2024.02.22

大人の発達障がい2:ASD(自閉スペクトラム症)

大人になってから診断される発達障がいの向き合い方や治療法などをご紹介します。

後編(本記事)はASD(自閉スペクトラム症)についてです。前編のADHD(注意欠如・多動症)についてもぜひご覧ください。

 

大人の発達障がい: 個性の多様性と新たな挑戦

「発達障がい」とは、生まれながらに脳機能に偏りがみられる、さまざまな疾患の総称です。例えば、「ADHD(注意欠如・多動症)」や「ASD(自閉スペクトラム症)」、「LD(限局性学習障がい)」などが含まれます

これらの特性は、単なる障がいや疾患ではなく、むしろ個々の特色や個性としてとらえられるべきものです。近年では、これらの特性が子どもだけでなく大人にも影響を与えることが注目されています。

しかし、発達障がいは生まれつきのものであり、大人になってから急に発症するわけではありません。むしろ、大人になるにつれてその特性が浮き彫りになり、適切な支援や理解がますます重要になっています

 

特性が障がいとして浮き彫りに

発達障がいがあっても、子どもの頃はそれほど目立たなかったり、サポートがあったりして、それほど大きな問題にはならないことがあります。

しかし、大人になってからは、仕事やビジネスの場面で多くの困難が生じることがあります。特に、多様な作業をこなす必要があるビジネス環境では、その特性が障がいとして浮き彫りになることがあります

自らの特性に気付かず、周囲からの適切なサポートも得られない場合、トラブルや深刻な問題が生じることもあります。したがって、本人が自らの特性を理解し、適切に対処することはもちろんのこと、周囲の理解とサポートが重要です

ASD(自閉スペクトラム症)とは?

ASD(自閉スペクトラム症)は、成人の1%程度に見られる疾患であり、一般的に男性よりも女性に多くみられます

ASDには、知的障害を伴う重症なものから軽度なものまで様々なレベルがありますが、大人で問題となるのは、ほとんどが知的障害のない軽度のもので、「アスペルガー症候群」も含まれます。

 

ASDの特徴と影響

ASDは、社会的な相互作用やコミュニケーション、興味・活動の制限、反復的な行動・興味に関する特徴を示します

これにより、日常生活や社会生活においてさまざまな困難が生じることがあります。たとえば、人間関係の構築や維持、適切なコミュニケーションの取り方、柔軟な行動の展開などが難しい場合があります。

 

ASDの診断と支援

ASDの診断は、専門の医師や心理学者によって行われます。診断後は、個々のニーズに応じたサポートや介入が重要です。

カウンセリングや療法を通じて、社会的なスキルや自己認識を向上させ、日常生活や仕事での適応力を高めることが目指されます

 

ASDへの理解と支援

ASDへの理解と適切な支援が、患者やその家族にとって重要です。教育や職場環境の調整、コミュニケーションのサポート、社会参加の促進など、多角的なアプローチが求められます

また、一般の人々に対する情報提供や啓発活動も、ASDに対する理解と共生を促進するために重要です。

 

特性1:コミュニケーションの困難

ASDの大きな特性として、人との関わり方に困難が生じます。多くの場合、人に対する関心が薄く、コミュニケーションの円滑な進行が難しいです

特に、人と目を合わせることが苦手であり、婉曲な言い回しを理解することが難しく、相手の表情や身振り手振りを適切に読み取ることもできません。

 

コミュニケーションの課題

「場の空気が読めない」「人との距離感がつかめない」といった状況が生じ、周囲とのコミュニケーションが困難になることがあります。特に職場などでのコミュニケーションにおいて、孤立してしまうことがあります。

 

コミュニケーション上の特性

  • 他人に興味がない
  • 興味や関心が無いことには参加しない
  • 人の話を聞かず、自分が関心のあることだけをしゃべり続ける

 

これらの特性は、社会的な相互作用や人間関係の構築において困難を引き起こす可能性があります。適切なサポートと理解を通じて、コミュニケーションスキルの向上や社会参加の促進が重要です。

 

特性2:反復的な行動とこだわり

ASDの特性の一つとして、変化に対する不安や興味の強いこだわりが挙げられます。自分の興味がある領域に強い関心を示し、特定の趣味や関心事に没頭することがあります。

これは、子どもの頃から現れることが多く、大人になっても持続する傾向があります。また、日々の行動にも自分なりのルールや習慣があり、同じことを同じ順番で繰り返すことに強いこだわりを示します。

 

行動パターンの特徴

  • 同じ習慣にこだわる
  • 毎日同じ順番でないと気が済まない
  • 自分なりのルール(食べる順、道順など)がある

 

これらの特性は、日常生活や社会的な活動において、柔軟性や適応能力の不足を引き起こす可能性があります。支援者や関係者は、個々のニーズや好みに対応したアプローチを検討し、安定感や安心感を提供することが重要です。

 

特性3:感覚過敏または鈍感

ASDでは、音や光など特定の刺激に敏感で、日常生活に支障をきたすことがよくあります。個々の人によって異なりますが、苦手な刺激の種類や程度は様々です。

例えば、周囲の話し声や店内のBGM、赤ちゃんの泣き声、掃除機や換気扇の音などが挙げられます。また、蛍光灯やLED照明、太陽光、さらにはパソコンやスマホの画面の光なども、苦手な刺激として感じることがあります。

 

感覚過敏と鈍感の両面

一方で、感覚が鈍感な場合もあります。痛みや空腹に気付かない、あるいは感覚の遅れが見られることもあります。これらの感覚の変化は、日常生活や社会的な活動において、さまざまな困難をもたらす可能性があります。

 

具体的な特性

  • 肌ざわりが気になり、同じシャツだけを着る
  • 特定の高音が苦手
  • 芳香剤が嫌でトイレを使えない
  • 強い光が苦手で帽子とサングラスをつける
  • 光が突然当たるとパニックになる

 

これらの特性は、個々のニーズに合わせた環境の調整や支援が重要です。感覚過敏や鈍感に対する理解と適切な対処法を提供することで、日常生活の質を向上させることができます。

 

特性4:感情の制御困難と自傷行為

感情のコントロールが苦手で、予期せぬ出来事や思い通りにならないことがあると、暴言を吐いたり、かんしゃくを起こしたりすることがあります

特にストレスや刺激が強い場面で、感情が高ぶってコントロールが難しくなることがあります。

 

自傷行為の発現

壁に頭を打ちつけたり、皮膚をかきむしったりするなどの自傷行為が見られることがあります。これは、感情の不安定さやストレスによって引き起こされる場合があります。

感覚過敏によるイライラや不快感が積み重なり、自傷行為が発現することもあります。

 

過去の記憶とパニック

ASDの人の中には、非常に高い記憶力を持つ人もいます。そのため、過去の嫌な記憶が頻繁に思い出され、パニック状態に陥ることがあります。このような状況下では、感情のコントロールがますます困難になることがあります。

 

具体的な行動特性

  • かんしゃくを起こす
  • 自分の肌をかきむしる
  • 過去の嫌な記憶を頻繁に思い出してパニックになる
  • 壁に頭を打ちつける

 

これらの特性は、個々のニーズに合わせた支援や対処法が必要であり、感情の安定やストレス管理のサポートが重要です。また、感情や行動に理解と寛容さを示すことが、ASDの人々とのコミュニケーションや関係の構築にとって不可欠です。

 

特性 5:言語の特異性

大人のASDではそれほど多くありませんが、独特の話し方や言葉の使い方がみられることがあります。この特性は、個人のコミュニケーションスタイルや認知パターンによって影響を受けます。

 

話し方の特徴

  • 抑揚のない調子で話す
  • 自分特有の言葉を使う
  • 必要以上に大きな声で話す

 

ASDの人は、抑揚や表情豊かな話し方が苦手な場合があります。そのため、話し方には一般的なパターンとは異なる特徴が見られることがあります。また、自分だけが理解する独自の言葉や語彙を使用することもあります。

 

コミュニケーションへの影響

この特性は、ASDの人が他者とのコミュニケーションで理解されにくい場合があることを意味します。周囲の人々にとっては、この特性を理解し、受け入れることが重要です。

対話や意思疎通が円滑に行われるためには、双方が互いのコミュニケーションスタイルに適応することが求められます。

 

仕事や私生活での対処法

ケアレスミスが多い人は…

  • メモを取る習慣を身につける
  • メモを書いた後は、1日に2回以上見返す

 

デスク周りのものをよく無くす人は…

  • ものの置き場所を決めて、使ったら元の場所に戻す
  • デスク周りのアイテムにはラベルを貼る

 

私物をよく無くす人は…

  • バッグインバッグを使用して、必要なものをまとめて携行する
  • バッグの中身を1日に1回確認する

 

焦ってしまい、ミスが多くなる人へは…

  • 冷静さを保つためのサポートを提供する
  • 叱責や非難ではなく、落ち着くように声をかける

まとめ

これらの対処法は、個々のニーズや状況に合わせて調整されるものですが、周囲の理解とサポートがあれば、日常の課題に対処しやすくなるため、周囲の人へのアドバイスやサポートをする際にぜひ参考にしてみてください。

 

参考

専門医が答える「大人の発達障害」~周囲ができるサポートとは【別冊NHKきょうの健康】 | NHK出版デジタルマガジン

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