2024.09.11

双極性障がい(躁うつ病)の理解と治療 精神的な安定と社会的サポートの重要性

双極性障がい(躁うつ病)は、極端な気分の変動を特徴とする精神疾患で、躁状態(異常な高揚感や過活動)と鬱状態(極端な抑うつや無気力)が周期的に繰り返されることから、その名が付けられています。

この障がいは、日常生活や人間関係に深刻な影響を及ぼし、適切な治療と管理がなされなければ、症状の悪化や社会的な孤立を招くリスクがあります。双極性障がいは、人口の約1%から2%に見られるとされており、非常に一般的な精神疾患の一つです。本記事では、双極性障がいの症状、原因、治療法、そして社会的影響について、詳細な解説を行います。

 

双極性障がいの特徴

躁状態

双極性障がいの「躁状態」は、エネルギーや活動性が異常に高まる状態です。この状態では、気分が高揚し、異常な自信を持ったり、非常に社交的になることが多いです。具体的な症状には以下のようなものがあります。

 

  • 異常な高揚感や幸福感:通常よりも異常にハイな気分が続き、周囲からも明らかに過剰な幸福感が見て取れることがあります。
  • エネルギーの過剰な増加:睡眠が少なくても元気でいられ、活動が活発になります。これにより、長時間働いたり、社交活動に熱心になることもあります。
  • 集中力の欠如:思考が次々と移り変わり、アイデアが止まらない「考えが飛ぶ」状態に陥ります。結果として、集中が難しくなり、物事を完了させるのが難しくなります。
  • リスクの高い行動:躁状態では判断力が低下し、リスクの高い行動を取ることがよくあります。例えば、無謀な買い物やギャンブル、性行動、投資などが挙げられます。
  • イライラや攻撃的行動:気分が高揚しているために、少しのことでも苛立ちやすくなり、攻撃的な態度を取ることがあります。

 

軽躁状態

軽躁状態は、躁状態ほど重篤ではないが、通常の気分と比べて高揚している状態です。症状は躁状態と類似していますが、その程度が軽いため、周囲からは「元気が良い」「積極的」と好意的に見られることがあります。しかし、軽躁状態が続くと、本人はコントロールを失い、日常生活や仕事に支障をきたすことがあります。

 

鬱状態

双極性障がいのもう一つの極は「鬱状態」です。この状態では、気分が極端に落ち込み、エネルギーや意欲が低下します。主な症状には次のようなものがあります。

 

  • 深刻な抑うつ感:長期間にわたって気分が落ち込み、何事にも興味や楽しみを感じなくなります。この状態は、2週間以上続くことが一般的です。
  • 無力感や罪悪感:自分に対して極度に否定的な考えを持ち、無価値感や罪悪感を抱くことがよくあります。
  • 疲労感とエネルギー不足:鬱状態では、日常的な活動すら困難に感じ、簡単なタスクも遂行できなくなります。これにより、仕事や学業、家事が放棄されることが多いです。
  • 食欲と睡眠の変化:食欲が急激に減少したり、逆に過食に走ることがあります。睡眠に関しては、眠れない、または過眠といった極端な変化が見られることが一般的です。
  • 自殺念慮や自傷行為:鬱状態が長く続くと、自殺を考えたり、自傷行為に走るリスクが高まります。これは、双極性障がいにおいて特に注意が必要な症状です。

 

双極性障がいの種類

双極性障がいは、大きく2つのタイプに分類されます。それぞれのタイプには異なる特徴があり、治療や管理のアプローチも異なる場合があります。

 

双極性障がいI型

双極性障がいI型は、完全な躁状態と重度の鬱状態の両方が見られるタイプです。躁状態が1週間以上続き、日常生活に大きな支障をきたすことが多く、場合によっては入院が必要となることがあります。このタイプでは、鬱状態も非常に重篤で、長期間にわたることが一般的です。

 

双極性障がいII型

双極性障がいII型は、軽躁状態と重度の鬱状態を特徴とするタイプです。躁状態ほどの重篤な症状は見られないものの、鬱状態はI型と同様に深刻です。軽躁状態はしばしば「良い時期」として誤認されることがあるため、正確な診断が難しいことがあります。

 

サイクロチミア

サイクロチミアは、軽躁状態と軽度の鬱状態が周期的に繰り返される軽度の双極性障がいです。サイクロチミアの患者は、気分の波が激しいものの、症状が比較的軽度であるため、日常生活には支障が少ないことが多いです。しかし、症状が進行すると双極性障がいI型やII型に移行する可能性があるため、早期の診断と治療が重要です。

双極性障がいの原因

双極性障がいの原因は完全には解明されていませんが、遺伝的要因と環境要因が複雑に関与していると考えられています。

 

遺伝的要因

双極性障がいは遺伝的な側面が強く、家族に双極性障がいの患者がいる場合、そのリスクが高まることが知られています。双極性障がいの患者の親や兄弟が同じ障がいを発症する確率は、一般の人々よりも高いとされています。また、双子研究においても、同卵双生児の場合、片方が双極性障がいを持つともう片方も発症する可能性が高いことが示されています。これらのことから、遺伝的な要因が大きく関与していることが明らかです。

 

生物学的要因

双極性障がいは、脳内の化学物質(特にセロトニン、ノルエピネフリン、ドーパミンなど)のバランスが崩れることによって引き起こされると考えられています。これらの神経伝達物質は、気分や感情の調節に重要な役割を果たしており、これらが不均衡になると、異常な気分の変動が発生することがあります。また、脳の構造や機能にも異常が見られることがあり、脳の特定の領域が双極性障がいに関与している可能性が示唆されています。

 

環境的要因

ストレスやトラウマ、生活環境の変化など、環境的な要因も双極性障がいの発症やエピソードの引き金になることがあります。特に、重大なライフイベント(離婚、失業、愛する人の死など)が発症のきっかけとなることが多いです。環境的要因は遺伝的な要因と相まって、症状の発現に大きく寄与することがあります。

 

双極性障がいの診断

双極性障がいの診断は、精神科医や心理士による詳細な臨床評価に基づいて行われます。この障がいは、躁状態と鬱状態という2つの極端な気分のエピソードが見られるため、他の精神疾患と区別することが必要です。また、診断には時間がかかることが多く、個々の症状の経過を注意深く観察しながら、正確な診断を下すことが求められます。

 

DSM-5に基づく診断基準

双極性障がいの診断は、アメリカ精神医学会が制定した『精神障がいの診断と統計マニュアル(DSM-5)』の基準に基づいて行われます。DSM-5では、双極性障がいの主なタイプである双極性障がいI型および双極性障がいII型に関する基準が明確に定められています。

 

  • 双極性障がいI型:少なくとも1回の躁エピソードがあることが診断基準となります。鬱エピソードは必須ではありませんが、多くの患者がその両方を経験します。
  • 双極性障がいII型:1回以上の軽躁エピソードと、少なくとも1回の重度の鬱エピソードを持つことが診断の条件です。躁状態は見られず、軽躁状態が特徴です。

 

これらの診断基準に加え、患者の家族歴や既往歴、症状の発症時期や頻度も考慮されます。医師は、他の疾患(例:うつ病や統合失調症など)を除外するために、心理検査や質問票を用いることもあります。

 

医学的検査

双極性障がいの診断には、医学的検査も併用されることがあります。これは、脳の機能や神経系に関連する他の疾患を排除するためです。例えば、甲状腺機能障がいや中枢神経系の異常が双極性障がいの症状を模倣することがあるため、血液検査や画像診断(CTスキャンやMRI)を行い、正確な診断を下すための補助的な情報を集めることがあります。

 

記録とモニタリング

患者が自分の気分の変動やエピソードの発生頻度を記録することも、診断の一助となります。気分日記をつけることで、医師が症状のパターンやトリガーとなる要因をより明確に把握でき、診断や治療に役立てられます。このモニタリングは、双極性障がいがしばしば断続的に発症するため、長期的な評価が必要な場合に特に有効です。

 

双極性障がいの治療法

双極性障がいの治療は、症状の安定化と再発の防止を目的としています。治療には薬物療法や心理療法が含まれ、患者の状態や生活状況に応じて最適な治療法が選択されます。双極性障がいは長期間にわたって症状が続くことが多いため、治療は長期的に行われることが一般的です。

 

薬物療法

双極性障がいの主な治療法は薬物療法です。特に、気分の変動を安定させるための気分安定薬が広く使用されています。薬物療法の目的は、躁状態や鬱状態の再発を防ぎ、症状を管理することです。

 

  • 気分安定薬:リチウムが代表的な気分安定薬で、躁状態および鬱状態の両方に効果があります。長期間の使用により、再発を予防する効果も期待されていますが、定期的な血中濃度のモニタリングが必要です。
  • 抗精神病薬:重度の躁状態や精神病的症状が見られる場合、抗精神病薬が使用されることがあります。オランザピンやクエチアピンなどが処方されることが多いです。
  • 抗うつ薬:双極性障がいの鬱状態には、抗うつ薬が処方されることがありますが、単独での使用は躁状態を引き起こすリスクがあるため、他の薬物と併用されることが一般的です。
  • 抗不安薬:不安が強い患者には、抗不安薬も併用されることがあります。

 

心理療法

薬物療法に加えて、心理療法も双極性障がいの治療において重要な役割を果たします。心理療法は、患者が病気と向き合い、生活の中で症状を管理するためのサポートを提供します。

 

  • 認知行動療法(CBT):認知行動療法は、患者が不適切な思考や行動パターンを認識し、それを修正する方法を学ぶために用いられます。特に、鬱状態における否定的な思考を改善する効果が期待されます。
  • 対人関係療法(IPT):対人関係療法は、患者の対人関係や社会的な役割に焦点を当て、症状の悪化を防ぐためのスキルを習得することを目指します。
  • 家族療法:家族療法は、患者の家族も治療に参加することで、家族が双極性障がいについての理解を深め、サポートの質を向上させることを目的としています。

 

ライフスタイルの管理

双極性障がいの治療には、日常生活のリズムを整えることも重要です。規則正しい睡眠、バランスの取れた食事、ストレス管理は、気分の変動を防ぐために不可欠です。特に、睡眠不足や過度のストレスは症状の悪化につながるため、これらのリスク要因を避けることが求められます。

 

  • 規則正しい睡眠:睡眠不足や不規則な睡眠は、躁状態や鬱状態のエピソードを引き起こす可能性があるため、毎日一定の時間に睡眠を取ることが推奨されます。
  • 適度な運動:運動はストレスを軽減し、精神的な健康を維持するために有効です。特に、ヨガや瞑想などのリラクゼーション活動は、精神の安定に寄与します。
  • アルコールや薬物の制限:アルコールや違法薬物は、気分を変動させる要因となるため、これらの摂取は厳しく制限されるべきです。

 

社会的なサポートと対応

双極性障がいの患者が安定した生活を送るためには、家族や友人、職場、医療機関からの社会的なサポートが不可欠です。これらのサポートは、治療の補完として、患者の生活の質を向上させるために重要な役割を果たします。以下に、各方面からのサポートの具体的な方法とその重要性について詳しく説明します。

 

家族のサポート

家族は双極性障がいの患者にとって最も重要なサポートの源であり、適切な支援が症状の管理や生活の安定に大きな影響を与えます。

 

  • 理解と教育:家族が双極性障がいについて理解を深めることは、患者に対する適切な支援の第一歩です。疾患の特性や治療方法について学ぶことで、家族は患者の症状や行動に対する理解を深め、より効果的にサポートすることができます。教育を受けるためには、医療機関やサポートグループが提供する情報を活用することが有効です。
  • 感情的サポート:双極性障がいの症状に対処するためには、患者が安定した感情的な支援を受けることが必要です。家族は、患者の気分の変動を理解し、受け入れることで、安心感や信頼感を提供する役割を果たします。
  • 実生活のサポート:日常生活におけるサポートも重要です。例えば、経済的な問題や生活の管理、医療機関への同行など、具体的な支援を通じて患者の負担を軽減することができます。また、家族が症状の兆候を早期に察知し、適切な対策を講じることも大切です。
  • ストレス管理:家族自身もストレスや負担を感じることがあります。ストレス管理の方法を学ぶことで、自分自身の健康を守りながら、より効果的に患者をサポートすることができます。

 

友人のサポート

友人は、患者の社会的な支えとなり、孤立感を軽減する役割を果たします。友人からの支援は、患者にとって精神的な安定を提供する重要な要素です。

 

  • 理解と受容:友人が双極性障がいについて学び、理解することで、患者との関係がより良いものになります。患者の気分や行動の変化に対して非難することなく、受け入れの姿勢を持つことが重要です。
  • 共感と励まし:気分が落ち込んでいる時や躁状態にある時に、友人の共感や励ましが患者の精神的な支えとなります。友人が安定した存在であることで、患者は安心感を得ることができます。
  • 社会的なつながりの維持:社会的なつながりを持ち続けることは、患者の気分を安定させるために有効です。友人と定期的に連絡を取り合い、一緒に活動することで、孤立感を防ぎ、社会的な支援を提供することができます。

 

職場での対応

職場でのサポートも双極性障がいの患者にとって重要です。適切な職場環境を整えることで、患者が仕事を続けやすくなり、生活の安定に寄与します。

 

  • 柔軟な働き方:双極性障がいの患者には、フレキシブルな働き方が有効です。例えば、勤務時間の調整や在宅勤務など、患者の状態に応じた働き方を提供することで、仕事と治療の両立をサポートします。
  • 理解と支援:職場の同僚や上司が障がいについて理解を示すことが重要です。病気に対する偏見や誤解を減らし、患者が安心して働ける環境を整えることが求められます。定期的なコミュニケーションやフィードバックを通じて、患者のニーズに応じたサポートを提供することができます。
  • 休暇制度の活用:症状が悪化した際には、休暇を取ることが必要です。病気休暇や特別休暇など、制度を活用することで、患者が適切な治療を受ける時間を確保することができます。

 

医療機関のサポート

医療機関は、双極性障がいの治療や管理において中心的な役割を果たします。専門的な知識と技術を持つ医療提供者が、患者に対して最適な治療を提供することが求められます。

 

  • 専門的な治療:精神科医や心理士は、双極性障がいの治療において重要な役割を果たします。症状の管理や薬物療法、心理療法を通じて、患者の安定を図るとともに、定期的なフォローアップを行い、治療の効果を評価します。
  • 多職種連携:医療機関では、医師、看護師、心理士、ソーシャルワーカーなど、多職種が連携して治療を行います。これにより、患者の全体的なケアが提供され、生活の質を向上させることができます。
  • 情報提供と教育:医療機関は、患者とその家族に対して双極性障がいについての情報提供を行います。疾患の理解を深めるための教育や、生活の中で気を付けるべき点についてのアドバイスが含まれます。
  • 緊急時の対応:症状が急激に悪化した場合には、緊急対応が必要です。医療機関は、緊急入院や短期的な治療を通じて、患者の安全を確保し、症状の安定化を図ります。

 

双極性障がいと社会的課題

双極性障がいに関連する社会的課題は、患者だけでなくその周囲にも影響を及ぼします。社会的な偏見や誤解、リソースの不足など、さまざまな問題が存在します。

 

社会的偏見と誤解

双極性障がいに対する偏見や誤解は、患者が適切な支援を受ける妨げとなることがあります。精神疾患に対する理解が不足していると、患者が社会から孤立したり、差別的な扱いを受けることがあります。これにより、治療の受け入れが難しくなり、症状が悪化する可能性もあります。

 

  • 教育と啓発:精神疾患に対する正しい理解を広めるための教育や啓発活動が必要です。学校や職場、メディアなどで精神疾患についての情報を提供し、偏見を減らすための取り組みが求められます。
  • 支援団体の活動:支援団体や患者団体は、双極性障がいに関する情報提供や、患者の権利擁護に取り組んでいます。これらの団体の活動を支援し、社会的な意識を高めることが重要です。

 

医療資源とアクセス

双極性障がいの治療には、専門的な医療資源が必要です。しかし、医療資源の不足や地域によるアクセスの違いが問題となることがあります。

 

  • 医療サービスの向上:精神疾患に対する医療サービスの質を向上させるための取り組みが必要です。専門医の育成や、地域医療機関の充実を図ることが求められます。
  • アクセスの改善:医療機関へのアクセスが困難な地域では、遠隔医療や訪問医療などのサービスを提供することで、患者が適切な治療を受けられるようにすることが重要です。

 

経済的支援と雇用

双極性障がいの治療には経済的な負担が伴うことが多く、また、仕事を続けることが難しくなる場合もあります。経済的な支援や雇用の維持は、患者が安定した生活を送るために重要です。

 

  • 経済的支援:医療費の負担を軽減するための制度や支援が必要です。例えば、医療保険の充実や、障がい者手帳による支援が考えられます。
  • 雇用支援:雇用の維持や再就職を支援するプログラムやサービスが求められます。職場での合理的配慮や、就業支援を通じて、患者が自立した生活を送るためのサポートが必要です。

まとめ

双極性障がいは、気分の極端な変動を特徴とする精神疾患であり、その管理と治療には専門的なアプローチが求められます。診断には慎重な評価が必要であり、治療には薬物療法と心理療法が中心となります。また、家族や友人、職場、医療機関からのサポートは、患者の安定した生活を実現するために不可欠です。

 

社会的な偏見や医療資源の不足といった課題にも対処しながら、患者がより良い生活を送るための支援を行うことが重要です。双極性障がいの理解を深め、適切なサポートを提供することで、患者がより充実した生活を送ることができるようにすることが、社会全体の責任です。

 


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