職場の障がい者虐待の現状とこれから
2020年12月には、障がい者に重いケガを負わせたとして、元職員が逮捕される事件がありました。前年の2019年7月に暴行が確認されており、さらに一人だけでなく数人の障がい者が職員に暴行されていたとのことです。 この事件が明らかになり、職員が逮捕されたのは2020年12月ごろ。職場の障がい者虐待は、障がい者本人が虐待を訴えることがむずかしく、虐待への対応が遅れてしまいます。 しかし、近年はほかの職員や家族による虐待の相談・通報が増えており、虐待が見つかりやすい時代になってきています。 コロナ不況や大量解雇など多くのことがあった2020年。職場の障がい者虐待の現状や、これからの障がい者虐待への対応を見ていきましょう。
障がい者虐待の届け出が前年度よりも約1割減少
2020年、通報・届け出があった事業所数は2019年とくらべて12%減少、通報・届け出の対象となった障がい者数は10.4%減少したことがわかっています。
障がい者虐待の通報・届け出があった事業所数:1,458事業所
障がい者虐待の通報・届け出があった障がい者数:1,741人
このうち、虐待が認められた事業所や障がい者はどちらも減少傾向にあります。 事業所数は約0.1%とあまり変わりはありませんでしたが、障がい者数は14.3%も減少しました。
虐待が認められた障害者数:771人
障がい者虐待の通報・届け出があった障がい者数:1,741人
受けた虐待は「経済的虐待」が80%以上
身体的虐待は、殴るける、しばりつける、閉じこめるなど、障がい者の身体にケガを負わせることや、正しい理由なく身体の自由をうばうことです。 心理的虐待は、暴言や無視、仲間はずれ、子ども扱いなどをして、障がい者が精神的な外傷をつけられることをいいます。 最も多かった経済的虐待は、法律で決められた最低賃金よりも低い賃金しか支払われなかったり、本人の同意なしに財産や預貯金をつかったりすることなどが当てはまります。
虐待を受けた障がい者のほぼ半分が知的障がい者
職員などに虐待を受けた障がい者のうち、約45.9%が「知的障がい者」です。
知的障がい者のつぎに多いのが、「精神障がい者」、「身体障がい者」となります。発達障がい者は最も割合が低く、4.2%という結果でした。
虐待が認められた事業所の業種1位は「製造業」
障がい者の虐待が最も多く認められたのは「製造業」であり、全体の約27.5%を占めています。つぎに医療・福祉関係(20.4%)、小売業(12.9%)で障がい者の虐待が認められました。前年の2019年も同じく、製造業が最も多く、医療・福祉関係、小売業という順です。障がい者雇用がすすんでいる分野であり、最も多く障がい者が働いていることが、虐待の割合が高くなった理由のひとつでしょう。
職場の障がい者虐待、国の対応は?
2019年よりも2020年は職場での障がい者虐待がへりました。 しかしもっと長く統計を見ると、職場の障がい者虐待はまだまだ増加傾向にあるといわれています。 また2019年は職場のほか、養育者による虐待を含め、相談や通報が過去最多の1年となりました。こうした状況を見て、国はどのように対応していくのでしょうか。
事業所に「虐待防止委員会」の設置を義務づける方針
厚生労働省は2022年から、障がい者福祉施設の各事業所に「虐待防止委員会」の設置を義務づける方針を発表しました。 職場での障がい者虐待の原因は、職員たちの知識不足や、職場環境の悪化だと考えられています。 そのため虐待防止委員会は、虐待防止のための研修を徹底し、職員たちの職場環境の改善に向けて取り組みます。 さらに、障がい者への虐待と思われる事件がわかったときは、第三者として虐待について調査し、虐待の再発防止策を検討します。 2021年度は、職員研修や、虐待防止のための責任者の設置を義務化する方針としており、国は障がい者虐待防止に向けて動いています。 これから遠くない未来、障がい者が働きやすい社会が実現するかもしれません。
▼参考