2024.07.12

愛着障がい(アタッチメント障がい)とは?その定義と重要性、影響について解説

愛着障がいとは、養育者との愛着が何らかの理由で形成されず、子供の情緒や対人関係に問題が生じる状態です。

主に虐待や養育者との離別が原因で、母親を代表とする養育者と子供との間に愛着がうまく芽生えないことによって起こります。

乳幼児期に養育者ときちんと愛着を築くことが出来ないと、「過度に人を恐れる」または「誰に対してもなれなれしい」といった症状が現れることがあります。

 

愛着(アタッチメント)とは?

愛着とは、主に乳幼児期の子供と母親をはじめとする養育者との間で築かれる、心理的な結びつきのことです。専門用語でアタッチメントともいいます。

子どもはお腹が空いた時、オムツが汚れた時。恐怖や驚きを感じた時などに泣く事で、自分の気持ちや欲求を表現します。通常そういったときは、決まった養育者がくりかえし子どもに駆け寄り、不快にさせる要素を取り除きます。

養育者とは、母親や父親など、身近で世話をして育ててくれる人を意味します。養育者は、頻繁に子どもと抱っこなどで触れ合ったり、声掛けなどでコミュニケーションをとったりします。

 

子どもの発達に欠かせない

子どもは生後3か月ころまでは誰に対しても微笑んだり見つめたりします。こういった日常的なお世話と愛情あふれるスキンシップ、コミュニケーションを受けとる中で、子どもは「この人は自分の要求を敏感に感じ取り、正しく対応してくれる」「この人は自分によく声をかけてくれるし、抱っこしてくれる」などと特定の養育者を認識するようになります。

 

このような認識のもと、生後3か月を過ぎてくると、子どもはいつも自分をお世話してくれる養育者とそうでない人とを認識できるようになってきます。これが「愛情形成の第一歩」です。子どもは養育者と生活していく中で、養育者との愛着をどんどん深めていきます。

この愛着を土台に子どもは成長していくため、養育者と子どもが愛着を形成するということは、子どもの発達に欠かせないことなのです。

 

なぜ愛着が大切なのか?

愛着を形成することは子供の成長においてどのような意味があるのでしょうか?子どもの成長における愛着の重要性は、大きく分けて3点あります。

 

人への基本的信頼感の芽生え

子どもは特定の養育者との間に愛着を築くと、その養育者に甘え、依存するようになります。養育者に甘え、受け入れられる。このようなやりとりを通して、人とかかわる楽しさや喜びを体験することが出来ます。

 

自己表現力、コミュニケーション能力を高める

愛着を形成した相手に対して、自分の要求を伝える、また時には相手の要求を受け入れるということを通して、子どもは自分が求めていることを表現することの楽しさや難しさを知ります。これにより表現力やコミュニケーション能力の向上が期待できます。

 

自己の存在と安全を確保する

子どもは不安や危機を感じた時に、愛着の対象者を「安全基地」と見なして、自分の身を守ろうとします。安全基地とは、自分の見知らぬ世界に対して好奇心を抱き、それらを探索しようとする時に、子どもが拠り所とする存在を指します。つまり、子どもが母親との愛着を形成した場合、母親を安全基地と見なすのです。

 

自らの好奇心のもと、見知らぬ世界を探索したときには、不安や恐怖、心理的・身体的苦痛を感じることがあります。そんなときに安全基地である母親のもとに戻って、安心感を得るのです。子どもはこのような探索と避難をくりかえすことよって好奇心や積極性、ストレスに耐える力を身につけていきます。

 

愛着障がいの定義

愛着障がいは「反応性アタッチメント障がい(反応性愛着障がい)」と「脱抑制型愛着障がい」に診断が分けられます。「反応性アタッチメント障がい(反応性愛着障がい)」も「脱抑制型愛着障がい」も、5歳以前に発症するとされています。この2つの愛着障がいの違いは以下になります。

■人に対して過度に警戒する・・・「反応性アタッチメント障がい(反応性愛着障がい)」

■過度になれなれしい・・・「脱抑制型愛着障がい」

 

「反応性アタッチメント障がい(反応性愛着障がい)」

5歳までに発症し、小児の対人関係のパターンが持続的に異常を示すことが特徴であり、その異常は、情動障がいを伴い、周囲の変化に反応したものです。(例:恐れや過度の警戒、同年代の子どもとの対人交流の乏しさ、自分自身や他人への攻撃性、みじめさ、ある例では成長不全)この症候群は、両親によるひどい無視、虐待、または深刻な養育過誤の直接的な結果として起こるとみなされています。

 

「脱抑制型愛着障がい」

5歳までに発症し、周囲の環境が著しく変化しても持続する傾向を示す、異常な社会的機能の特殊なパターンです。たとえば、誰にでも無差別に愛着行動を示したり、注意を引こうとして見境なく親しげな振舞いをするが、仲間と協調した対人交流は乏しく、環境によっては情動障がいや行動障がいを伴ったりします。

 

愛着障がいの診断基準

「反応性アタッチメント障がい(反応性愛着障がい)」

  • A. 5歳以前の発症
  • B. いろいろな対人関係場面で、ひどく矛盾した、両価的な反応を相手に示す(しかし間柄しだいで反応は多様である)
  • C. 情緒障がいは、情緒的な反応の欠如や人を避ける反応、自分自身や他人の悩みに対する攻撃的な反応、および/またはびくびくした過度の警戒などにあらわれる
  • D. 正常な成人とのやりとりで、社会的相互関係の能力と反応する能力があるのは確かであること

「脱抑制型愛着障がい」

  • A. 広範囲な愛着が、5歳以前の(小児期中期にまで持続していなくてもよい)持続的な特徴としてみられること。診断には、選択的な社会的愛着を十分に示せないことが必要であり、次の項目に明らかとなる。
    • (1)苦しいときに、他人から慰めてもらおうとするところは正常であり、
    • (2)慰めてもらう相手を選ばない(比較的に)というところは異常である。
  • B. なじみのない人に対する社会的相互関係がうまく調節できないこと。
  • C. 次のうち1項目以上があること
    • (1)幼児期では、誰にでもしがみつく行動
    • (2)小児期の初期または中期には、注意を引こうとしたり無差別に親しげに振る舞う行動
  • D. 上記の特徴については、状況特異性のないことが明らかでなければならない。
  • 診断には、上記のA、Bの特徴が、その小児の経験する社会的な接触の全範囲に及んでいる必要がある。

 

子どもが愛着障がいである場合の具体的な傾向

子どもが愛着障がいの場合、どういった態度・素振りを見せるのでしょうか。

 

「反応性アタッチメント障がい(反応性愛着障がい)」

「反応性アタッチメント障がい(反応性愛着障がい)」の場合、相手が養育者であっても極端に距離をとろうとするために以下のような様子が見られることがあります。

  • 養育者へ安心や慰めを求めるために抱きついたり、泣きついたりすることがほとんどない
  • 笑顔が見られず、無表情なことが多い
  • 他の子どもに興味を示さない、交流しようとしない など

 

「脱抑制型愛着障がい」

「脱抑制型愛着障がい」の場合、養育者に限らず誰に対してもべったりくっついてしまったり、自分に目を向けてほしいがために不注意や乱暴な行為に走るなど、困りごとが生じることがあります。

  • ほとんど知らない人に対してもなんのためらいもなく近づく
  • 知らない大人に抱きつき、慰めを求める
  • 落ち着きがなく、乱暴 など

 

「どちらにも見られる態度・素振り」

またどちらの愛着障がいにも見られることとして、強情・意地っ張り・わがまま、といった態度が挙げられます。「反応性アタッチメント障がい(反応性愛着障がい)」も「脱抑制型愛着障がい」も子どもと養育者との愛着形成が不安定であることによって起こるので、愛着障がいの子どもは養育者を頼りにし、甘えることが上手にできません。そのため意地っ張りになってしまったり、極度にわがままになってしまったりすることがあります。

  • 強情、意地っ張り
  • 度が過ぎるわがまま など

 

また、子どもが特定の養育者を安全基地と見なしていないために、子どもの視線や行動に違和感を感じることもあります。

  • 養育者との別離・再会のときに、養育者に対して視線をそらしながら近づく
  • 抱っこされている間、全然関係ない方向を見つめている
  • 見知らぬ場面において、特定の養育者を頼りに(安全基地に)する素振りが見られないなど

 

愛着障がいの原因

愛着障がいの原因は、子どもと養育者との間に愛着がうまく形作られないことが大きく関係しています。具体的には、以下のような原因が挙げられます。

  • 養育者との死別・離別などで愛着対象がいなくなってしまう
  • 養育者から虐待やネグレクトを受けるなど、不適切な養育環境で育てられた
  • 養育者が子どもに対して最低限の世話はするものの、無関心であったり放任したりしていた
  • 養育者のような立場の大人が複数いて、世話を焼いてくれる人が頻繁に変わってしまっていた
  • 兄弟差別など、他の子どもと明らかに差別されて育てられた

このように、本来愛着を形成する対象に危害を加えられたり、それによって自分が育った環境が安全でなかったりすると愛着の形成が阻害されてしまいます。

特に、愛着を形成する大事な時期である生後6ヶ月から1歳半ころの間に上述したような愛着形成が阻害されるようなことが起こると、子どもの成長に大きな影響が及びます。子どもは養育者との愛着を形成できないだけでなく、人に対する基本的な信頼感がうまく芽生えなくなってしまいます。そしてこうなると後から愛着形成を取り戻そう、修正しようとしても難しいことが多いのです。これによって先に述べたような困った態度・素振りが表れることにつながります。

大人の愛着障がい

愛着障がいは子ども時代を過ぎれば関係なくなるものではありません。子どものころに発症した愛着障がいが治療されないと大人になっても愛着障がいの症状が続くことがあります。

 

子どもの時に養育者と愛着を築くことができなかった、ただそれだけのことのように思われることもあるかもしれませんが、愛着が形成されない、またそれをそのままにしておくということは、子どもが大人へと成長していくうえでの人格形成や心の持ちようなどにおいても影響を与える大きな要因になることがあるのです。

 

実際のところ、大人で愛着障がいがあるということは珍しいことではありません。ただ、大人になってからも情緒や人との関係づくりで苦労することがあってもその原因が愛着障がいであるという自覚が少ないこともあります。

大人が愛着障がいを発症している場合どのような特徴があるのかご紹介します。

 

大人の愛着障がいの特徴

  • 情緒面
    • 傷つきやすい
    • 怒りを感じると建設的な話し合いができない
    • 過去にとらわれがち、過剰反応
    • 0か100かで捉えてしまう
    • 意地っ張り など

情緒面では主にこのような症状が表れます。他人の何気ない発言に対して過剰に反応してしまい、傷ついてしまったり、過去の失敗や恐怖を極度に引きずってしまったりすることがあります。

また、一度頭に血が上ってしまうと何に怒っているのか整理することができず、当たり散らしてしまう。「ある・ない、好き・嫌い」など物事や人を極端に捉えることしかできず、「この人は苦手な部分もあるけど、良いところもある」というように柔軟で折り合いをつけた考え方ができないということが挙げられます。


  • 対人関係
    • 親などの養育者に対して敵意や恨みを持つ、または過度に従順になったり、親の顔をうかがう
    • 親の期待に応えられない自分をひどく責める
    • 人とほどよい距離がとれない
    • 恋人や配偶者、また自身の子どもをどう愛すればいいかわからない など

対人関係の面では、第一に愛着障がいの原因をもたらした養育者に対しての態度に症状が見られることがあります。養育者に激しい敵意・恨みをもつことでいつまでも反抗的な態度を取り続ける。反対に親に従順すぎるほどの態度を取り、大人になっても親に言いなりになってしまっているというような症状が表れます。

また、子どもの場合と同じように、人とほどよい距離を保つことができない、恋人や配偶者、そして自分の子どもに対してどのように愛情を注げばいいかわからず、関係づくりに苦労することがあります。


  • アイデンティティが確立できない
    • キャリア選択がうまくできず時間をかけた割にわずかな見聞や情報で決めてしまう
    • 自分の選択に対する満足度が低い

大人になると、仕事やプライベート、さまざまな場面において自分自身で選択することが求められます。愛着は他人との基本的な信頼感の基礎であるだけでなく、好奇心や積極性、自己肯定感の基礎ともなるものです。その愛着が子どもの時に十分に形成されず、大人になっても愛着障がいが続くと、アイデンティティを獲得・確立する青年期や成人期で決断を求められる場面において苦労してしまうことがあります。

 

愛着障がいが引き起こす疾患

大人の愛着障がいが他の疾患の発症原因になってしまうことがあります。

  • うつ病
  • 心身症
  • 不安障がい
  • 境界性パーソナリティ障がい など

このように、愛着障がいがある大人は生活を送るうえでさまざまな困りごとが起こるだけではなく、二次的に他の疾患を引き起こすこともあります。ですが、大人になってからでも工夫次第では症状をやわらげることができたり、困りごとを克服できたりすることもあります。

 

愛着障がいの治療法について

愛着障がいは、発達障がいなどと違って、子どもの育つ環境や養育者の子育て方法に原因がある、後天的なものです。

 

子どもの愛着障がいの治療法

子どもが愛着障がいと認められた場合にまず行うことは、安全基地の形成です。子どもとの間で愛着がしっかりと築かれることで、子どもは養育者のことを安全基地、すなわち困った時・不安や恐怖を感じた時に守ってもらえる拠り所として認識するようになります。

 

愛着障がいの子どもは養育者を安全基地と見なせていない場合がほとんどです。そのため、子どもに「養育者=安全基地」と認識してもらえるように、親族やかかりつけの医者など、まわりの人々が親子を支援していくことが必要です。安全基地の形成が足がかりとなって、子どもの人と接することへの安心感や信頼感を生み、他の人との接し方・距離感も改善することができます。

 

また、子どもが愛着障がいを発症するということは、養育者や家族も何らかの支援を必要としていたり、問題を抱えていたりする場合も少なくありません。その場合、子どもだけに治療の焦点を当てるのではなく、養育者や家族を含めて幅広くアプローチを行うことがあります。

 

例えば、虐待が原因の場合は子どもと養育者の距離を一回遠ざけてみたり、親へのカウンセリングや心理療法的・家族療法的アプローチを取り入れたりすることで、子どもの愛着障がいの改善につながることがあります。

 

また、養育者の抱えるさまざまな悩みや状況により、子どもを十分に育てられず、子どもに愛着障がいの症状が表れた、ということもあります。その場合は生活保護や、行政や民間で提供されている育児・家事サービスの利用を視野に入れるなど、愛着障がいを取り巻くすべての要因から解決策を探しだすことを医師やカウンセラーとともに考えていくことが必要となってきます。

 

大人になってからの愛着障がいの治療法

最も大切なこととして、幼少期に満足に得られなかった、愛着形成のための愛情深いスキンシップやコミュニケーションを補ってあげることが挙げられます。大人になってしまうと実の親と子どものころのように密にやりとりをする、ということが難しいかもしれません。その場合は、恋人やパートナー、教師や友人などとのやり取りが愛着障がいの克服の第一歩となることがあります。

 

また、職場など対等な人間関係をつくることができ、自分の存在価値が認められるような環境に身を置くことや、自分が「理想の親」のような存在となって後輩を指導するということもアイデンティティの確立や自信をもつことにつながり、結果的に愛着障がいが改善していく可能性があります。

まとめ

愛着障がいは子どもから大人まで影響を及ぼす深刻な問題ですが、適切な支援や治療法を通じて改善することが可能です。早期の発見と介入が重要であり、周囲の理解とサポートが欠かせません。愛着形成の大切さを理解し、適切なケアを提供することで、健全な人間関係を築く力を育てることができます。

 

参考

愛着障がい(アタッチメント障がい)|マドレクリニック

 


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