2024.04.01

発達性協調運動障がい(DCD)とは?不器用なのには理由がある 理解されにくい障がい

発達性協調運動障がい(DCD)に関する理解が深まるにつれて、不器用さや運動の困難さが、この障がいの重要な特徴として認識されるようになりました。洋服のボタンかけが苦手だったり、字がマス目からはみ出すことがあったり、リコーダーを上手に吹けなかったり、ボールをうまく投げられなかったりするのは、彼らの特性のひとつであり、生きづらさの原因でもあります。

一般的には、友達関係や学習の場面などが注目されることが多い中で、身体の使い方や運動の難しさは見過ごされがちでしたが、DCDの重要性が認識されるにつれ、これらの側面にも注目が集まっています。

 

発達性協調運動障がい(DCD)とは

発達性協調運動障がい(DCD)は、「協調」という脳の機能に問題があるため、運動や動作にぎこちなさが現れ、日常生活に支障をきたす発達障がいです。

この「協調」とは、身体の外部や内部からの多数の情報を統合し、運動企図や計画に基づいて運動や動作を行い、さらにその結果を考慮して微調整する脳の機能です。

 

日常生活の様々な場面で現れる

DCDの子どもたちは、体育の授業やスポーツだけでなく、靴ひもを結ぶ、箸やナイフ・フォークを使う、字を書く、はさみや定規・コンパスなどの文具・道具を使用する、リコーダー・鍵盤などの楽器を操作する、正確さを要求される理科実験を行うなど、日常生活や学校生活のさまざまな局面で不器用さが現れます。

DCDという診断名は1987年にはアメリカの精神医学会の診断基準であるDSMに登場しましたが、日本で広く知られるようになったのは、2013年に日本小児精神神経学会が学術集会のメインテーマとして取り上げてからと言われています。その後、2017年には日本DCD学会が設立されましたが、専門家の間でも認知度はまだまだ十分ではないとされています。

 

高い頻度でみられる障がい

最新の精神疾患の国際的な診断基準DSM-5-TRによれば、DCDの発生頻度は子どもの約5~8%と、AD/HD(注意欠如・多動性障がい)の約7.2%と同じぐらいであり、ASD(自閉症スペクトラム障がい)の約1~2%よりもはるかに高い頻度でみられます。

また、他の発達障がいとの併存率も高く、ASDの約80%、AD/HDの約30~50%、SLD(限局性学習障がい)の約50%に併存が見られ、他の発達障がいとも深く関係します。

 

重要なのは脳の機能である「協調」

一般的に、運動の不器用さは「身体の能力」と考えられがちですが、DCDの理解と支援のキーワードとして重要なのは脳の機能である「協調」です。武庫川女子大学の中井昭夫教授は、長年にわたりDCDの診療や研究、啓発活動を行ってきました。彼は日本DCD学会の設立に参加し、理事として活動し、第1回学術集会の大会長を務めました。

また、国際DCD研究・支援学会(ISRA-DCD)日本代表委員も務め、協調や感覚、睡眠など身体性と発達の関係を研究し、発達障がいを理解し、支援する上での重要性を強調しています。胎児の頃から環境との相互作用や感覚運動経験を通じて脳の発達が形成され、協調の発達は他の発達障がいの中核症状にも深く関わっていると指摘しています。

早期の気づきと適切なアセスメントに基づく包括的支援は、協調の問題だけでなく、その他の特性によるさまざまな生きづらさを軽減できる可能性があると述べています。

 

有効な療育プログラムの開発、エビデンスの蓄積

療育の現場では、以前から発達障がいの子どもたちの中に極端に不器用な子どもが存在していましたが、そのことがDCDという理解に結びついていなかったため、十分な対応が取られていませんでした。しかし、最近では介入効果に関する研究が進み、有効な療育プログラムが開発され、エビデンスも蓄積され始めています。

海外では、幼児や低学年の児童の身体活動を促すことによって、AD/HDの子どもの症状が改善されたという研究も報告されています。これらの知見を活用し、包括的な支援プログラムを構築することが、子どもの生きづらさを軽減するための鍵となります。

大人になっても続く課題

DCDの課題は、子ども時代だけでなく大人になっても続きます。手先の不器用さや運動の苦手さは、周囲の大人からは親の過保護な育て方や才能の問題、努力不足と誤解されがちです。

しかし、実際にはDCDは脳の協調機能に起因する障がいであり、練習や努力だけでは解決できない問題です。中井さんは、「協調の発達は子どもの認知、社会性、情緒の発達、学習とも密接に関係していることから、DCDは身体活動の苦手意識や参加機会の減少、自尊感情や自己肯定感の低下、怠学、いじめ、不登校など情緒的・行動的問題につながってしまっている」と指摘しています。

大人になると運動の機会は減りますが、ひげ剃りや化粧、料理や家事、自動車運転、タイピングや書字など、協調が必要な活動が生じます。これらの課題が続くと、精神障がいや生活習慣病、心血管障がいなどのリスクが高まる可能性があります。

DCDは子ども時代だけでなく、大人になってからも生命予後に影響を与える継続的な課題を抱えていることが重要です。そのため、適切な支援や理解が必要です。

 

適切な保育・教育や療育などのサポート

発達の速度や道筋は個々に異なります。DCDの子どもに必要なのは、まず、DCD特性への気づきと理解です。そして、なぜ、どこで、どうして躓いているのかというアセスメントと、それらに基づくていねいな説明による適切な保育・教育や療育などのサポート、合理的配慮が必要です。

「誤解している人はまだまだ多いと思いますが、DCDの子どもたちは怠けているわけでもなく、やる気が欠けているわけでもなく、ふざけているわけでもないのです。発達障がい特性のある子どもたちは、発達の速度やその道筋が定型発達の子どもたちとは少し違っているだけなのです」と中井さんは語ります。

 

大変な努力や時間を要することが多い

DCDのある子どもは、定型発達の子どもが難なくやれることでも、大変な努力や時間を要することが多く、周囲にも理解されにくいという現実があります。多くの人は普段、ちょっとした動作を行う際に「この関節をこのぐらい曲げて、この筋肉にこれぐらい力を入れよう」「上下左右の手足の動きを協調させよう」といったことを意識していないため、協調という脳機能の発達に問題があるDCDの子どもたちについての理解や想像がしにくいのです。

しかし、DCDの子どもたちは身体を動かすことが嫌いなわけではなく、発達しないわけでもないと中井さんは強調します。

「本人のやりたいこと、なりたい自分などに焦点を当てた課題を設定し、適切なアセスメントと、特性に合わせたサポートがあれば、時間はかかることもありますが、徐々に上達していくのです」と中井さんは述べます。

 

よい教育環境を整えていくための重要な視点

DCDの子どもに関する話を聞いていると、身体を動かすことは生命活動そのものであり、あらゆる子どもの成長にとって必要不可欠であることがよく理解できます。粗大運動だけでなく、書字のような手先を使用する微細運動にも関わり、体育だけでなく、教科学習にも大きな影響を与えます。協調運動への理解は、発達障がいの子どもだけでなく、すべての子どもたちにとって、よりよい教育環境を整えていくための重要な視点を提供しています。

発達性協調運動障がい(DCD):見えにくいが深刻な障がい

発達性協調運動障がい(Developmental Coordination Disorder、DCD)は、日常生活における運動や動作に問題があり、子供や成人の社会的、学習的、心理的な側面に影響を与える障がいです。この障がいは、一般的な理解や認識が難しく、見逃されがちでありながら、その影響は深刻です。以下では、DCDについてその特徴、診断、影響、そして支援について解説します。

 

DCDの特徴

DCDを持つ人々は、運動や動作を行う際に不器用さやぎこちなさを示します。具体的な特徴としては、次のような点が挙げられます。

 

  • 手先の不器用さ:細かい作業や書字などの動作が難しい。
  • 運動のコーディネーションの困難:身体の動きをまとめ上げる能力が低く、スポーツや体育の授業での運動に苦労する。姿勢やバランスの維持が難しい。
  • 感覚統合の問題:外部からの刺激を適切に処理することが難しい場合がある。

 

これらの特徴は、日常生活のさまざまな場面で困難を引き起こします。

 

DCDの診断と影響

DCDの診断は、専門家による詳細な評価に基づいて行われます。一般的に、DCDの診断には次のような要素が含まれます。

  • 運動能力の遅れや不器用さの評価
  • 運動機能の問題が日常生活にどのように影響しているかの評価
  • 他の発達障がいや身体的な問題との区別

 

DCDは、個々の人に異なる影響を与えますが、以下のような側面に影響を及ぼす可能性があります。

  • 学業成績の低下
  • 社会的な孤立や不安
  • 自尊心や自己肯定感の低下
  • 日常生活での独立性の低下
  • 心理的なストレスやうつ病などの精神的な問題

 

DCDの支援

DCDを持つ人々に対する支援は、個々のニーズに応じて様々です。適切な支援は、次のような点に焦点を当てます。

 

  • 個別の治療プログラム

物理療法や作業療法などの専門的な支援を提供することで、運動や動作の改善を図ります。

 

  • 教育的なサポート

学校や教育機関での特別支援や適応教育プログラムを提供し、学習や社会的なスキルの向上をサポートします。

 

  • 環境の適応

日常生活や学習環境を適応させることで、個々のニーズに合ったサポートを提供します。

 

まとめ

DCDの子どもたちにとって適切な支援が与えられることが重要です。早期の発見と適切な支援によって、彼らの生活の質を向上させることができます。この支援には、個別のニーズに合わせた療育や教育、家族や教育関係者との協力が欠かせません。また、DCDの認知度向上や理解の促進も必要です。彼らが生きやすい社会を築くために、DCDについての正確な情報を広め、支援体制を整えていくことが重要です。

 

参考

発達性協調運動障がい(DCD)(1)“不器用”なのには理由がある ~見えているのに理解されにくい発達障がい - 記事 | NHK ハートネット

関連情報

みんなの障がいへ掲載希望の⽅

みんなの障がいについて、詳しく知りたい方は、
まずはお気軽に資料請求・ご連絡ください。

施設掲載に関するご案内