2024.08.23

発話障がいとは?その原因とリハビリテーションの重要性

発話障がいとは、言語を使用して効果的にコミュニケーションを取ることが困難になる状態を指します。この障がいは、音声を発するための筋肉の調整がうまくいかない場合や、言葉を適切に組み立てられない場合に生じることがあります。その原因は多岐にわたり、脳の損傷、発達障がい、神経疾患などが考えられます。リハビリテーションは、発話障がいを持つ人々が日常生活でのコミュニケーション能力を改善するために不可欠な手段です。

言語聴覚士、英語ではSpeech-Language-Hearing Therapist。頭文字を取りSTと呼ばれることが多くあります。今回は「発話(スピーチ)」の障がいについてご紹介します。

 

運動性の発話障がい

皆さんの中に歯科で口の中に麻酔をされた経験をお持ちの方はいませんか?口の中がしびれて感覚がなくなるとしゃべりにくいですね。では、もし感覚がないだけでなく、力が入らないために、口が閉まらず舌が上あごにつかなくなったらどうでしょう?

 

例えば口を開けたまま「ピタパ」と言ってみてください(おそらく上手に発声できないでしょう)。このように成人の発話障がいの代表的なものは、くちびる・舌・頬などの発声発語器官の運動障がいによって引き起こされます。原因疾患としては脳血管障がいが多く、脳腫瘍や頭部外傷、パーキンソン病のような進行性の神経疾患でも生じます。

 

運動系の発話障がいには、麻痺(まひ)によって発音が不明瞭になる他に、口の動きの速さやリズムの調整がうまくできずに、酔っぱらったような言い方になってしまうタイプもあります。また、言おうとしてもなかなか口が動かず、話し出すと小声で早口になってしまうというタイプもあります。また、こうした発話障がいのある方は、声がかすれたり、力んで楽に発声できなかったり、ぼそぼそと小声になったりすることがあります。

 

発話障がいに対するリハビリテーション

発話障がいに対するリハビリテーションは、症状や重症度に合わせて行います。例えば運動麻痺による場合は、まずくちびる、舌、頬などの運動の改善を図り、その上で発音の練習を行います。発話の速さの調節や抑揚の練習をすることもあります。発声に問題のある場合は呼吸から始めて自然な声が出るように練習します。重度でコミュニケーションがとりにくい場合は筆談、50音表、コミュニケーション機器などの代替手段も検討します。

 

発話の改善のためには繰り返し練習を行なうことの必要に加え、ご本人の発話に対する自覚も大切です。疾患によっては自分の発話の状態がよく分からない場合もありますので、周囲からの適切なアドバイスが重要となります。

 

もう一つの発話障がい「発語失行」

実は運動系の発話障がい以外に、大脳の前頭葉の特定の領域の損傷のために、発声発語器官に麻痺はないのにうまく発音できなくなる場合があります。これは発音時にくちびるや舌をどのように動かすかという発音の仕方が分からなくなるもので、「発語失行」と言います。

 

ちょっと分かりにくい症状ですが、私たちが日本語にない外国語の発音を初めて学習する時の感じをイメージしていただくとよいかと思います。発語失行は運動機能に問題はないので、運動の範囲や力に関わりなく、同じ発音でもできる時とできない時があります。また、発語失行はしばしば失語症(=言葉の理解や正しい語の表出といった言葉の内容に関わる障がい)に合併して生じます。

 

リハビリテーションは発音の仕方を再学習

リハビリテーションは発音の仕方を再学習することから始めます。口の形や舌の位置を図で示したり、仮名を手掛かりにして練習することもあります。症状が軽くて話せる方でも、言いにくい音の組み合わせで詰まらないようにさまざまな言葉や文を練習します。

 

うまく発音できず言いたいことが言えないのは大変苦痛なことで、中には鬱(うつ)のような状態になったり練習を拒否する方もいらっしゃいます。言語聴覚士はこうした方々の心にも寄り添いながら、よりよいコミュニケーション方法を探っていきます。

 

話し言葉の異常ってなに?

いろいろな環境で、ことばを理解し、的確かつ明瞭に話すことは、自立した生活を送る上でとても大切です。ことばを理解し、話す・伝えること(コミュニケーション)がうまくいかなければ、社会生活を営む上で様々な不自由が生じることになります。

 

話しことばの理解と表出、声や発音の異常は、幼児から高齢者まで、脳・神経系の疾患(脳卒中他)、奇形や変形(口蓋裂他)、難聴、生活の中での活動状況により起こることがあります。こういった問題には、早期の発見と評価、適時・適切な対応がとても重要です。

 

専門家の対応が必要

言語障がい(言語発達の遅れ、失語症)、発声発語障がい(声の問題=音声障がい、発音の問題=構音障がい、流暢性の問題=吃音)、きこえの低下とそれに伴うことばの問題、高次脳機能障がい(記憶障がい等)には、専門家の対応が求められます。話し言葉の異常(音声言語障がい)は、音声を作る段階(声、発音、ことばの流れ)の問題と言語を理解・表出する段階の問題に分けることができます。

 

きこえの問題は、ことばの理解だけではなく、発声や発音の学習・維持にも支障をきたすので、軽視できません。次脳機能には、言語、認知(外界を捉える能力)、記憶、行為が含まれ、その異常は行動面に多様な形として現れます。

 

以下に、声の問題(発声障がい)、発音の問題(構音障がい)、流暢性の問題(吃音)、ことばの問題(言語障がい:ことばの遅れ、失語症)、きこえの問題(聴覚障がい)、記憶等の問題(高次脳機能障がい)についての概略を記します。

 

発声障がい(音声障がい:声の異常)

喉頭病変:声帯に炎症や浮腫、ポリープなどの形態上の異常があり、声帯振動を阻害して、嗄声や声の大きさ・高さの制限をきたす。声の乱用による声帯結節は学童男児や声を過度に使う職業人に多くみられる。

 

喉頭まひ:神経疾患や胸部外科他に伴う迷走神経の機能低下や損傷により、声帯の運動が片側あるいは両側で制限される。音声はかすれ声あるいは失声となり、両側性では呼吸困難も生じる。

 

痙攣性発声障がい:喉頭ジストニーに伴う声帯内外転の異常により、間欠的な声の途絶あるいは息漏れが生じる。喉頭の観察では異常なし、会話等で声が出ていることもあり心因性と考えられがちだが、神経原性の発声障がいで、20~40歳の女性に多い。

 

失声症(機能性):喉頭に異常がないにもかかわらず、声が出せない状態をいう。精神的なショック(身内の死去や転居)を起因として始まることがある。

 

変声障がい:喉頭の大きさの急激な変化に適応できずに生じる高くかすれた声で、第二次性徴以降の男子にみられる。

 

治療・音声リハビリテーション:喉頭の病変や麻痺に対しては、医科の治療(手術や投薬など)が優先され、喉頭・声帯の状態の修復とともに、声の衛生の指導と音声治療(発声訓練)が行われる。痙攣性発声障がいや機能性失声に対しては、音声治療での声の改善を目指しながら、他の治療の選択肢(注射や手術等)を検討する。

 

構音障がい(発音の異常)

構音障がい:発語時の言語音(母音や子音)の誤りが固定化した状態をいう。その原因により、器質性、運動(障がい)性、機能性に分けられる。他にも、感覚性と言語性の問題を背景とすることがある。

 

器質性構音障がい:発語器官(顔面、唇、顎、舌、口蓋、咽頭)の形態異常(奇形・変形)や欠損による発音の異常である。口唇口蓋裂や顎変形症などの先天的異常と舌癌の切除術後などの後天的異常が代表的な原因である。

 

運動(障がい)性構音障がい:脳卒中や変性疾患などに伴う神経筋の機能低下によって、発声発語に関わる呼吸・喉頭と上気道の運動の調節ができずに起こる話し言葉の異常である。呂律が回らない、声が擦れる・鼻に抜ける、ことばが途切れる、話すスピードが遅い、といった状態がよくみられる。

 

機能性構音障がい:発語器官の形態と機能(運動・感覚)に明らかな異常がないにもかかわらず、適齢になっても発音がうまくできない状態である。通常は4歳から5歳で日本語の母音と子音は明確に発音できるが、カ行やサ行がタ行に、ラ行が他の音になる子供が時々いる。

 

以下は、難聴等に伴う構音障がいとことばの遅れに伴う構音障がいで、いずれも聴覚障がいと言語発達障がいによって2次的に起こるものである。

 

感覚性構音障がい:口腔内の感覚喪失で発語が乱れることもある。先天性の高度難聴に伴い言語音が聴取できなかったために起こる構音障がいがある。サ行音など高い周波数帯域で弱い音が特に聴取されにくく、誤りとなることが多い。

 

言語性構音障がい:ことばの発達の遅れに伴って起こる幼児様の発音の誤りで、学童期に入っても構音障がいが継続する。

 

治療・構音リハビリテーション:形態の異常に対しては、医科歯科の介入で修復をはかる。構音訓練は、誤り音と目的とする音との区別をすること、目的とする音のための構えを作ること、音から音節、語から文へと段階的に適切な音作りを学習していくこと、からなる。運動(障がい)性の構音障がいでは、呼吸・発声訓練、ことばのリズムや話し方の指導も含まれる。

 

吃音(流暢性の異常)

幼児期~学童期

2歳から言葉が増えて2語文を話すあたりで、子供たちに音・音節や語のくり返しがよくみられる。これは、通常はしばらくすると消失するが、一部の子供で音の引き伸ばし(例:「ぼーーうし」)やつまり(ブロック、例:「これ・・・ぼうし」)が加わり、時に身体的な緊張を伴うことがある。こういった状態が半年以上続いた状態を吃音(進展・慢性化)とよぶ。

 

学童期~成人の吃音

幼児期に始まった吃音の状態が良くなったり悪くなったりの波を示しながらも、持続する状態である。音・音節のくり返し、音の引き伸ばし、ブロック(語の開始困難と語の分断)を主な言語症状とし、随伴症状と呼ばれる話す時の不自然な身体の動き(足を踏みならす、視線をそらす等)もみられることがある。吃音への自覚と予期から、話す場面を避ける(回避)、別の言葉で言い換える(工夫)という反応を見せ、学校や職場での適応も難しい場合が多い。

 

吃音リハビリテーション

幼児期あるいは慢性化していない吃音(疑い)に対しては、話しやすい状況をつくること(環境調整)を行う。家庭や幼稚園の協力を得て、話し相手が、子供をせかさないでじっくりと話しを聴く姿勢をとること、話すことを楽しめる環境づくりが指導される。学童期以降の吃音に対しては、学校や職場での環境調整とともに、話す時のリズムを揃えていく方法(メトロノーム使用)や身体緊張を高めないで息を出していく話し方を練習する。

 

本人が、話す運動をコントロールすること、そして不安な場面や言葉に対して、段階的に課題を設定して、成功体験により、話す活動に積極的に参加できるように指導する。

 

成人の言語障がい

失語症:脳血管障がい(脳卒中)や頭部外傷により、大脳優位半球(主に左半球)に損傷を受け、すでに獲得された言語の諸側面(聴く、話す、読む、書く)の能力が低下した状態である。

 

認知症に伴う言語障がい:高齢者で知的機能、記憶、注意などの認知面の低下により、ことばが思い出せない状態(語想起の問題)である。進行すると、意思疎通が困難となることもある。軽度発達障がいあるいは知的機能低下に伴う言語障がい:子供の時からの言語獲得・学習の問題がある場合には、成人での就業あるいは社会生活で、コミュニケーションがうまくとれないことがよくある。

 

治療・言語リハビリテーション:脳の機能維持に対する治療とともに、言語の諸側面への取り組みとともに、コミュニケーションの訓練・指導が行われる。

言葉の遅れ

言語発達障がい

さまざまな原因によって、ことばの理解や表現が同一年齢の平均的発達水準から遅れている(量的異常)、理解・表現能力の格差や入出力の経路(聴覚・視覚)での言語処理に違いがある(質的異常)状態を、言語発達障がいと称する。

 

ことばの遅れには、内言語(language)の発達の遅れと、話しことば(speech)の遅れがある。言語発達は、子供が言語を獲得あるいは学習する能力と、子どもと他者(家族・友人・先生など)との相互作用を通じて実現される。主な原因は、先天異常に伴う精神発達遅滞(ダウン症他)、他者とのやり取りも含めた問題(自閉症・広汎性発達障がい)、言語学習能力の制限、高度の難聴である。

 

言語リハビリテーション

言語発達障がいへの介入は、ことばの獲得への基盤作り(認知・概念などの基礎的な段階、音声言語への関心・注意、行動のコントロール)とことばの諸側面(FORM文法・語連鎖、CONTENT語彙・意味、USE運用・やりとりでの言葉の使用)の学習促進、家庭や幼稚園・学校での言語でのやりとりや学習の支援からなる。こどもの発達段階に合わせた課題設定と適切なトレーニング、家庭学習が盛り込まれる。

 

聴覚障がい

老人性難聴(加齢による難聴)

高齢者では、耳の聞こえ(聴力)が低下する。聴力の低下は、個人差があり、少し音量を上げるか周囲が静かであれば支障のないレベルから補聴器がなければ音がほとんど聴こえないレベルまである。

 

高齢者の難聴(老人性難聴)の特徴は、音自体の聞こえが悪くなる場合(音が小さく聞こえる)と音は聞こえるがことばがはっきり聞き取れない場合(ことばの聞き分け能力の低下)があり、後者では補聴器を装着しただけではきこえに関する生活の不自由は解決されない。

 

小児の聴覚障がい

先天的にあるいは後天的に小児期に耳の聞こえが低下することがある。先天性の難聴は奇形や風疹症候群による内耳障がいによるものが多い。後天性難聴で多いのは中耳炎で、慢性化すると聴力低下が長期にわたることになる。

 

難聴により、乳幼児期では言語発達の遅れや構音発達に支障が生じることがあり、学童期では学習上のハンデとなり学力低下を示すこともある。難聴によるきこえと言葉の理解への影響は、難聴の程度、難聴の種類(伝音性と感音性、低音・高音障がい)によって異なる。

 

聴覚評価

成人では、音刺激を自覚して反応する純音聴力検査(音のきこえ)、語音聴力検査(ことばの聞き分け)によりきこえの状態を評価することができる。小児の難聴(特に乳幼児)では、その子どもの発達に応じた聴覚検査法による評価が必要となる。生後0か月から2歳頃までは、聴性脳幹反応(ABR)、聴性行動反応(BOA)、条件詮索反応聴力検査(COR)などの他覚的な検査により聞こえの程度を確定する。

 

幼児では2歳から検査の練習をすることで、ピープショウテスト、遊戯聴力検査などの自覚的な聴力検査が可能となり、周波数ごと聴力(閾値)や難聴の種類を確定する貴重な所見が得られる。治療・補聴・聴能リハビリテーション:老人性難聴に対しては、その人の生活様式に応じた相談、助言が行われる。

 

ご本人に対しては補聴器の試聴や補聴器の装用指導が行われ、ご家族に対しては話し方についての助言がなされる。また、聴力管理のための定期的な聴力検査が実施される。小児の難聴に対しては、聴力の精査、補聴器のフィッティング、聴能言語訓練、構音障がいへの訓練・指導が適期に実施される。

 

高次脳機能障がい

認知症:いろいろな記憶障がい(最近の出来事、物事の取り扱い方等)とそれ以外の複数の脳機能障がいが重複して起こり、日常・社会生活に支障をきたした状態で、進行性あるいは慢性的なものをいう。脳の変性や損傷(アルツハイマー病、ピック病、多発性脳梗塞)によって起こる。

 

頭部外傷に伴う諸問題:交通事故などによる頭部外傷に伴い大脳の機能低下が起こり、言語だけでなく記憶、注意、行為、情動の異常が出現した状態である。神経疾患に伴う記憶や注意の障がい:変性疾患(パーキンソン病等)に伴い記憶や注意の低下がみられる状態である。

 

評価と治療・脳機能リハビリテーション:記憶(物忘れ)や注意の検査および脳機能の訓練が行われる。

 

嚥下障がい

嚥下は、飲食物や分泌物(唾液等)を口から咽頭・食道を介して胃まで送り込む過程である。咽頭で気道と交叉するために、喉頭が気道を防御している(誤嚥防止)。

 

嚥下障がい

脳卒中や神経疾患に伴う感覚運動の異常、腫瘍や骨棘などの上部消化管の形態変化や圧迫によって、飲み込みの困難が生じた状態をいう。

 

摂食意欲の問題(認知症でみられる、食べようとしないあるいは口に入れたままという状態)を含めて、摂食・嚥下障がいとも呼ばれている。嚥下障がいがある症例には、飲食物や唾液の誤嚥や窒息、摂取制限による脱水と低栄養に対して、十分な配慮が必要となる。

 

評価と治療・嚥下リハビリテーション

嚥下は身体内の出来事なので、嚥下評価では造影や内視鏡での状態確認が欠かせない。もちろん、身体状態と日常場面での飲食、本人・家族(介護者)からの情報を合わせて、総合評価が行われる。

 

治療は、疾患に対するものと嚥下困難に対するものがあり、重症例には外科的な方法も選択肢となる。嚥下リハビリテーションでは、機能回復訓練、代償的方法(姿勢や食物形態の調整)、嚥下法の練習がある。嚥下のための感覚運動の適正化をはかるトレーニングや指導が行われる。

まとめ

言語聴覚士は、発話障がいに苦しむ方々に寄り添い、その一人ひとりに合ったリハビリテーションを提供することで、生活の質を向上させることを目指しています。適切な支援と共に、周囲の理解と協力が得られれば、患者さんのコミュニケーション能力は確実に向上し、社会生活においてより自立した生活を送ることが可能となるでしょう。発話障がいに対する適切な理解と早期介入の重要性を再認識し、より良いサポート環境を築いていくことが求められます。

 

参考

成人の発話障がいについて|KOYUKAI FRIENDS

話し言葉の異常ってなに?|京都先端科学大学

 


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