心を持ったりします。

感覚過敏:光や音、触覚などの感覚刺激に対して過敏であることがあります。過剰な刺激によって不快感やストレスを感じることがあります。

 

理解とサポートの重要性

自閉スペクトラム症を持つ人々が適切なサポートを受けることは極めて重要です。理解ある支援者や環境が、彼らの生活の質と幸福に大きな影響を与えるからです。

 

個々のニーズへの対応:自閉スペクトラム症は一人ひとり異なる特性を持っています。そのため、個々のニーズに合わせた個別の支援が必要です。教育機関や職場などの環境での配慮や調整が重要です。

コミュニケーションの支援:コミュニケーション能力の向上や社会的スキルの養成を支援するプログラムが重要です。非言語的なコミュニケーションやコミュニケーションのルールを理解するためのトレーニングが有効です。

感覚統合のサポート:感覚過敏に対する理解と配慮が重要です。安定した環境や適切な感覚統合セラピーが役立ちます。

 

ASDの診断と治療

ASDは一般的に、幼児期や幼稚園期に発見されることが多いですが、成人期に診断されることもあります。診断には、専門家による行動観察や発達歴の詳細な評価が含まれます。治療法には、行動療法や言語療法、個別支援プログラムなどがあります。早期の介入や適切な支援を受けることで、ASDの人々がより良い生活を送ることができるようになります。

 

ASDの支援と理解

ASDの人々やその家族は、理解と支援が必要です。社会的な支援システムや特別な教育プログラム、コミュニティの理解と協力が不可欠です。また、ASDの人々が社会において自立して生活できるよう、適切な雇用支援や住居支援が提供されることも重要です。

まとめ

陽介さんの経験は、強度行動障がいが周囲の理解と対応によって大きく変わることを教えてくれます。彼の母親である光世さんは、息子が自分の感情を表現できるように努め、その結果、陽介さんは穏やかな表情を取り戻しました。

思春期には特に強度行動障がいが激しくなることが多いですが、適切なサポートと配慮があれば、当事者も社会参加が可能になります。陽介さんの勝利は、彼自身の努力と周囲の理解によって築かれたものであり、同じ悩みを抱える家族にとって大きな希望となるでしょう。

 

参考

「頑張っているけど、もう…」 自立訓練に追い込まれ、知的障がいの息子が起こした”反乱” 「本人のためと・・・」親に思い違いと気づかせたひと言(信濃毎日新聞デジタル) #Yahooニュース


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