大人の発達障がい1:ADHD(注意欠如・多動症)
大人になってから診断される発達障がいの向き合い方や治療法などを二本に分けてご紹介します。
前編(本記事)はADHD(注意欠如・多動症)について、後編はASD(自閉スペクトラム症)についてになります。ぜひ後編もご覧ください。
大人の発達障がい: 個性の多様性と新たな挑戦
「発達障がい」とは、生まれながらに脳機能に偏りがみられる、さまざまな疾患の総称です。例えば、「ADHD(注意欠如・多動症)」や「ASD(自閉スペクトラム症)」、「LD(限局性学習障がい)」などが含まれます。
これらの特性は、単なる障がいや疾患ではなく、むしろ個々の特色や個性としてとらえられるべきものです。近年では、これらの特性が子どもだけでなく大人にも影響を与えることが注目されています。
しかし、発達障がいは生まれつきのものであり、大人になってから急に発症するわけではありません。むしろ、大人になるにつれてその特性が浮き彫りになり、適切な支援や理解がますます重要になっています。
特性が障がいとして浮き彫りに
発達障がいがあっても、子どもの頃はそれほど目立たなかったり、サポートがあったりして、それほど大きな問題にはならないことがあります。
しかし、大人になってからは、仕事やビジネスの場面で多くの困難が生じることがあります。特に、多様な作業をこなす必要があるビジネス環境では、その特性が障がいとして浮き彫りになることがあります。
自らの特性に気付かず、周囲からの適切なサポートも得られない場合、トラブルや深刻な問題が生じることもあります。したがって、本人が自らの特性を理解し、適切に対処することはもちろんのこと、周囲の理解とサポートが重要です。
ADHD(注意欠如・多動症)とは?
ADHD(注意欠如・多動症)は、子どもでは4〜8%、大人では3〜4%にみられるとされています。成人における頻度の低さは、特性が消えたわけではなく、むしろ本人が適切に対処する能力を身につけた結果と考えられます。
ADHDの基本的な特性には、「不注意」「衝動性」「多動性」の3つがありますが、それぞれの現れ方や程度は個人によって異なります。また、ASDとの併存例も珍しくありません。
特性1:不注意の影響と生活への波及
集中力や注意力を持続させることが難しい 「不注意」とは、物事に対して適切な注意を向けることが難しい、集中力が続かない状態を指します。
例えば、上司が話をしていても、頭の中でいろいろなことが想起されて、集中して聞くことができません。また、財布やスマートフォンなどをふとした時に置きっぱなしにして、そのこと自体を忘れてしまうため、忘れ物や無くし物が多く見られます。
「不注意」から起こる出来事
- 口頭での指示を覚えられない
- 約束を破ってしまう
- 忘れ物・無くし物が多い
- 混乱しやすい
この「不注意」という特性は、日常生活にさまざまな影響を与えます。たとえば、仕事や学校でのミーティングや授業中に、指示を理解できなかったり、話についていけなかったりすることがあります。
これにより、誤解やミスを引き起こす可能性が高まります。また、家庭生活でも、約束を守れずに人々を失望させたり、必要なものを忘れてしまうことでストレスを感じることがあります。
時間管理や計画立案にも影響を及ぼす
さらに、不注意な特性は時間管理や計画立案にも影響を及ぼします。締め切りを守ることが難しくなり、作業を遅らせる原因になります。
また、優先順位をつけることが難しいため、複数の仕事を同時にこなすことができません。これらのことから、「仕事が遅い」といった問題が生じることがあります。
不注意な特性は、個人の生活や仕事において深刻な問題を引き起こす可能性があります。しかし、理解とサポートを受けることで、これらの問題に対処することができます。
特性2:衝動的な行動とその影響
「衝動性」とは、待つことや我慢することが苦手で、思いついたことをすぐに行動に移しやすいという特性です。自分だけが一方的にしゃべり続けたり、相手の話を聞かずに相手が話している途中で話し始めてしまったりします。
頭の中に浮かんだことを次々に話し続けるため、話題が行ったり来たりで、論点がずれていても分かりません。上司や先輩への非難など、通常は本人の前では言わないようなことも、その場ですぐ話してしまい相手を怒らせてしまうこともあります。
衝動性の影響
衝動性は、日常生活にさまざまな影響を与えます。たとえば、会話中に感情が高ぶってしまい、突然怒鳴ったりすることがあります。
これは周囲の人を驚かせ、関係に摩擦を生じることがあります。また、買い物や喫煙、過食、カフェイン摂取などに対する衝動を抑えられず、結果として健康や財布に影響を与えることもあります。
「衝動性」から起こるさまざまな特性
- 衝動買いをしてしまう
- 相手がまだ話しているのに話し始める
- 思うままに話してしまう
- 興味をもったことに没頭する
これらの特性は、個人の行動や人間関係に深刻な影響を及ぼす可能性があります。しかし、理解と適切な支援を受けることで、これらの問題に対処することができます。
特性3:多動性と意識の乱れ
「多動性」は、特に子どものころに目立つ特性です。じっとしていることが苦手で、貧乏ゆすりをする、手や足をもぞもぞ動かす、椅子をガタガタ動かすなどの行動がみられます。
しかし、年齢とともに本人が気をつけるようになるため、大人ではあまり目立たないこともあります。
マインドワンダリングとの関連
大人にもよくみられる「マインドワンダリング」、これは今やるべき課題に注意が定まらず、全く無関係のことに、あれこれ思いを巡らせている状態を指します。
"意識の多動"とも呼ばれ、発達障がいのない人にもありますが、ADHDでは高頻度にみられます。この状態は、作業効率の低下や、集中力の欠如につながることがあります。
また、何かしていないと落ち着かないため、アルコールや薬物に依存してしまうこともあります。
多動性から生じる特性
- 見ていることと頭の中で考えていることが違う(マインドワンダリング)
- 貧乏ゆすりなど目的のない動きをする
- しゃべりすぎる
- アルコールや薬物に依存する
これらの特性は、個人の日常生活や社会生活に影響を与える可能性があります。しかし、適切な理解と支援を受けることで、これらの問題に対処することが可能です。
ADHDの対処法
- 医療的アプローチ
医師の指導の下、適切な薬物療法を受ける。適切な薬物の種類と投与量を決定するために、医師との相談が必要。
- カウンセリングと心理療法
専門のカウンセラーや心理療法士によるセラピーを受けることで、感情の管理やストレスの軽減、行動の調整を行う。
- 教育的アプローチ
学校や職場でのサポートを受ける。個々のニーズに合わせた教育プランや働き方の調整が重要。
- 環境の調整
外部環境を整えることで、注意力を向上させる。静かな作業空間やタスク管理ツールの利用が有効。
- 日常生活の改善
健康的なライフスタイルの確立や適切な睡眠、バランスの取れた食事、運動などを行い、症状の軽減を図る。
まとめ
ADHDの特性は多様であり、不注意、衝動性、多動性が挙げられます。これらの特性は、日常生活や仕事に深刻な影響を与える可能性がありますが、適切な理解とサポートを受けることで、問題に対処することができます。
個々の特性に焦点を当て、効果的なアプローチを行うことが重要です。
参考