知的障がいとは?種類や特徴、原因、発達障がいとの違いもわかりやすく説明
乳幼児期の子どもの成長スピードは実にさまざまです。ただ、なかなか言葉が出ない、歩き始めないなど気にかかる場合はひょっとしたら知的障がいの可能性があるかもしれません。ここでは、知的障がいの特徴・種別や診断、発達障がいとの違いなどについて説明します。
知的障がいとは?
知的障がいとは、発達期までに生じた知的機能の障がいによって、知的能力と社会生活への適応機能が遅れた水準にとどまり、日常生活において困難を抱えている状態をいいます。厚生労働省では知的障がいについて以下のように述べています。
「知的機能の障がいが発達期(おおむね18歳まで)にあらわれ、日常生活に支障が生じているため、何らかの特別の援助を必要とする状態にあるもの」
なお、正式名称として医学領域的には「精神遅滞/精神発達遅滞」また、アメリカ精神医学会の『DSM-5(精神障がいの診断・統計マニュアル第5版』では「知的能力障がい(知的発達症/知的発達障がい)」と呼ばれています。
知的障がいの原因
ここでは知的障がいの原因について紹介します。知的障がいの原因となる要素はさまざまありますが、ここでは生理的要因、先天的要因、後天的要因とわけて見ていきます。
- 生理的要因
知的障がいの原因として、生理的要因というものがあります。子どもに特に基礎疾患は見られないが知的能力と社会生活が知的障がいとされる範囲内にあるという場合が生理的要因に当てはまります。突発的要因と呼ばれることもあります。
- 先天的要因
知的障がいの原因の中で、出生前に生じたものを先天的要因と呼んでいます。
先天的要因には、出産前後の感染症や中毒、染色体異常(ダウン症)などがあります。他にも先天的な代謝異常が原因となることもあり、この場合は新生児のスクリーニングで判明することがあり、投薬や食事療法などの治療がおこなわれることもあります。
- 後天的要因
知的障がいの原因として、出生後の疾患やけが、栄養失調などによるものもあります。
生まれた後に罹った日本脳炎やポリオ、麻疹、百日咳などが重篤化して、脳炎になることで知的障がいを引き起こす場合があります。こういった感染症などは、予防接種をすることである程度感染の可能性を下げることもできます。
また、事故や怪我などで頭に外傷を負ったことで、脳機能に影響が出て知的障がいに繋がることや、乳幼児期の栄養失調などの成長環境が知的障がいの原因となることもあります。
- 遺伝的要因
今紹介したように知的障がいの原因は多くあり、一部に遺伝が関わっていることもありますが、「知的障がいは遺伝する」ということではありません。
親が知的障がいの素因を持っていても、子どもに必ず遺伝するわけではありませんし、遺伝したとして発現するとも限りません。
実際遺伝性疾患のほとんどは正常な遺伝子や染色体が突現変異して生じるもので、誰にでも起こり得ることといえます。
知的障がいと発達障がいの違いは?
知的障がいと似た困りごとが見られる障がいとして、発達障がいがあります。ここではまずは発達障がいについて簡単に紹介した後、知的障がいと発達障がいの違いを見ていきます。
発達障がいとは?
発達障がいとは、生まれつきの脳機能の偏りによりさまざまな特性が生じる障がいのことです。特性と周囲の環境とのミスマッチにより、日常生活や社会生活で困りごとが現れるといわれています。発達障がいの中にもいくつか分類があります。
- ASD(自閉スペクトラム症)
- ADHD(注意欠如多動症)
- 学習障がい(LD)/限局性学習症(SLD)
それぞれを簡単に紹介します。
ASD(自閉スペクトラム症)
「対人関係や社会的なやりとりの障がい」「こだわり行動」がある発達障がいです。それまで自閉症、アスペルガー症候群、広汎性発達障がいなど診断名が分かれていたものが、2013年刊行の国際的な診断基準である『DSM-5』では、自閉スペクトラム症という診断名に統一されました。
対人関係や社会的なやりとりの障がいでは、「あいまいな表現の理解が難しい」ことや「相手の立場に立って考えることが苦手」といった特徴があります。
こだわり行動では。「特定の物事に強い興味を示す」「自分のやり方など特定のことにこだわりが強い」という特徴があります。こういった特徴により、人間関係などで困りごとを抱えることがあります。
また、ASD(自閉スペクトラム症)の方には、「まぶしい光が痛く感じられる」「ほかの人が聞こえない音もキャッチしてストレスになる」といった「感覚過敏(または鈍麻)」がある方もいます。
ADHD(注意欠如多動症)
ADHD(注意欠如多動症)は「不注意」「多動性」「衝動性」がある発達障がいです。それぞれは
- 不注意:一つのことに集中が続きづらい
- 多動性:じっとしていることが難しい
- 衝動性:思いついたことをすぐ行動する傾向がある
という特徴があります。
そのことにより、学校生活では「授業に集中できず遅れが出る」「忘れ物・なくしものが多くなる」「思いついたことをすぐ発言してトラブルになる」などの困りごとがよく見られます。
学習障がい(LD)/限局性学習症(SLD)
学習障がい(LD)/限局性学習症(SLD)は「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算・推論する」といった、特定の学習に対して困難がある発達障がいです。
主に「ディスレクシア(読字障がい)」「ディスグラフィア(書字表出障がい)」「ディスカリキュリア(算数障がい)」に分類されています。
ディスレクシア(読字障がい)は文字を読むことへの困難で、「文字が歪んで見える」「重なって見える」などの特徴があります。
ディスグラフィア(書字表出障がい)は文字を書くことへの困難で、「似た字(めとぬなど)を書き間違える」「反転した文字を書く」というった特徴があります。
ディスカリキュリア(算数障がい)は計算や推論することへの困難で、「暗算が困難」「四捨五入などの概念の理解が難しい」などの特徴があります。
知的障がいと発達障がいの違いについて
知的障がいと発達障がいはそれぞれ異なる障がいでありますが、『DSM-5(精神障がいの診断・統計マニュアル第5版』において、知的障がいも発達障がいも同じ神経発達症群(神経発達障がい群)としてまとめられているという共通点もあります。
神経発達症群はしばしば併存する場合もあり、例えばASD(自閉スペクトラム症)の人が知的障がいを持ち合わせることもありますし、逆に知的障がいの人に発達障がいの傾向が見られることもあります。
そのため、困りごとから障がいを判断するのが難しいことがあります。障がいが判明すれば、適切な対策やサポートをしやすくなりますので、子どもの発達で気になることがある場合は自己判断せずに医療機関や、子育ての相談窓口に相談するようにするといいでしょう。
知的障がいの種別や特徴は?
知的障がいにはどんな種別があるのでしょうか?またどのような特徴がみられるのかをまとめてみました。
知的障がいの種類(程度)
知的障がいの程度は「軽度」「中等度」「重度」「最重度」の4つに分けられており、一般的には以下のように標準化された知能検査の結果による「知能水準」と「日常生活能力(自立機能、運動機能、意思交換、移動など)の到達水準」を基に判定を行っています。ただ、知的障がいの手帳判定の基準については地域によって多少異なる場合があります。
知的障がいの特徴
さらに、程度別の特徴を以下にまとめてみました。
軽度
- 就学前に明らかな発達差が分かりにくい
- 学齢期において読字・書字・算数・時間や金銭感覚などを身につけるのが難しい場合がある
- 身のまわりのことはほとんど年齢相応にできる
中等度
- 就学前、言葉の発達はゆっくりである
- 幼児期の療育などで食事・身支度・衛生面などができるようになっていく
- 学齢期においては、コミュニケーション・読字・書字・算数・時間や金銭感覚の理解などの発達はゆっくりで、ある程度の水準にとどまる
重度
- 幼児期では会話するのが難しい
- 学齢期以降、毎日の出来事においては単純な会話と身振りによってコミュニケーションが取れるようになってくる
- 食事・身支度・入浴などいくらか支援が必要
最重度
- 会話によるコミュニケーションなどは難しい
- 自分の欲求や感情などは非言語的なコミュニケーションを通して表現する
- 日常的な身体の世話・健康・安全など多くの面で支援が必要
ただし、一人ひとり成長の仕方や状況は異なるため、一概に上記のような特徴がみられるとは限りません。子どもが知的障がいかもしれないと感じたら、専門機関で相談をしてみましょう。
知的障がいの診断と治療(療育)
知的障がいは乳幼児健診・就学前健診などの発達早期、あるいは小中学校入学前などにその可能性が指摘されることがあります。具体的には以下が診断基準になります。
- 読み・書き・計算など学校での学習や、経験からの学習など知的面での能力が低い
- 社会生活、日常生活において年齢相応に適応する能力が低い
- 発達期(18歳)までに発症していること
なお診断の際には、医療機関にて問診・診察、また行動観察や発達検査・知能検査などを行い、それらを総合的に判断して診断されます。
診断を受けてからできること
専門の相談支援機関に相談する
困った時は家族で抱え込まずに相談機関に相談したり、福祉サービスを上手く利用するのも一つです。
- 各自治体の障がい福祉担当窓口(福祉科など)
- 福祉事務所
- 保健所・保健センター
- 児童発達支援センター
- 子育て支援センター
- 児童相談所 など
ご紹介したのは一例となります。また、相談窓口の名称は自治体ごとに異なりますので、詳しくはお住いの自治体にご確認ください。
療育機関を検討する
児童福祉法では障がいのある子どもを対象に療育を活用できるサービスを整えています。
名称は地域によって異なりますが、児童発達支援センターや児童発達支援事業所などの施設において療育を受けることが可能です。
療育機関では、子どもの発達に詳しい保育士・心理士・作業療法士などの専門家が一人ひとりの課題に合わせた専門的な指導を行っています。
なお診断がなくても、医師の判断や受給者証によって療育機関への通所が可能になります。ただし地域によって違いがありますので、お住まいの自治体に問い合わせてみてください。
知的障がいのある子どもの就学前・就学後の進路
子どもが知的障がいと診断された場合、さまざまな選択肢を知り、それぞれの子どもに適した環境を選ぶことは、子どもが安心して成長していくための重要なポイントとなります。ここでは、知的障がいのある子どもの進路を就学前と就学後に分けてまとめてみました。
就学前
保育園・幼稚園・子ども園
同年齢の子どもたちの中で過ごすことは子どもの発達にも大きく影響を及ぼします。他の子どものやっていることをまねして学習したり、集団生活を通していろいろな経験を重ねることができるでしょう。
ただし、子どもの特性についてはきちんと説明し、適切な配慮をしてもらえるかどうかを確認する必要があります。
そのほか、専門的なトレーニングを行う療育機関に通所するのも一つの選択肢となります。また療育機関では特定の曜日に通いながら、ほかの日はこれらの園に通園する並行通園というシステムもあります。
就学後
小学生〜中学生
就学前には各自治体で就学前相談を実施したり、実際に学校を見学する機会もあります。子どもの学校での生活をイメージしながら、同じような障がいのある子どもの保護者の話なども参考にしつつ選ぶのもおすすめです。
なお通級指導教室は、軽度の知的障がいのみでは利用ができません。軽度の知的障がいに加えて、発達障がいがある場合には、対象となる場合があります。
高校生以降(中学卒業以降)
ほとんどの子どもが進学を選択しています。知的障がいがあっても軽度の場合は、高等学校や高等専修学校を選択する人もいます。どのような進学先があるのか、その一例をご紹介します。
義務教育以降の選択肢については上記以外にもありますが、子どもの状況や将来のこと、またそれぞれの学校の特徴などを踏まえて考えていくことが大切です。
まとめ
知的障がいとは、発達期に生じた知的機能の障がいにより、知的機能と社会生活への適応機能との両面において水準よりも遅れているため、生活が困難になっている状態のことをいいます。また知的障がいには、発達障がいが併存する場合もあります。
子どもの成長で気になる部分があれば、日ごろの様子を書き留めておき、専門機関など適切な相談先に相談したり、診断を受けると良いでしょう。
知的障がいと診断された場合は、子どもが家族と一緒に過ごしながら、充実した生活ができるように各自治体などの支援サービスを活用することができます。また、知的障がいに関する理解を深め、それぞれの子どもに合った支援や進学先などの情報収集を行い、将来について考えることも大切です。
参考
知的障がいとは?種類や特徴、原因、発達障がいとの違いをわかりやすく解説
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