大人も学習障がい(LD)と診断される?特性、対処法、支援を解説
学習障がい(LD)とは、知的発達の遅れはないものの「読む」「書く」「計算する」などに困難さがある発達障がいの一つです。この記事では、大人になって表れる特性や診断の流れ、仕事をしていく上での代表的な困りごとや対処法について詳しく説明します。
限局性学習症(SLD)/学習障がい(LD)とは?
学習障がい(LD)とは、知的発達の遅れや視覚・聴覚機能の問題がないにもかかわらず、「読む」「書く」「計算する」など特定の領域だけが極端に苦手である発達障がいです。
例えば文字をまったく読めない・書けないというよりも、読みにくさ・書きにくさを感じる、一定の読み方しかできないなど、表れる特性も人によって異なります。ほかにも「文字を書くことが極端に苦手」などといった特定の分野が苦手という特性から、「書くことだけでなく、文字を読むことも苦手」など複数の分野にわたって困難がある人もいます。
また知的発達の遅れがなく、視覚・聴覚などの身体的障がいがないことから、周囲から「怠けている」と誤解されたり、本人が「自分の努力不足だ」と思い込んでしまったりしていることがあります。
【体験談】大人になって学習障がい(LD)と診断される人も
学習障がい(LD)の場合、十分な教育を受ける期間があり、本人の努力が見られるにもかかわらず、学校の授業についていけないことなどをきっかけに、子どものころに診断されるケースが多いと言われています。
しかし学習障がい(LD)の認知度が低かった時代もあり、診断や疑いがあっても適切なサポートを受けられなかった人や、大人になって仕事をはじめてから学習障がい(LD)があると分かった人もいます。
体験談①:Kさん 職種:生活介護支援員
文字を書くことが苦手で、仕事のプレッシャーや人間関係のつまずきから体調を崩してしまい、その後診断を受けたKさん。現在は上司に自分の苦手分野を伝えつつも、パソコンや電子辞書を使いながら自分で工夫して仕事をされています。
体験談②:Gさん 職種:高齢者介護
人前で書くことが苦手で、仕事に支障をきたし転職を繰り返していたものの、困っていることを誰にも言えなかったGさん。はっきりとした診断はありませんが、今後は書くことが苦手だという特性をオープンにした上で、理解してくれる職場を探して働きたいと考えています。
大人の限局性学習症(SLD)/学習障がい(LD)における主な3つのタイプと特徴
学習障がい(LD)は、主に読字障がい(ディスレクシア)、書字表出障がい(ディスグラフィア)、算数障がい(ディスカリキュリア)の3タイプに分けられます。まずはそれぞれの特性を見ていきましょう。
読字障がい(ディスレクシア):「読む」ことが苦手
字を読むことに困難があり、識字障がいや失読症、難読症と呼ばれることもあります。読字障がいは学習障がい(LD)と診断された人の中で一番多く見られると言われています。
- 一文字ずつ区切って読む(「逐次(ちくじ)読み」)
- 読んでいるところを指で押さえながら読む
- 文字や行を読み飛ばす
- 語尾や文末を読み間違える
- 「っ」「ょ」などの小書き文字を読み飛ばす、書き間違える
- 長い文章を読むことが苦手、または読むスピードが遅い
- 「ろ」や「る」など形の似ている文字を見分けにくい など
書字表出障がい(ディスグラフィア):「書く」ことが苦手
文字や文章を書くことに困難が生じます。字が全く書けないというよりも、書字において、下記に挙げた困難さの例のうち、いくつかに当てはまる人が多いです。
- 言葉と意味を理解していても、文字を正しく書くことができない
- 漢字や書き順をなかなか覚えられない(覚えても忘れやすい)
- 書き文字のバランスがとれず、「字が汚い・読めない」とよく注意される
- 「ろ」や「る」など形の似ている文字を間違えて書く
- 鏡文字になる(左右が反転する)
- 文法が苦手(「てにをは」などの接続詞を間違える、句読点がつけられない)
- 漢字だけでなく、ひらがなやカタカナも間違えることが多い
- 長い文章を作成することが苦手、または作成に時間がかかる
- 聞きながらメモを取ることが苦手 など
算数障がい(ディスカリキュリア):「算数・計算」が苦手
数字そのものの概念や数量の大小、図形や立体問題の理解が難しいという特性があります。
- 数を数えることが苦手
- 数字に直すことが苦手(例:「ひゃくにじゅう」を「10020」と書いてしまうなど)
- お釣りや割り勘の計算ができない
- 大まかな数の検討がつけられない
- 予算や概算を考えることが難しい(見積書の作成が苦手)
- 簡単なものであっても暗算が難しい
- 図形が苦手
- 時計が読めない、時間が分からない など
ここで紹介した以外にも、学習障がい(LD)のある人が感じている困難さにはさまざまなものがあります。「読む」「書く」「計算する」のほかにも、英語の読み書きや漢数字の読み書きに困難さを感じる人もいます。
また、読むことが苦手である場合、文字を書くときにも困難を抱えることが多く、両方が苦手という人も多く見られます。その場合は「読み書き障がい」「発達性読み書き障がい」「発達性ディスレクシア」と呼ばれることもあります。
限局性学習症(SLD)/学習障がい(LD)の原因
学習障がい(LD)の原因は完全には解明されていませんが、見た情報を理解したり、字を音に変換したりするなどの脳機能の一部に障がいがあるのではないかと考えられています。
遺伝や環境など複合的な要素に起因する可能性があるとも言われていますが、いずれにしても「本人の努力不足」というわけではありません。
なお読み書きなどの困難という点では失語症とも似ていますが、失語症の原因は交通事故や脳卒中などによる後天的な頭部外傷がほとんどです。学習障がい(LD)は先天的なものが原因と言われているため、失語症とは違いがあります。
限局性学習症(SLD)/学習障がい(LD)の診断基準と検査の流れ
学習障がい(LD)は特性に大きな個人差があります。診断に際しては、問診や検査などがおこなわれるケースが多いです。詳細を以下に紹介します。
診断に行くかどうか迷ったら
「読む」「書く」「計算する」などに苦手分野があり困っている場合は、早めに専門機関や医療機関への相談をおすすめします。
上で説明したような困難さを一定期間以上感じていたり、学習障がい(LD)の特性の影響で仕事や生活に負担がかかっていたりする場合は、早めに医師に相談しましょう。
学習障がい(LD)を含む発達障がいを専門とする病院は限られているため、事前に調べておくと良いでしょう。
「いきなり病院に行くことに抵抗がある…」という人は、「発達障がい者支援センター」という専門機関もあります。詳しくは後述します。
診断までの流れ
まず診断の前に問診による聞き取りや検査などがおこなわれます。方法は病院によって違いますが、大まかな流れは以下のようになることが多いです。
- 子どもの頃から困りごとや特性があったかの聞き取り
- 今困っていることはどんなことかの聞き取り
- 認知特性や、知的発達の偏り・遅れを調べる心理検査 など
このようにして得た情報が国際的な診断基準『DSM-5』などを満たした場合に、医師が総合的な判断として学習障がい(LD)と診断します。
また学習障がい(LD)の影響で仕事や生活に負担がかかると、ストレスや悩みからうつ病などの二次障がいが表れることもあります。ほかにも別の発達障がいや別の疾患が隠れている可能性を考慮して、それらに関する検査もおこなわれることがあります。
限局性学習症(SLD)/学習障がい(LD)の治療方法
学習障がい(LD)の根本的な治療法はありませんが、医師の指示に従って環境調整などのさまざまな工夫を取り入れることによって、困りごとを軽減することが可能です。特性の表れ方や対応方法は人によってさまざまですが、基本的には以下のような方針で進められることが多いです。
まずは苦手分野や困っていることを正確に知り、カウンセリングや環境調整(業務内容や仕事の変更など)によって、日常生活のストレスを軽減します。
ほかの発達障がいがあれば、その特性を把握し、多角的に対処法を考えることが重要です。うつ病などの二次障がいがある場合は、その治療も並行しておこなっていきます。
大人の限局性学習症(SLD)/学習障がい(LD)による、仕事で「困った」と感じる例と対処法
学習障がい(LD)の特性は子どものころから出やすいと言われていますが、仕事をしていく中で困りごとがあり、大人になってから「もしかして?」と感じる人もいます。ここでは仕事における代表的な困りごとと対処法の例を紹介します。
文章での指示を理解できず繰り返しミスをする
- 困りごとの例
上司からメールやチャットで指示があると、文字や文章を正確に読むことが難しく、ミスを繰り返してしまう。
- 対処法
文章で指示があった場合は、自分が理解している内容と指示内容が合っているか、上司に確認するようにすると齟齬が少なく済みます。最初から口頭で指示してもらうよう相談してみるのもひとつの方法です。
資料や長文のメールを読むのに時間がかかる
- 困りごとの例
・資料やマニュアル、長文のメールを読むことが苦手
・読み飛ばしてしまったり、読み間違いがあったりする
- 対処法
紙の資料なら、色付き下敷きや定規で区切りながら読む、コピーして蛍光ペンでラインを引くなどすると読みやすくなります。パソコンのデータであればドラッグして色をつけたり、文字色を変えて読んでみたりすることも良いでしょう。
メモを取ることが苦手
- 困りごとの例
・メモを取ることができず注意されることがある。
・口頭で指示を聞きながらメモを取ることが苦手
- 対処法
手書きのメモが苦手であれば、ボイスレコーダーを利用してみるのもひとつの手段です。正確な情報を残しておけるのでおすすめです。「書くことは苦手だが、読むことに問題はない」という場合は、メールやチャットで指示してもらうようにお願いするのも良いでしょう。音声入力のアプリを使用することもできます。
数字が苦手で発注書や見積書の作成が困難
- 困りごとの例
・数字が苦手で、予算や概算の見積もりがうまくできない
・発注書や見積書に対して苦手意識を感じる
- 対処法
エクセルなどの表計算ソフトで計算する場合は、関数を使って自動的に計算できるようにすることが有効です。環境や業務内容の調整ができる状況であれば、業務内容を変えてもらうよう上司に相談してみることもひとつの選択肢です。
今後はAIなどの技術の活用も含めて、困難さを軽減する工夫を広げていくことが大切です。
限局性学習症(SLD)/学習障がい(LD)だと分かったら、職場の人に伝えた方がいい?
学習障がい(LD)と診断された場合であっても、「必ず職場の人に伝えなければいけない」ということはありません。オープンにするかどうかは自分で決めることができます。
学習障がい(LD)があることをオープンにすることのメリットは、困りごとを解消するための合理的配慮について相談できるという点です。その場合は「どんなことが苦手なのか」「どういった対処をしてほしいのか」を自分なりにまとめてから伝えると良いでしょう。医師から診断書を出してもらうのも有効です。
大人の限局性学習症(SLD)/学習障がい(LD)の相談先や支援機関
仕事や生活の中で困りごとがあり、学習障がい(LD)があるかもしれないと感じる場合は、まず精神科や心療内科などの病院で相談することがおすすめです。いきなり病院に行くことには抵抗があるという場合は、まずは以下のような相談先や支援機関に話をしてみましょう。
発達障がい者支援センター
発達障がいに関するさまざまな相談を受けつけているセンターです。日常生活のサポートから、各種障がい福祉サービス・就労についての支援や情報提供もおこなっています。障がい者手帳がない場合でも利用可能です。自治体によってサービスの内容が違うため、詳しく知りたい場合は以下のページを参照ください。
発達障がい者支援センターってどんなところ?支援内容・手続き方法・最寄りの窓口について解説
障がい者就業・生活支援センター
障がい者就業・生活支援センターは、障がいのある人の生活と就労について、両方の相談ができる機関です。生活や暮らしの相談だけでなく、就労についての相談をしたり、支援制度を紹介してもらったりすることもできます。こちらも障がい者手帳がない場合でも利用できます。
ハローワーク
ハローワークには障がいや疾患を持つ人を対象とした窓口があり、就労に関する支援をおこなっています。求人を紹介してもらえるだけでなく、適した職種や働き方などを一緒に考えてもらうこともできます。障がい者手帳がない場合は、医師の診断書など自分の特性が分かるものを持っていくとスムーズです。
就労移行支援事業所
就労移行支援は障がい者総合支援法に基づく福祉サービスのひとつで、一般企業への就労を目指す、障がいや難病のある人が利用できます。ビジネスマナーやスキルトレーニングなどのプログラム(職業訓練)や、応募書類作成、面接対策など就職活動のサポートも受けられます。就職後の定着支援もしてもらえます。
まとめ
学習障がい(LD)にはさまざまな特性があり、生活や仕事の中で悩む人も多いです。また、学習障がい(LD)があると気づかないまま、「仕事がうまくいかないのは自分の努力不足だ」などと感じ、ストレスを抱える人もいます。
仕事や生活をする上で困っていることがある場合は、早めに専門機関や医療機関への相談をおすすめします。
一方で学習障がい(LD)による困りごとは、パソコンやボイスレコーダーを使う、読み書きがしやすいように工夫する、そもそも苦手な状況を避けるなどの対処法を行うことで軽減することもできます。また就労支援などの障がい福祉サービスを利用したり、障がい者雇用で就職するなどの選択肢もあります。
自分ひとりで抱え込まず、まずは医療機関や専門家、公的なサポートの利用を検討してみてください。
参考
大人も学習障害(LD)と診断される?特性、対処法、支援を解説| LITALICO仕事ナビ
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