2024.09.06

急増する「大人の発達障がい」トラウマとADHD 幼少期の心の傷がもたらす影響と治療のアプローチ

近ごろ、「ADHD」という言葉がまるで一般用語のように使われることが増えております。不注意や多動性、衝動性が特徴である「発達障がい」の一種の症状です。文部科学省の資料によると、子どもの「発達障がい」の診断数は2016年から2021年までに約16倍に増加しているとのことです。同様に増え続けているのが「大人の発達障がい」です。

『トラウマからの回復』(扶桑社)の著者であり、田町三田こころみクリニックでトラウマの専門外来を行っている精神科医の生野信弘氏は、その背景に「幼児期に受けた“トラウマ”が原因となり、発達障がいと似た症状を示している人が一定数いるのではないか」と指摘しています。

 

「幼児期に家庭内暴力や面前DV、身体的な虐待やネグレクト(育児放棄)にともなう養育者の頻繁な交替といった慢性的なトラウマ体験にさらされ、愛着の形成に失敗すると、児童の一部は落ち着きがなかったり、衝動的であったり、反抗的な言動をするなど、ADHDと似た症状が現れることがあります」と生野氏は説明しています。

幼少期のトラウマや養育者とのアタッチメント(近接)の不全が「発達障がい」と似た症状を引き起こすメカニズムについて、そしてメンタルクリニックの治療現場では、具体的にどのような方法で傷ついた心の修復を進めていくのかについて、詳しく見ていきたいと思います。※以下、『トラウマからの回復』(扶桑社)より、一例を抜粋して編集した内容をお伝えいたします。

 

感情調節の障がい

「感情調節の障がい」は文字通り、感情調節にまつわる機能がうまく働いていないこと。些細なストレスで気持ちが傷ついて怒りを爆発させてしまったり、無謀な行動や自己破壊的な行動など、感情反応の高まりとして表現されます。

 

抑うつ症群の子どもや、青年では抑うつ状態が「イライラした気分」や「怒りっぽさ」として表れることもあるので、慎重な診断が求められます。あるいは反対に、喜びやポジティブな感情を実感することができないなど、感情の麻痺も感情調節の障がいに含まれます。

 

本来、こうした感情調節のスキルは乳児期から児童期にかけて養育者との関係の中で培われていきます。

 

幼いころ、恐怖、怒り、悲しみ、喜びをもたらす体験をした際に、養育者が「怖かったね」「楽しいね」といった具合に声がけなどして、感情に名前をつけてくれます。そうすることで、子どもは自分の感情を正しく認識し、自覚できるようになるのです。

 

一方で、養育者による心理的なネグレクトや、子どもが気持ちを表に出すと暴力をふるうなどの行為があると、子どもは自分の感情に正しくラベルをつけることができなくなります。

 

そして、その子は自分の感情に気がつくことができなくなったり、その感情を抱えておくことができなくなってしまいます。感情を抱えておくことができないと、成長後も自分の感情を調節するために暴力的なまでの情動の爆発や、自己破壊的な行動をもたらすこともあります。

 

問題行動やさまざまな行動で感情を調節しようとする

危険をかえりみない衝動的で無謀な行為や、アルコールなどの物質依存、過食や過食嘔吐、リストカットなどの自傷行為、大量服薬、買い物依存、浪費など、一般的に問題行動やアディクションと呼ばれるさまざまな行動で感情を調節しようとする患者さんもいます。

 

また、こうした情動制御の困難さは双極性障がいとみなされてしまうことが多いのも特徴です。さらに、このような衝動性はADHD(注意欠如多動症)の人にも認められるため、発達障がいと診断されたり、患者さんご自身が発達障がいだと思い込んでいるケースも後をたちません。

 

発達障がいと診断された、あるいは患者さんご自身がそう思っていたとしても、生育歴を振り返ってみるとトラウマ体験によって表面化した症状だった、という場合もあるのです。

対人関係の障がい

「対人関係の障がい」が生じると、人間関係を維持することや他者を身近に感じることに困難さを覚えます。

 

対人関係が難しいと聞くと「他者と衝突しやすい人」を思い浮かべるかもしれませんが、自己組織化障がいの対人関係の障がいでは人間関係や社会との関わりを避けようとしたり、関心を示さないケースもみられます。

 

過去には「人と距離があるように感じる」「仲間はずれにされているように感じる」「人と感情的に近い距離を保つのが難しいと感じる」と訴えるかたもいました。

 

他者に対して交流を求めながらも関係を作れなかったり維持できなかったりして、結果的に他人と距離を取ってしまう。他者に対して無関心にも見えるこの状態は、ASD(自閉スペクトラム症)のかたにも当てはまり、これも発達障がいとみなされるケースにつながります。

 

ひとまとまりの自分

人間には他の個体への近接(アタッチ)を通じて、安心感を回復・維持しようとする根源的な欲求があります。

 

アタッチメントは、不安や怖れなどの感情の乱れを自己と愛着対象(多くの場合は養育者)との間の関係性によって調節する仕組みともいえるのです。

 

トラウマ関連疾患は、乳幼児期にアタッチメントの形成が阻害された結果、神経系の発達が妨げられることで起こります。すなわち、トラウマ関連疾患を抱える多くの方は適応的ではないアタッチメント・スタイルが続いているのです。

 

トラウマ治療によって人格が統合されても、そのひとまとまりの人格はまだアタッチメントを知らない状態といえます。

 

さて、乳幼児期に得られなかったアタッチメントですが、成人後も治療の過程で、自力で得ていくことができます。それが「自分が自分の親になる」ということ。その手法の1つが「メンタライジング・アプローチ」です。

 

自分が自分の親になる

実は、慢性的にトラウマ体験を受けてきた人の多くは、成人後も親、あるいは他者に対する「依存欲求」がまだ残っています。

 

成人後に養育者との関係を断ち切り、折り合いをつけていると表面上は思っていても、心の底では依存欲求がくすぶっているというパターンもあります。ただ、この場合の依存欲求というのは「今の自分が高齢となった親の愛情を求めている」のではなく、「過去の自分が親の愛情を求めていた」と自覚する必要があります。

 

幼少期に親から「よしよし」してもらいたかった、感情を受け止めてもらいたかった、でもそれはもう叶わないことなのだ……。その事実を受け入れ、依存欲求を断ち切り、自分で自分のアイデンティティを作っていくのです。

 

そうしたプロセスのなかで、辛かった過去の自分に会いに行き「自分が自分の親になる」ことが求められます。クリニックの治療では、具体的なトラウマ体験の出来事を聞き出すことはありません。一方で、子ども時代はどんな気持ちで過ごしていたのか、本当は何を求めていたのか、何に傷ついていたのか、といった傷つきへの自覚を促します。

 

そして、自分がその子の親だったら何をしてあげるのか、どんな言葉をかけてあげるのかを考え、今の自分が過去の自分を助けてあげるのです。

***

本記事は『トラウマからの回復』(扶桑社)より、一部を抜粋/編集してお伝えしました。本書では、実際にクリニックに訪れた社会人女性「ハナさん」と医師とのカウンセリング風景などを通し、「複雑性PTSD」、「発達性トラウマ障がい」の症状や診断基準を詳しく解説しています。

 

生野信弘

1988年長崎大学医学部卒業、1995年同大学院修了。医学博士。同大学卒業後、長崎大学第二内科、佐世保市立総合病院で内科医長を務め、1998年にオーストラリア・モナッシュ大学の生化学・分子生物学科に2年間留学。帰国後、離島医療やホスピス緩和ケアに従事。2001年に精神科に転向し対人関係療法などを学び、現在は田町三田こころみクリニックで、過食症の対人関係療法とともに「発達性トラウマ障がい」や「複雑性PTSD」などトラウマ関連疾患の専門外来を担当している。精神科専門医・指導医。(デイリー新潮編集部)

 

ADHD(注意欠陥・多動性障がい)とは?

ADHD(Attention Deficit Hyperactivity Disorder)は、発達障がいの一種で、注意力の持続が難しかったり、衝動的な行動を取ってしまう、または過剰な活動性を示す特徴を持つ障がいです。この障がいは主に子供に見られることが多いですが、大人にも引き継がれることがあります。症状の重さは個人によって異なり、生活にどの程度の影響を与えるかもさまざまです。

 

ADHDの3つの主な特徴

■不注意(Attention Deficit)

ADHDの人は、物事に集中することが難しいと感じることが多いです。細部に注意を払うことができず、ミスをしがちだったり、長期間にわたる仕事やプロジェクトに取り組む際に興味を失いやすいです。また、忘れ物が多かったり、物を失くしやすいこともあります。

 

■多動性(Hyperactivity)

ADHDの人は、静かにしていることが難しく、落ち着かない行動を示すことがあります。特に子供の場合、教室で席を立ったり、騒ぐことがよく見られます。大人の場合は、座っている間も足を動かし続けたり、会話中に話題があちこちに飛んでしまうことがあります。

 

■衝動性(Impulsivity)

衝動的な行動を取ることも、ADHDの特徴です。例えば、質問が終わる前に答えようとしたり、順番を待つことが苦手だったり、他人の会話に割り込むことが頻繁にあります。また、リスクを考えずに行動することがあり、事故や怪我の原因になることもあります。

 

ADHDの原因

ADHDの正確な原因はまだ完全には解明されていませんが、遺伝的要因が大きな影響を与えていると考えられています。脳内の神経伝達物質であるドーパミンの働きに問題があることが一因とされており、また、環境要因(出生時の問題、妊娠中の母親の健康状態など)も影響を与える可能性があるとされています。

 

ADHDの診断と治療

ADHDの診断は、主に心理検査や行動観察を通じて行われます。症状が長期間持続していること、生活や学業に支障をきたしていることなどを確認するために、医師や専門家による綿密な評価が必要です。大人の場合も、同様のプロセスを経て診断が行われます。

治療法としては、薬物療法と行動療法が主に用いられます。薬物療法には、注意力を向上させる薬や、衝動性を抑える薬が使用されます。また、行動療法では、問題行動を改善し、社会的スキルを身につけるためのサポートが提供されます。

 

ADHDと共に生きるために

ADHDの人々は、生活や学業、仕事においてさまざまな困難に直面しますが、適切な支援と環境が整えば、これらの課題を克服し、充実した生活を送ることができます。家族や友人、学校、職場など、周囲の理解と協力も重要です。ADHDに関する正しい知識を持つことで、本人も周囲の人も、前向きな対応が可能になります。

 

ADHDは、注意力や衝動性、多動性に関連する発達障がいであり、子供だけでなく大人にも影響を与える可能性があります。正確な診断と適切な治療、そして周囲の理解と支援が、ADHDの人々にとって重要な要素です。個々のニーズに応じたサポートを受けることで、より良い生活の質を実現することができます。

まとめ

幼少期のトラウマは、発達障がいと類似した症状を引き起こすことがあり、注意深い診断と治療が必要です。自分自身の心の傷と向き合い、過去の自分を癒すためのアプローチを通じて、健やかな自己形成を進めることができるのです。自分が自分の親になるという考え方は、トラウマを抱えた人々が新たな一歩を踏み出すための重要な鍵となります。

 

参考

急増する「大人の発達障がい」“幼児期のトラウマ体験”で傷ついた人を助ける“意外な存在”とは(デイリー新潮) #Yahooニュース

 


凸凹村や凸凹村各SNSでは、

障がいに関する情報を随時発信しています。

気になる方はぜひ凸凹村へご参加、フォローください!

 

凸凹村ポータルサイト

 

凸凹村Facebook

凸凹村 X

凸凹村 Instagram


 

関連情報

みんなの障がいへ掲載希望の⽅

みんなの障がいについて、詳しく知りたい方は、
まずはお気軽に資料請求・ご連絡ください。

施設掲載に関するご案内