自閉スペクトラム症(ASD)とは?理解と支援、特性とその対処法
「自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder: ASD)」は、対人関係が苦手·強いこだわりといった特徴をもつ発達障がいの一つです。近年では、早ければ1歳半の乳幼児健康診査でその可能性を指摘されることがあります。
自閉スペクトラム症とは?
「自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder: ASD)」は、対人関係が苦手・強いこだわりといった特徴をもつ発達障がいの一つです。近年では、早ければ1歳半の乳幼児健康診査でその可能性を指摘されることがあります。
自閉スペクトラム症には、対人関係やこだわりの特性がきわめて強い状態だけでなく、これらの特性が少しでもあることによって生活に支障を来し、福祉的・医療的サポートが必要な状態まで幅広く含まれます。最近の調査では子どものおよそ20~50人に1人が自閉スペクトラム症と診断されるともいわれています。男性に多くみられ、女性の約2~4倍という報告があります。
どうして自閉スペクトラム症になるのか、その原因は不明ですが、生まれつきの脳機能の異常によるものと考えられています。「育て方が悪かったの…?」「しつけの問題…?」と悩む方がいますが、そうではありません。これまでの多くの研究から親の育て方やしつけ方などが原因ではないことがわかっています。
自閉スペクトラム症が疑われるお子さんには、次のような特徴がみられます。
自閉スペクトラム症が疑われる子どもの特徴の一例
- 視線が合わないか、合っても共感的でない
- 表情が乏しい、または不自然
- 名前を呼んでも振り向かない
- 人見知りしない、親の後追いをしない
- ひとりごとが多い、人の言ったことをオウム返しする
- 親が「見てごらん」と指さしてもなかなかそちらを見ない
- 抱っこや触られるのを嫌がる
- 一人遊びが多い、ごっこ遊びを好まない
- 食べ物の好き嫌いが強い
- 欲しいものを「あれとって」と言葉や身振りで伝えずに、親の手をつかんで連れて行って示す など
※正確な診断のためには専門の医師や心理士による問診・面接・行動観察・検査などが必要です。
自閉スペクトラム症は病気というよりも、持って生まれた「特有の性質」(特性)と考えるのがよいでしょう。特性自体を薬で治すことはできません。治療の基本は一人ひとりの特性に合わせた教育的方法を用いた支援で、これを「療育」(治療教育)といいます。療育を受けることで、生活の支障を少なくすることができます。ただし、興奮、パニック、自傷行為、攻撃性、不眠などがある場合には、対症療法的に薬物が処方されることがあります。
自閉スペクトラム症の人たちは、特性を周囲に理解してもらいにくく、いじめ被害に遭う、一生懸命努力しても失敗を繰り返す、などのストレスがつのりやすいため、身体症状(頭痛、腹痛、食欲不振、チックなど)、精神症状(不安、うつ、緊張、興奮しやすさなど)、不登校やひきこもり、暴言・暴力、自傷行為などの「二次的な問題(二次障がい)」を引き起こしやすいといわれています。そうなる前に家族や周囲がその子の特性を正しく理解し、本人の「生きづらさ」を軽減させて二次的な問題を最小限にとどめることが、自閉スペクトラム症への対応の基本となります。
「自閉スペクトラム症」という捉え方
以前は、自閉症の特性をもつ障がいは、典型的な自閉症に加え、特性の目立ち方や言葉の遅れの有無などによって「アスペルガー症候群」「特定不能の広汎性発達障がい」などに分けられていました。典型的な「自閉症」は、言葉の発達が遅れ、相互的なコミュニケーションをとるのが難しく、「アスペルガー症候群」では言葉の遅れがなく、比較的コミュニケーションが取りやすいという特徴があります。
一方で、これらの障がいでは対人関係の難しさやこだわりの強さなど、共通した特性が認められます。そのため、別々の障がいとして考えるのではなく、虹のようにさまざまな色が含まれる一つの集合体として捉えようとするのが「自閉スペクトラム症(自閉症スペクトラム障がい)」という考え方です。治療の基本的な考え方は共通ですが、一人ひとりの特性を理解したサポートの重要性が着目されるようになってきています。
自閉スペクトラム症の子どもの特性
自閉スペクトラム症の人たちに共通する特性は対人関係を調整することの難しさとこだわりの強さです。それぞれの特性の強さや現れ方は子どもによって違いがあり、ある特性が特に強い場合や、成長に従って特性が変化することもありますが、先天的なものですので、特性を完全になくすことは困難です。
対人関係を調整することの難しさ
自閉スペクトラム症の子どもは人に対する関心が弱く、他人との関わり方やコミュニケーションの取り方に独特のスタイルがみられます。相手の気持ちや状況といったあいまいなことを理解するのが苦手で、事実や理屈に基づいた行動をとる傾向にあり、臨機応変な対人関係を築くことが難しく誤解されてしまいがちです。対人関係でのこのような特徴的な行動は幼少期からみられ、年齢とともに現れ方が変化します。
特徴的な行動・エピソード
- あやしても目が合わない、反応が乏しい
- 手を振って「バイバイ」する時、手のひらを自分に向ける
- 人見知りや親の後追いをしない
- 言葉を話すようになっても、セリフを棒読みするような話し方、妙に大人びた言葉遣いをするなど、不自然
- 表情や話しぶり、視線などから相手の気持ちをくみ取ることができない(空気が読めない)
- 孤立する、受け身過ぎる、一方的過ぎるなど、双方向の対人関係がうまくとれない
- 表面的な会話だけでは問題が起きにくいが、空気を読めないなどの特徴のために周囲の人のひんしゅくを買ったりすることがある
- 自分の好きなことを話す時に饒舌になりすぎることがある
- 友人と親密な関係を築けない
- 普通に話しているつもりなのに相手を不愉快にさせたり、怒らせてしまったりする
- 面接などが苦手で仕事に就くことができない
- 仕事に就いても、融通が利かず、臨機応変に仕事をこなすことができない
こだわりの強さ
自閉スペクトラム症の子どもは幼少期から特定のものごとやルールに強いこだわりを示し、好き嫌いが極端です。自分の関心ややり方、ペースを維持することを最優先したいという志向が強くみられます。また、一部分への興味や関心が強くなり、その領域では良い結果が出やすくなる一方で、そうでない領域は苦手になりやすいことが知られています。
特徴的な行動・エピソード
- 手足をばたつかせたり、ぴょんぴょんと飛び跳ねたり、おもちゃの車のタイヤを回し続けたりするなど、同じ行動を延々と繰り返す
- 何かをするときの方法や手順、物の並べ方などにも強いこだわりがあり、いつも同じでないと気が済まない。状況に合わせて柔軟に変更することができない
- 電車や昆虫、恐竜、数字、記号、地図などの特定のものごとに強い興味や情熱を持つが、その範囲は狭い
- 興味のあることでは優秀な結果を出すが、興味のないことはほとんど手を付けない
- 順番や競争などで一番になれないとパニックを起こしたり、相手とトラブルになったりするほど強いこだわりをみせることがある
- インターネット、携帯、ゲーム、アニメなどへの没頭
- 一つのことに集中しすぎて周囲がみえなくなる
- スケジュール管理が上手くできない
※成長に従ってこだわりが趣味などに変化することがあります。
※こだわりの対象が変わると、以前の対象へのこだわりは減ることがあります。
その他の特性
すべての子どもに当てはまるわけではありませんが、自閉スペクトラム症の子どもの中には、周囲が気にしないようなちょっとした物音に過敏に反応する、寒い日に薄着をしても気にならないといった感覚のかたよりや、体の動かし方が不器用で、運動がぎこちなく苦手など、ほかにもさまざまな特性がみられる場合があります。
これらの特性のために本人は「生きづらさ」を感じることもあります。一方で、「人の意見にぶれることなく課題を遂行する」などの形で、特性がむしろその人の強みになることもあります。「高い記憶力」や「好きなことへのこだわり」といった特性を発揮して仕事や趣味で充実した生活を送っている方もたくさんいます。このように、自閉スペクトラム症の特性は、それだけでは必ずしも生活上の支障になるとは限りません。「病気」や「症状」というよりも、その子がもって生まれた特有の性質と考え、個々の特性を理解して、「生きづらさ」を軽減しながら得意なことを伸ばすサポートが大切です。
「個性」と「障がい」の違い
対人関係やこだわりの特性があることによって生活に支障を来していれば、「自閉スペクトラム症」と診断されます。この場合、行政上は「障がい」として教育や就労などにおける特別な配慮や福祉的サービスの対象となります。逆に、特性があっても生活に支障を来していなければ診断されませんし、行政上の「障がい」とみなされることもありません。特性そのものは病気や症状ではなく、その人特有の性質であり、生まれつきの特有の脳の働き方を反映した「個性」と捉えることもできます。
自閉スペクトラム症の「二次的な問題(二次障がい)」を防ぐ
自閉スペクトラム症の一次的な問題は、こだわりが強く、人付き合いが苦手で空気を読んで周囲に合わせることが難しいという特性から生じる生活上の問題です。療育などの丁寧な教育的支援によってこれらの問題を軽減することが可能です。
一方、二次的な問題(二次障がい)は本人が受ける過剰なストレスやトラウマが引き金となって生じます。自閉スペクトラム症の特性があることによって、保護者や教師から過剰に叱られ続ける、同世代の子どもたちから仲間はずれになる、からかわれる、学校の勉強についていけなくなるなど、生活の中で失敗や挫折を味わうリスクが高くなります。「一生懸命やっているのにうまくいかない」「わたしはダメな子なんだ」と自信を失い、身体症状(頭痛、腹痛、食欲不振、チックなど)や精神症状(不安、うつ、緊張、興奮しやすさなど)を生じ、不登校やひきこもり、暴言・暴力、自傷行為などに発展する可能性があります。このような二次的な問題が起きると、周囲から否定的な目でみられて理解を得ることがますます難しくなり、一層ストレスが増大するという悪循環に陥りかねません。
自閉スペクトラム症への対応で最も大切なことは、できるだけ早く子どもの特性に気づいて理解・支援し、ストレスを感じにくい生活習慣や環境を整えて、二次的な問題を最小限にとどめることにあります。気になる症状が現れた場合には、速やかに医療機関を受診するなどの対応が必要になります。
自閉スペクトラム症に併存しやすい疾患・障がい
自閉スペクトラム症に併存しやすい発達障がいには次のようなものがあります。
注意欠如・多動症
不注意:集中力が続かない、気が散りやすい、同じミスを繰り返す、忘れ物が多い など
衝動性:思ったらすぐに行動に移してしまう、順番を待つことができない、我慢ができない など
多動性:落ち着きがなくじっとしていられない、おしゃべりが止まらない、常に動き回る など
限局性学習症
読むことが苦手:意味を理解しながら区切って読めない、文字を読み違える、拗音ようおん(「ちゃ・ちゅ・ちょ」など)や促音そくおん(小さい「っ」)が読めない、漢字が読めない など
書くことが苦手:似た文字を書き間違える、正しく文字を書けない、句読点が書けない など
算数が苦手:計算がうまくできない、計算問題はできても文章問題ができない、図形やグラフなどが理解できない など
発達性協調運動症
全身運動が苦手:寝返りやハイハイ、歩くなどの発達が遅れる、動きがぎこちない、姿勢が崩れやすい、スキップや縄跳びができない など
手先の細かい作業が苦手:箸やはさみなどの道具を上手く使えない、物をよく落とす、ボタンをかけたりはずしたりが苦手、鉛筆を正しく持てない など
中等度~最重度の知的障がいでは、高率で自閉スペクトラム症の特性が認められます。睡眠障がい(寝付きが悪い、夜中に目が覚めてしまうなど)や、てんかんが併存する場合もあります。また、二次的な問題を予防するよう生活環境を整えてもなお、人によっては興奮、パニックなどが出現しやすいことがあります。
薬物治療が必要とされる場合と使用される薬
自閉スペクトラム症や、併存する障がいの多くに対する主な治療法は、「療育」と「生活環境の調整」です。ただし、てんかん発作がある場合には薬物療法が必要ですし、睡眠障がい、不注意、多動性、衝動性、自傷行為、興奮、攻撃性などによって生活に支障を来している場合にも、薬物治療が検討されることがあります。また、二次的な問題として精神症状(不安、うつ、緊張、興奮しやすさなど)や問題行動(暴言・暴力、自傷行為など)が出現した場合にも、薬物治療が検討されます。
薬物治療は、少ない用量から開始して、副作用が出ていないか確認しながら、効果がみられる最小量を使って慎重に行います。症状を抑えることで、落ち着いた生活を送り、本来もっている能力を発揮できるようになることが期待できます。ただし、副作用が起こることも考えられますから、主治医とよく相談しながら、納得した上で指示どおりに服薬してください。副作用と思われる症状や気になることがあれば、速やかに主治医と相談しましょう。
薬物治療で使用されるのは次のような薬です。
薬の種類 |
対象となる疾患・障がい・症状 |
抗てんかん薬 |
てんかん |
睡眠薬 (睡眠導入薬) |
睡眠障がい (よく眠れない、寝付きが悪い、早朝に目が覚める、睡眠のリズムが狂うなど) |
気分安定薬 |
双極性障がい |
ADHD治療薬 |
注意欠如・多動症 (不注意、多動、衝動性) |
非定型 抗精神病薬 |
易興奮性 (興奮、パニック、攻撃的行動など) |
抗不安薬 |
不安障がい |
抗うつ薬 |
うつ症状、強迫性障がい |
指摘されたり、気になることがあったら、まずは「発達相談の窓口」へ
育児書などで「発達の目安」を目にしたり、同じ年齢のほかの子と比べたりして、わが子の発達に心配や不安を感じたことがあるという保護者の方は少なくありません。「よその子はもうつかまり立ちができるのに…」「いつになったら言葉が出るのかしら…」など、気にし始めると心配は尽きません。でも、子どもはみんな同じ発達をするわけではなく、発達の早い子もいれば遅い子もいます。
「発達の目安」に示されているのはあくまでも平均的・・・な子どもの姿に過ぎませんし、「生後●カ月までにこういう発達をしていなければならない」といったノルマでもありません。「発達の目安」に合わせることを目指すよりも、お子さんの特性に合わせた育て方を考えていくことの方が大切です。
お子さんの発達に心配や不安がある場合には一人で悩まずに、まずは自治体の発達相談窓口に気軽に相談してみましょう。ほかにも地域の発達障がい者支援センターや保健センターでも相談に応じてもらえます。
早く気づいて、早目に対応
自閉スペクトラム症は、近年では子どものおよそ20~50人に1人が診断されています。わが国では幼児期からの早期支援が活発に行われる地域が増えており、支援を受けたことで、自閉スペクトラム症の特性がありながらも充実した社会生活を送っている方がたくさんいます。一方で自閉スペクトラム症の特性がごく弱い人でも、きちんと対応を受けないでいると、周囲の人と自分の違いに悩んだり、誤解されて孤立したりして、二次的な問題(二次障がい)として身体症状(頭痛、腹痛、食欲不振、チックなど)、精神症状(不安、うつ、緊張、興奮しやすさなど)、不登校やひきこもり、暴言・暴力、自傷行為などに悩む方がいます。
子どもの発達に気になる点がある場合には、できるだけ早目に発達相談の窓口や医療機関などに相談しましょう。早期からその子の特性に合った支援を開始することで、二次的な問題を防ぎながら発達を促すことができます。
診断を受け止め、今後の見通しを立てよう
お子さんが自閉スペクトラム症の指摘を受けた保護者の多くは、これまでの育児を振り返って思い当たることがある一方で、「何かの間違いだ」「いずれ他の子に成長が追いつくはず」と認めたくない気持ちもあり、複雑な心境です。
自閉スペクトラム症の子どもには支援が必要です。お子さんの特性を十分理解して、得意なことを伸ばし、苦手なことを補うことで生活上の支障は少なくなります。ただし、支援によって自閉スペクトラム症の特徴が目立たなくなってきても、完全にゼロになることはありません。誤った見通しや期待をもつと、後で本人も家族も苦しむことになります。
お子さんが今後、どのような人生を歩んでいくのか、主治医や支援者と相談し、長期的な見通しを立てましょう。専門家の協力を得て、見通しに基づいた支援計画を作成・実行します。その結果、子どもがどのように変わったのか評価・検証し、次の支援計画を立てる、という一連のプロセスを繰り返しながら、子どもに必要な支援を探っていきます。
まとめ
自閉スペクトラム症(ASD)の特性を理解し、適切なサポートを提供することは、本人の「生きづらさ」を軽減し、充実した生活を送るために非常に重要です。早期の診断と療育、周囲の理解と協力が、ASDの子どもたちの成長と発展に大きな影響を与えることを忘れないでください。あなたの温かいサポートが、彼らの未来を明るくする力になるのです。
参考
自閉スペクトラム症の患者さん、ご家族、そして支援する 皆さまの笑顔のために|すまいるナビゲーター
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